ドラゴンの卵を探せ 8
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いつも、ありがとうございます。
チルとチロがドラゴンの国に流れるささやかな川から水の精霊王様がいる精霊界へ渡って、ちゃんと水の精霊王様を呼んできてくれた。
ただ……水の精霊王様のご機嫌がすこぶる悪いけど。
「んゆ?」
いつもに増して目つきを鋭くしてぼくらを睥睨した水の精霊王様は、ぺいっと何かを投げ捨てた。
「わわーっ! 水の、大丈夫か?」
緑の髪のお兄さんがびっくりして、その投げられた何かに走り寄っていく。
「おい、ヒュー。あの人……」
「チルとチロの助力をしてくれていたドラゴンだと思う」
兄様とアリスターが顔を寄せてコソコソとお話していたのは、水の精霊王様がぺいっと投げられてボチャンと川に沈んだのが、ドラゴンの水色のお姉さんだったからだ。
「なんだ? どうした? ドラゴンと水精霊って仲が悪かったか?」
「そんな記憶はないけど?」
白銀と紫紺もお行儀よく座ったまま、目だけクワッと見開いて、ずぶ濡れのお姉さんと水の精霊王様を見比べている。
「俺様は水と相性が悪いから、隠れているぞ」
白銀の背中に乗っていた真紅は子どもの姿からパッと赤い小鳥の姿に変え、ペタッと白銀の背中に張り付いた。
「おい、どういうつもりだ!」
ビシッと水の精霊王様に指名された白銀は目を白黒とさせる。
「な、なんのことだ?」
「お前たちが我を呼び出したのだろう? 妖精はまだしも、なぜドラゴンなどという面倒なものまで寄越したっ!」
水の精霊王様、元々ニコニコとした精霊王様じゃないけど、こんなにプンスコ怒っているのも珍しい。
いったい何があったんだろう?
チルとチロの力だけでは妖精の輪を作り精霊界に渡ることができないので、不足している水量を補うために水属性のドラゴンさんが協力してくれたはずですが?
うん、それは、ぼくたちも知っているよね。
そして、見事妖精の輪を作り出し精霊界へと渡ったチルとチロ……はよかったが、水のドラゴンさんも一緒に精霊界へと渡ってしまった。
「ああ……なんか、川の水がものすごくトルネードしていたもんな……」
「そうね。チルとチロにしては莫大な量の水を暴走させていたからどうしたのかしら? と思っていたけど、あれ、ドラゴンのやらかしだったのね」
腕を組んで眉を吊り上げて怒っている精霊王様の足元には、びしょびしょに濡れた女の人が子どものように泣いています。
「そうだ。しかも、ドラゴンの姿で我の世界に飛び込んできて、興奮したままあちこちと飛び回ったのだ」
飛び回っても問題のないチビ妖精ならまだしも、体の大きいドラゴンさんがヒャッハーな気分で飛び回ったら……被害は甚大です。
「まったくだ。木は折れる花は散る。しかもこれから生まれるはずの妖精の卵さえ消滅させたのだから」
イラッときた水の精霊王様は女の人の耳をぎゅむと抓って上に引っ張った。
「痛いたーいっ。ごめんなさい、ごめんなさい」
わーんとさらに泣き叫ぶドラゴンさんに緑の髪のお兄さんは困り果て、赤い髪のおじさんは眉間にシワを寄せて黙っていた。
「ヒュー。この状態で精霊王様に風の精霊王様のこと頼めるのか?」
「う、うーん。難しいかもね……」
アリスターと兄様が顔を見合わせてむぐぐと困惑しています。
ここは、ぼくの出番ではないでしょうか?
とてとてと水の精霊王様のところまで歩いていって……川の中へは入れないから、ちょっと離れた場所から声をかけます。
「せーれーおーさまー」
「なんだ童。お前もいたのか」
います、います。
白銀と紫紺がいれば、もちろんぼくもいます!
「おねがい、あるのー」
「……なんだ?」
なんで水の精霊王様はぼくの顔を嫌そうに見るのだろう?
ぼく、何か悪いことしましたか?
「かぜのせーれーおーさま、つかまえてー」
「なに!」
ぼくのお願いの内容に驚いたのか、水の精霊王様の後ろで川の水が海の波のようにザッパーンと寄せて辺り一面に降り注ぎます。
「わーん、また濡れたーっ」
川の水をまたもや頭から被ったドラゴンのお姉さんの号泣は止まらないし、ぼくもちょっびり濡れちゃった……しょぼん。
改めて詳しい話を兄様が水の精霊王様にしました。
チロは大好きな兄様の顔と尊敬している水の精霊王様の顔を見るのに忙しく顔を左右に動かしている。
チルは自由に水の精霊王様の周りを飛び回っているよ。
「ふむ、わかった。我は風の精霊王を捕まえて、風精霊たちの暴走を止めればいいのだな。ま、何人か水精霊を連れてきて風精霊を抑え込もう」
パチンと精霊王様が指を鳴らすと、川の水がピチョンと跳ねてクルクルと周り人の姿へと変わっていく。
ぼくたちにニコッと笑いかけると、お空を泳ぐように四方へと去って行ってしまった。
「しかし、奴が神獣エンシェントドラゴンのところへ入り浸っていたとは……」
水の精霊王様だけじゃなく、火の精霊王様も土の精霊王様もみんなが探していた風の精霊王様は、神獣エンシェントドラゴンのところにいた。
結構、前から気軽に遊びに来ては長々と滞在し、飽きたらどこかへと飛び去っていくが、しばらくすると戻ってきているようだったと赤い髪のおじさんが話すと、水の精霊王様は鼻の頭にシワを寄せた。
「まったく、あいつは……」
「それで、お前だけであいつのところへ行けそうなのか? 無理なら瑠璃でも呼んでやるぞ」
白銀が意地悪そうに口端を歪めて言えば、水の精霊王様はフンッと鼻を鳴らす。
「構うな。むしろ、力を失った狼風情にドラゴンの卵を取り戻すことができるのか?」
「なにっ!」
「めーのっ!」
パチンと白銀の鼻の頭を軽く叩いて叱るぼくに、白銀はへにょりと耳を垂らした。
「ばかね。精霊王と張り合ってどうするのよ。アタシたちはドラゴンの卵を見つけて、プリシラの父親を連れて帰るのが最優先なのよ」
紫紺にもバシッとお尻を叩かれた白銀はすごすごと後ろへ下がっていった。
あぶない、あぶない。
ここで水の精霊王様と白銀が喧嘩したら、風の精霊王様を捕まえることができなくて、風精霊たちをとめられなくなっちゃうもん。
「我はもう行くぞ。あとは任せた」
水の精霊王様はつまらなさそうに言い置くと、スウーッと川の流れに消えていった。
「んゆ?」
もしかして、水の精霊王様は白銀とじゃれていたかったのかな? なんだ、仲良しなんだね!
「くふふふ」
「どうしたの、レン」
「にいたま、みんな、なかよち! ぼく、うれちい」
「? そうだね。みんな、仲良しだね」
兄様がぼくの頭を撫でてくれるから、もっと嬉しくなって笑みがこぼれ落ちた。
「……仲良しって……レン、お前にはアレが仲良しに見えるのか……」
アリスターがガックリと疲れているみたいだけど、足元でディディが心配そうに見つめているよ。
ふふふ、アリスターとディディも仲良しだね!
『レーン。まりょくちょーだい』
「あい」
チルが差し出したぼくの人差し指からちゅーちゅーと魔力を吸っている。
うん、ぼくとチルも仲良しだよ!