ドラゴンの国へ 6
いつもご愛読いただきありがとうございます。
この度、「ちびっこ転生日記帳」の二巻がマッグガーデン様より7月10日に発売されることになりました。
皆様のおかげでございます。
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びゅるるる、とドラゴニュートの村に吹く風よりもさらに強い風に思わず目を瞑る。
むんっと踏ん張った足がよろけてしまい、後ろにいるアリスターの足にポスンとぶつかった。
「大丈夫か?」
「あい。ありがとー」
いけない、いけない。
目指すドラゴンの国は、まだまだ遠いのだ。
気合いを入れ直して一歩、また一歩と山道を登っていく。
ドラゴンの国が騒がしく風の妖精たちがドラゴニュートの村にいない理由が、ドラゴンの卵の盗難事件だと知ったぼくたちは困惑した。
それはここまでのんびりと遺跡探検に来たわけではなく、ぼくたちは母様のお友達の旦那さんが治める領地の問題を解決するためにここまで来たからだ。
ちょっとドラゴンの卵盗難事件にまで関わることは難しいかなぁ……すっごく気になるけど。
紫紺もあんまり遅くなると父様が心配するって目尻を上げて言うし……。
でも、兄様は風の妖精、精霊たち、もしくは行方知れずの風の精霊王と会ってお話ししたいみたいなのです。
「だって、きっと原因は風の精霊たちにあると思うからね。卵の盗難事件は解決できるかわからないけど、領地の問題の原因はわかると思うよ」
むむむ、ぼくには何がなんだかわからないのに。
そして、兄様がドラゴンの国へ案内するのを渋る長さんを説得するのに使ったのが、白銀たち神獣聖獣の力だった。
そう、そのドラゴンたちが風の妖精たちを巻き込んで探している卵を白銀たちが見つけてあげるという条件で、今ぼくたちはドラゴンの国へ案内してもらっているのです!
すごいなー、白銀と紫紺ってば。
風の妖精たちが総出で探してもまだ見つからないのに、神獣聖獣の力でパパッと見つけることができるんだぁと感心していたぼくの耳に列の後ろを歩く紫紺とアリスターの会話が聞こえてきた。
「本当に見つけられるのですか?」
「なにを? ああ、卵ね……無理よ。風の妖精でも見つけられないのよ? 探し物が得意なのはアタシたちじゃないわ。桜花がいたらまだマシでしょうけど」
「え? で、でも、ドラゴニュートたちに見つけるって……」
「あら、違うわよ。アタシたちが提案したのは卵を探す協力をするってこと。見つけるとは約束してないわ」
「いやいや。え? え? ダメでしょう? きっと先方は期待してますよ?」
「放っておきなさい。ちょっと探すフリして無理だったって言えばいいのよ」
ぼくはグリンと勢いよく首を後ろに回して二人の顔を凝視した。
紫紺……そ、それは、う、嘘を吐いたってことなの?
「あら、違うわよレン。嘘じゃないわ方便よ」
ぼくには、その違いがわかりません……。
ゲーツツリー村を出て、山道を登ること小一時間ぐらい。
ぼくは途中から兄様の安定の抱っこで移動したので、ちっとも疲れていません。
やっとドラゴンの国へ着きました。
ここまで案内してくれたドルフさんが、やや緊張した面持ちでこちらを振り向きます。
「で、では。皆様がいらしたことをドラゴン様たちへ伝えて参ります。ここでしばらくお待ちを」
震える声でそう言い終えると、ドルフさんはギクシャクとした動きで大きな岩と岩の間を通り抜けていった。
木々が密集する緩やかな登りの山道を歩き、辿り着いたドラゴンの国は大きな岩で向こう側が見えません。
いくつもの岩が重なっていて、向こう側に行くにはドルフさんが通った岩と岩の狭い隙間しか道がないみたい。
「んゆ?」
「どうしたの?」
兄様がハンカチでぼくの額の汗を拭ってくれます。
ぼくを抱っこして山登りした兄様は汗なんてかかずに涼しいお顔をしています。
「あのね、あんなせまいところ、ドラゴンさんとおれりゅの?」
ドラゴンさんの体は大きいでしょう?
「……そうだね。白銀と紫紺はわかる?」
兄様にもドラゴンの生態はわからないらしく、素早く白銀たちに質問をパスしました。
白銀はギョッとした顔をしたあと、スーッと顔を逸らし、真紅は耳をほじって聞こえないフリをします。
「アンタたちねぇ。もう、いいわよ。ヒュー、たぶんアタシたちと同じだと思うわ。縮小化か人化のスキル持ちなのよ」
紫紺がビシッバシッと二人のお尻を尻尾で叩いて、ぼくたちに教えてくれました。
そんな雑談を交わしながら待ちます……暫し待ちます……結構待ちます……ドルフさんまだかな。
兄様やアリスターもそろそろおかしいな? と思い始めたころ、我慢ができない真紅が爆発しました。
「があああっ! なんで俺様を待たせるんだ。くそっ、突撃してやるトカゲどもめ」
口汚く叫ぶとぴょんと白銀の背中から飛び降りて、ダダダッと走っていくのを、ただ見送って……あ、止めなきゃ。
「だめだよーっ。しんくー、もどってきてー」
タタタッと真紅のあとを追いかけるけど、ぼくの足では追いつきません。
トテトテと走るぼくの横をびゅーんと白銀が走り抜けていきます。
「待てっ、ばかもの」
白銀がかぷっと真紅の後ろ襟を噛んで突撃を止めたと同時に、ドラゴンの国の入口からぺいっと誰かが放り出されてきた。
「んゆ?」
「ぎゃああああっ」
それは、あちこち服がボロボロになったドラゴニュートのドルフさんの変わり果てた姿でした。