ドラゴンの卵を探せ 4
真紅の場の空気をまったく読まない言葉に、一同が冷たい目で真紅を見る。
あの、緑の髪のお兄さんでさえ、キッと厳しい視線を向けている。
でも、真紅にはまったく堪えていないから、紫紺がガブッと右手を噛んでいた。
「す……すみません。もう大丈夫です」
お婆さんに淹れてもらった緑茶を一口啜り、濡らしたタオルで目元を押さえるブランドンさん。
「僕たちはある事情でここを訪れたんですが、すべてが終わったらブリリアント王国のブルーベル辺境伯領地に帰ります。できればブランドンさんも一緒に。プリシラが待っていますし、海にいるご家族も」
「……そうですよね。でも僕を追っている奴らがもし家族に危害を加えたら思うと……」
ブランドンさんは自分の体を両腕で抱きしめて小刻みに震え出した。
「大丈夫よ。海だったら瑠璃がいるし。ブループールにはアタシたちがいるから!」
「ああ。変な奴らが襲ってきても返り討ちだな」
紫紺と白銀の頼もしい言葉に、ぼくもえっへんと胸を反らしました。
「……瑠璃とは? それに……猫と犬が喋っている?」
ポタッと手に持っていたタオルを落として、驚きに目が見開かれていくブランドンさんですが、驚くのはまだ早いのです。
「ぼくのおともだち! しろがね、しこん、しんく!」
「レン。お名前言えて偉いねー」
「ヒュー! 甘やかせ過ぎだ。名前だけ言ってもわからないだろうがっ!」
んゆ? 兄様とアリスターが口喧嘩を始めちゃったよ?
ぼくのせい? いやいや、まさかね。
「ブランドン。いいですか、正気を保つのです。こちらにいらっしゃるのは……神獣様と聖獣様なのです!」
緑の髪のお兄さんがババーンと紹介してくれたけど、もっと詳しく紹介してほしーいなぁ。
「コホン。アタシは聖獣レオノワール。名前は紫紺よ」
「俺は神獣フェンリルだ。名前は白銀」
「ふふーん! 俺様は今は人の姿だか、正体は……神獣フェニックス様だっ!」
「…………へ?」
「んっと、るりはうみのしゅごしゃでー。せいじゅうだよ」
「海の守護者……それはまさか、聖獣リヴァイアサン様では?」
「うん! おなまえは、るり。よろちくね」
白銀たちが神獣聖獣だと知らなかったブランドンさんのショックも収まり、改めてお婆さんが淹れ直してくれた緑茶を飲みます。
アチチチッ。
「坊や、これもお食べ」
お皿に盛られて出てきたのは茶色の薄いお菓子……お煎餅かな?
「ありがちょーごじゃいます」
一枚、手に取ってパクリ。
うん、お醤油味のお煎餅です。
「お、おいしいの?」
兄様が手にお煎餅を持ったまま、恐々とぼくに味を確認してくるけど、大丈夫、おいしいです。
兄様とアリスターはゴクリと唾を飲み込んだあと、目を瞑って齧っていました。
「「あ、おいしい」」
うんうん、よかったです。
「ブランドンさんは、悪い奴らが自分を追いかけてきていた理由はわかっているんですか?」
兄様がお煎餅で汚れた指をハンカチで拭きながら、ブランドンさんに問いかける。
「ええ、たぶんですが。調べていながらも半信半疑だったのですが……」
ブランドンさんはテーブルの上にコトリと小さな板が二枚重なったモノを置いた。
「これは?」
「……たぶん、どこかの種族、又は民族が祭祀に使っていた楽器だと思うのですが……魔道具の一種です」
「魔道具……」
ぼくはその板をじっくりと観察する。
板は長方形で短いほうに穴を開けて紐で括ってある。
重なり合った内側はほんの少し削ってあって縁だけがピッタリ合うように細工されている。
ふむふむ……これって楽器なの?
カチカチと板を触ると乾いた音がする……カチカチ。
「あっ!」
これ、カスタネットじゃないかな?
「ふふふ。これはね、この紐に指を通して上の板を叩くと音がするんだ」
ブランドンさんが紐に指を通して手のひらに板を乗せると、もう片方の手でタンタンとリズムよく叩く。
「ふわあああっ」
タンタンと叩くとカチカチと板が音を奏でる。
「笛と鈴と他にもいくつかの楽器を見つけることができたのですが……。奴らに奪われてしまったものもあります」
んゆ?
笛? 鈴? なんか、ぼくたち魔道具の楽器でその二つに覚えがあるような?
「もしかしてそれは、キャロルが捕まったときにあいつらが持っていた笛じゃねぇのかっ!」
バンッとテーブルを叩いてアリスターが勢いよく立ち上がった。
あー、やっぱり、あの黒いモヤモヤが出てくる楽器だよね?
「ブランドンさんを追っているのは……道化師の奴か……」
兄様の呟きにブランドンさんはヒュッと喉を詰まらせ顔を強張らせた。