ドラゴンの国へ 4
ドルフさんに案内されて訪れたドラゴニュートの村ゲーツツリーは、どこか懐かしい雰囲気がします。
高い山間の村落で切り立った崖に囲まれた狭い土地に木造の素朴な家々がポツポツとある、まるで田舎の風景はぼくの胸をじんわりと温めてくれました。
「さあさあ、どうぞ。まずは我らの長に挨拶されたあと、ドラゴンの国へご案内します」
ドルフさんはぼくには恭しいけど、兄様たちには冷たいというか不遜な態度で空気がピリピリするよ。
「ああ? 長の家ってあれか?」
ひょいと白銀が顎で示すと、紫紺が目を眇めて村の奥に建つ少し大きな屋敷を見る。
「そうみたいね。あちこちからこっちを窺う奴らがうっとうしいわ」
「じゃ、ぶっ飛ばすか?」
真紅は少し大人しくしていてください。
もうっ、人型になれるようになったら、やんちゃすぎるから困るよね。
白銀が背中に乗った真紅を尻尾でペシンと叩いて、教育的指導をしてくれました。
確かにぼくたちが村の中を歩くとサアーッと人が避けていくし、家の中からこちらを見ている視線を感じる。
見知らぬ人からの視線に、思わず兄様の手をギュッと握りしめた。
「大丈夫だよ、レン。レンは招かれたお客様だから堂々としておいで。何かあったら兄様が守ってあげる」
「にいたま」
「おう、俺も守るぞ」
「アタシもよ」
「……べ、別に俺様だって」
うん、頼もしい兄様と友達がいてくれて、ぼくはとっても嬉しいです!
「ギャウ?」
「いいんだよ、俺は。ここで俺もって主張したら、主様がやきもち焼くだろう?」
なんか、後ろでアリスターとディディがコソコソと話しているけど、なあに?
「さあ、レン。まだ歩くから抱っこしてあげよう」
兄様は僕を抱き上げるとスタスタと早足で歩き出し、アリスターを置いてけぼりにする。
「ちょっ、ちょっと待て、ヒュー!」
んもう、相変わらず兄様たちは仲良しだね!
そんな二人をしらーっと眺める白銀と紫紺は、一つ大きく息を吐き出すとぼくたちのあとを追いかけてきた。
「ねえねえ、ドルフさん。あのね、おみせとかないの?」
折角、訪れたドラゴニュートの村。
情報収集をしなければと思ったけど、兄様やアリスターからの問いかけにはドルフさんは一切答えず鋭い目で睨むだけ。
しょうがないからぼくが代わりにいろいろと質問しているけど、難しい言葉が喋りにくいです。
「この村では物々交換が主ですね。でも村で賄えないものは町に買い出しに行ってます」
ドラゴニュート、竜人族はこの村に住む人たちだけではなく、あちこちの国や地域に散らばっているとか。
それでも少数種族には変わりなく、同族同士助け合って生活している。
ゲーツツリー村で不足している物は外に住む人が用意して運んでくれるんだって。
「飛竜や地竜などは使役できますし、一部のドラゴニュートは自分の羽で飛んで移動できますから、行き来は難しくないのです」
「はね……。とべるの?」
「自分は羽が退化していますから、無理です。極稀に先祖返りで羽持ちが生まれるのです」
へえー、背中に羽があるってどんな感じなのかな?
「ねえ、レン。ここに精霊や妖精がいるか聞いてくれる?」
ぼくが背中の羽をパタパタして飛んでいる妄想をしていると、兄様が耳にこしょこしょと指示を出してきたよ。
「ドルフさん。ここにようせいしゃん、せいれいしゃん、います?」
こてんと首を傾げて尋ねると、ディディも気になったのかアリスターの腕の中でキョロキョロと辺りを見回す。
兄様の肩の上でチロがふんぞり返っているから、水の妖精さんはいないんだろうなぁ。
チル? チルは白銀の背中の上で真紅と遊んでいます。
「妖精と精霊か……。最近は何かトラブルがあったみたいで見かけないが、風の妖精たちはあちこちにいましたよ」
「かぜ……。かぜのようせいしゃん」
それは水の精霊王さまたちが探している風の精霊王さまの妖精たちでは?
「ここは山々に囲まれている地ゆえ、風が吹く。風の妖精も精霊も集まりやすいのかもしれません」
「でも、いまはいない?」
ぼくの問いかけにドルフさんはコクリと頷いた。
「風以外の妖精、精霊はどうだ?」
白銀が真紅とチルに耳を引っ張られながら質問すると、ドルフさんは少し考えるように目を瞑る。
「うーん。いないわけではないですが、風の妖精たちと比べるとごく少数しか見ていません」
妖精や精霊は魔力が多い人には姿が見えるとされているけど、妖精や精霊が姿を消していれば、ほぼ見ることはできない。
妖精や精霊よりも存在が上位であれば、姿を見ることができるけどドラゴニュートはどうなんだろうね?
「風の妖精たちがいなくなったトラブルってなんだろう」
兄様が呟いた言葉に誰も応えることなく、村の奥に建つ長の家に着いた。
「さあさあ、どうぞ。久方ぶりのお客人で長も喜びましょう」
ぼくと白銀たちにはニコニコと接してくれるが、兄様たちには殺気が漏れる威圧出しまくりの対応するドルフさんに慣れてきちゃった。
「長に挨拶したら、サッサッとドラゴンの国へ行きましょう。厄介なことに巻き込まれたらギルたちが心配するわよ」
紫紺はくるりと尻尾を動かして、うんざりする口調で零したが、もうすでに厄介なことに巻き込まれているなぁと思ったのは黙っていました。
長の家は木造二階建てで、お寺のような大きく広がった屋根と太い柱、襖や障子などの建具、仕切りのない広間があって懐かしく感じた。
靴を脱いで家の中に入るのに、兄様は目を大きく開いて驚いていたよ。
出迎えてくれた人とドルフさんを先導に長い廊下を歩き、奥の部屋に通された。
部屋の少し高くなった場所に座っている男の人がゲーツツリー村のドラゴニュートの長さんなのかな?
「よく来たな、お客人。歓迎するぞ」
ぼくたちを出迎えるため立ち上がったその人は、見上げるほど高い背のがっしりした体つきをした、まだ若い男の人だった。
「おさ、さん?」
長さんって、ぼくのイメージだと白髪頭の顎髭が長い「ふおっほっほっ」って笑うお爺ちゃんだったんだけど?