ドラゴンの卵を探せ 2
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いつも、ありがとうございます。
ドラゴンの国の赤い髪のおじさんは火の属性ドラゴンの長で、緑の髪のお兄さんは風の属性ドラゴンの長だった……らしいです。
長の役目を長い間、それこそぼくたちの寿命の何倍もの間を勤めたあとに、尊敬する神獣エンシェントドラゴンにお仕えするべく故郷を旅立った……ではなく。
「つまり、長になったのをいいことに出奔してきたのね?」
「そりゃ、一番強い奴が長になるからなぁ。長の我儘に抵抗できるドラゴンはいないだろうなぁ」
紫紺がお顔を厳しくキリリとすると、白銀は「あーあ」と呆れた声を出した。
「ぐぬぬぬ。確かにそうですが、長としてそこそこ勤めましたし。残りの寿命を数えたら、早く行動しないと。そのう、焦りまして」
赤い髪のおじさんは紫紺の迫力にタジタジです。
残りの寿命とか気にしているみたいだけど、まだ三百年以上はあるみたいだよ。
本当にお爺ちゃんお婆ちゃんドラゴンは、この国の奥で静かに暮らしているんだって。
このドラゴンの国で最強なのは、この紫紺に叱られている赤い髪のおじさんで、次が緑の髪のお兄さんらしい。
「まだ若いじゃねぇか」
「あれでここの最強なのかぁ。俺様よりヨワヨワだぞ?」
白銀と真紅は紫紺のお怒りモードにとばっちりがこないように、後ろでコソコソとお菓子を食べ始めた。
んゆ? ぼくもそっちに交じりたい。
「はああっ」
兄様が特大のため息を吐いたぞ?
「にいたま?」
「うん……わかっていたけど、精霊たちの仕業だって。でもその原因がドラゴンの卵探しでは、風を止めてくれとも言いにくいよ」
しょんぼり顔の兄様がかわいそう……。
そ、そうだよね、母様のお友達もしょんぼりしてたし、父様も長い間ブループールの街を留守にする訳にはいかないし。
ここは、バシッとドラゴンの卵を見つけて万事解決しよう!
え? ドラゴンの卵を見つけるのはぼくじゃないよ。
「しこん! たまご、どこ?」
ここは魔法が得意な紫紺にお任せだ!
「……ごめんなさい」
尻尾がへにょり、お髭もしょんぼり、紫紺がぼくにぺこりと頭を下げて謝った。
「なんで?」
「それが……神気が濃くてドラゴンの卵の気配がアタシでも読めないの。しかもアイツもこいつらもドラゴンだから紛らわしくって」
イラッとした紫紺は、八つ当たりに白銀のお尻を蹴っ飛ばした。
「イテッ!」
赤い髪のおじさんたちよりは気配感知能力は高いが、こんなにあちこちにドラゴンがいて、ドラゴニュートもウロウロして、極めつけは神獣エンシェントドラゴンの神気の濃さだ。
「産まれたばかりで孵化していないドラゴンの卵みたいな微弱な気配は紛れてしまって察知できないわ」
切なそうに項垂れる紫紺がかわいそうで、ナデナデと頭や背中を撫でてあげた。
「紫紺様が難しいなら、当然白銀様たちは……」
アリスターが探るような視線を白銀たちに向けるけど、二人とも高速で首をブンブンと振る。
「「無理!」」
んー、困ったなぁ。
「あ、でも。この国におかしな気配があるのは気づいているわよ?」
へ? おかしな気配?
紫紺の言葉になんのことだかわからずに首を捻るのは、ぼくたちと何気にずっとこの場にいたドラゴニュートのドルフさん。
ギクリと体を強張らせて挙動不審になるのは、赤い髪のおじさんと緑の髪のお兄さんのドラゴンコンビ。
むむむ、何かあるぞ?
「気配とはなんですか?」
ストレートに尋ねる兄様に、赤い髪のおじさんは顔を背けて応えない。
「おかしいのよね。ドラゴンでもドラゴニュートでもないし、人族でもないの」
紫紺がまるで獲物をゆっくりと甚振るように、少しずつ自分が気づいた気配について話していくと、赤い髪のおじさんの顔からは血の気が引いていく。
「獣人でもないし、エルフやドワーフでもないわ。ああ、アンタたちとお友達の精霊とかでもないわよ?」
んゆ? いろんな種族が出てきたけど他にどんな種族がいるの?
ぼくと兄様、アリスターはこっそりと相談します。
「やっぱり魔族じゃないか?」
「魔族がわざわざドラゴンの国にいるかな? 魔族の国からかなり離れているぞ?」
アリスターの予想に兄様が反対すると、ディディまでもがうんうんと考え出す。
「おおきいひと?」
ドラゴンの本体はすごく大きいんでしょう? だったらお友達も大きい人じゃないかな?
「巨人族か……可能性はあるね」
「意外と小人族だったりしてな」
こっちは楽しくお喋りしていたけど、紫紺にギリギリと精神的に絞められている赤い髪のおじさんは息も絶え絶えです。
「あーもう、面倒くせっ。紫紺、誰がいるんだよ」
白銀が吠えるように叫ぶと、紫紺もフンッと荒く鼻息一つ吹いて答えます。
「人魚族じゃないかしら?」
……なんで、こんな山の中で人魚族?