ドラゴンの卵を探せ 3
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紫紺が察知した気配は、こんな標高の高い山々に囲まれていながらも、何故か海の……潮の香りがするらしい。
海の魔獣が生息しているはずもなく、水の精霊ならまだしも海を好む精霊がこんな辺鄙なところまで遊びに来ない。
「だったら海に関する種族、人魚族が一番可能性が高いわ」
紫紺がどこか得意気に鼻をツンと反らして解説してくれた。
ちなみに海に関する種族は人魚族の他に魚人族もいるけど、海の奥に住んでいて人魚族とは違ってヒレが陸で足に変わらないから、陸での生活はできないそう。
「人魚族といえば、もしかして?」
兄様がハッとして視線を紫紺に投げると、紫紺は大きく頷いた。
「ええ。たぶんあのプリシラって子の父親じゃないかしら?」
あの遺跡の村で見つけたプリシラお姉さんのお父さんへの手がかりと目撃情報が、まさかこんな場所で繋がるとは思わなかった。
しかも彼は遺跡に入ったまま戻ってこなかったのに?
「ううむ、あの怪我人のことは内密に頼みたい。どうやら悪しき者たちに追われているのじゃ」
赤い髪のおじさんがぺこりと頭を下げた。
どうやらドラゴンの国は悪い人に追われて怪我をしたプリシラお姉さんのお父さんを助けて匿ってあげてたみたい。
紫紺にその存在がバレて焦ったのも、ぼくたちが下界でこのことを話して追手が来ることを心配したらしい。
「じゃあ、やっぱり人魚族……プリシラの親父がここにいるのか?」
アリスターもあまりの偶然に口をあんぐりと開けて驚いている。
「あの人魚族のことをご存じで?」
緑の髪のお兄さんが首を傾げて尋ねてくるけど、会ってみないとわかりません!
「レン。ぼくたちは彼の顔を知らないから会ってもわからないよ」
兄様が苦笑するけど、海の王宮で水晶の魔道具でチラッと見たでしょ?
それに、遺跡の村で絵姿も見たじゃない。
「えっ! 覚えているの?」
ううん、ぼくじゃなくて兄様や白銀たちが覚えているかなって?
でもぼくの期待も虚しく、みんながブルブルと頭を振った。
「あんなちょっぴり見ただけじゃムリよ」
「……魔道具はあったけど、顔なんて映ったか?」
「むうっ」
誰もプリシラお姉さんのお父さんの顔を覚えていませんでした。
「あっ、そういえばベリーズ侯爵家は同じ髪の色だって言ってたね。じゃあ、プリシラの父親だってわかるかも」
兄様が手をポンッと叩いてとっても大事なことを思い出してくれました。
「んゆ?」
プリシラお姉さんと同じ髪の色? プルーパドルの海のような鮮やかなエメラルドグリーンの色ですか?
緑の髪のお兄さんに案内された場所は、ドラゴンの国の奥の奥にひっそりと建つ小さな小屋でした。
トントンと軽く戸を叩いて開けると白い髪のお婆さんが腰を曲げて立っている。
「おんやまあ、珍しい。あんたがここに来るなんて」
「……客人だ。彼はいるか?」
ニコニコ顔の優しそうなお婆さんに、気難しい顔を向ける緑の髪のお兄さん……もっと優しくしてあげないとダメですよ?
「あらまあ、他にもお客様がいたのね。さあさあ中に入りなさい。お茶でも淹れようね」
ぼくたちはお婆さんに誘われるまま小屋に入りお茶を頂くことにした。
「さあ、ブランドンさんを連れてくるから、ちょっと待ってなさい」
ぼくたちにお茶……これ緑茶? を淹れてくれたお婆さんは小屋の奥の部屋へと姿を消してしまった。
「お、おにいさん。これ……」
なぜか緑の髪のお兄さんにはお茶を出さなかったお婆さん……二人の関係はピリピリしています。
つい、ぼくの分の湯飲みを緑髪のお兄さんへと差し出してしまった。
「客人である貴方様がどうぞ」
すっごい憎々し気に勧められて、どんよりした気分でお茶を啜る……おいしい。
兄様もアリスターも緑色のお茶に眉を顰めて恐々と口をつけるけど、緑茶、おいしいよ?
白銀たちはお皿に出された緑茶を戸惑いもせずにペロペロ飲んでいるのは、シエル様が日本の神様でもあるから飲んだことがあるのかな?
「さあ、ブランドンさん。お客様ですよ」
お婆さんが連れてきた男の人は、痩せ気味の背の高い顔色の悪いおじさんでした。
そして、その伸ばし放しの長い髪は艶こそないけど、プリシラお姉さんと同じエメラルドグリーン。
「……ブランドン・ベリーズです。あなたたちは?」
困惑顔でぼくたちを見回すプリシラお姉さんのお父さんであろうブランドンさんに、ぼくはニッコリと笑ってみせた。
「まさか……ナタリアが……それに僕に子どもが……」
兄様がブランドンさんにこれまでのことを話してあげました。
ぼくや白銀たちには無理だし、アリスターも詳しい話は知らないもんね。
ブランドンさんが戻らなかったナタリアさんは生まれた子ども、プリシラお姉さんを守りながら、悪い人たちから逃げて逃げて……。
逃げる途中、運悪く海に漂流して着いた集落で、病に倒れ亡くなってしまったこと。
プリシラお姉さんが一人で頑張って生きて、とうとう海の王国にいるベリーズ侯爵家と面会できたこと。
今はぼくたちの住む街ブループールの街で元気に過ごしていることを話して聞かせてあげたんだよ。
ブランドンさんも悪い人たちに追われて逃げて、ナタリアさんたちまで巻き込まないように帰ることもできずに逃げて……。
逃げながらも悪い人たちの正体を掴もうと古い遺跡を調べて調べて、神獣聖獣を祀る神殿遺跡で捕まりそうになって無我夢中で逃げたら穴に落ちたそう。
その穴ってぼくが落ちたやつかな?
満身創痍のところ、偶然ドラゴンに保護されてこの国で養生しているとか……。
この国から他のところへ連絡をとる手段がなく、隠れ住んでいたブランドンさんは、ナタリアさんが死んだこともプリシラお姉さんが生まれたことも知らなかった。
声を殺して泣くブランドンさんを、ぼくたちはそっと見守った。
「おーい、のんびりしているヒマないぞー。はやくドラゴンの卵を見つけないと帰れないぞーっ!」
もう、真紅ったら!