ドラゴンの国へ 3
にこやかな兄様とドラゴニュートの謎のお兄さん、ドルフさんは、ぼくたちと離れた場所でお話し合いをした結果、突然弓矢を射って攻撃してきた理由などをあっさりと白状しました。
ドルフさんはここで邪な思いでドラゴンの国を探そうとする人たちを追い出す役目を負っているそうです。
だから、ドラゴンの国へと通じる遺跡の秘密の抜け道から出てきたぼくらを警戒して弓矢を射った……警戒? 殺気が込められた攻撃だったと思うけどな?
兄様との話し合いから戻って来たドルフさんの顔色が悪くてビックリしたけど、兄様は満面の笑みで親し気に彼の肩をポンッと叩く。
「ひっ!」
「さあ、案内してもらおうか。ドラゴンの国へ」
ドラゴンの国、確かに見つけたいなぁと思ってここまで来たけど、まさか本当にあったなんて!
ぼくとアリスターがぽっかりと口を開けて驚いていると、白銀と紫紺がジッとドルフさんの青い顔を睨みつけた。
「案内すると言っておかしな場所へ連れて行くなよ」
「そうよ。もし罠だったらアンタの命もないからね」
おまけに二人して「グルルルッ」と唸ったから、ドルフさん恐れおののいてぺったりとその場に尻もちをついた。
「ひいいいっ。犬と猫が喋ったああぁぁっ!」
あ、白銀と紫紺が神獣聖獣だって気づかなかったんだね?
でも、さっきから喋っていたのに、なんで今さら怖がるの?
二人はこんなにかわいいのに。
「ぶーっ」
ぼくは不満気に頬を膨らませて、慰めるために白銀と紫紺の首に抱きついた。
「あの遺跡には仕掛けがあるんです」
なんだかすっかりと大人しくなってしまったドルフさんは、ぼくたちを道案内しながらぼくが穴へと落ちた仕掛けを教えてくれた。
その昔、神獣エンシェントドラゴンが棲まうスノーネビス山をご神体と崇め、その手前の山の中腹に神殿を建てた領主がいた。
創造神像を真ん中に据え、周りを神獣聖獣八体の像で守った祈祷室をはじめ、その当時の技術を集め建てられたその神殿は、ある魔導士により隠し通路が密やかに作られた。
それは領主や貴族、又は王族を逃がすための通路だったのか、それとも他に何か意味のある通路だったのかはわからない。
仕掛けはまずエンシェントドラゴンの像に魔力を流すと床が抜ける仕組みがあって、そのまま浮遊魔法で下まで降りていく。
魔力を通さず無理やり穴を開けて下へ降りようとしたり、魔力を通した人の後を追って穴へと降りると浮遊魔法はかからず、ただ落下する。
かなり深い穴なので、自然落下すると怪我では済まないだろうって、怖いなぁ。
魔力を通した人が下に辿り着くと魔力感知でその人の何かが審査され、篩いにかけられる。
ドルフさんの予測では、悪心を持って進もうと思う人には出口は開かれず洞窟の中を彷徨うことになり、善人には抜け道の出口が開かれる。
「そして稀に祈りの間へと導かれる者がいます。その者が祈ると指輪を授かることができると言われています」
指輪……ってぼくが親指に嵌めているこの指輪のこと?
「我々、ドラゴンの国の門番、ドラゴニュートの村ゲーツツリーの者はその指輪を嵌めた者を、ドラゴンの国からの招待を受けた者として歓待する役目があるのです」
フフンッと少し胸を張ってるドルフさんは、お役目をこなせることが誇らしげだ。
「そんな石の指輪がな」
「そうね。センスはないわね」
白銀と紫紺は指輪を疑わしそうに眺め、フンッと鼻で笑った。
ドルフさんがグギギッと悔しそうに見るが、二人の正体を教えた後では、うっかりと反論もできないでしょう。
なんといっても、ドルフさんたちが敬愛する神獣エンシェントドラゴンと同類の神獣聖獣仲間なんですから!
「単に力で勝てないってわかっただけじゃねぇの? こいつ人族のヒューにも負けているし」
白銀の背中に跨った真紅が「ケケケ」と意地悪そうに笑ってドルフさんをバカにする。
「べ、別に人族に負けたわけでは……」
「ドルフ。ドラゴンの国まであとどれぐらいかな?」
兄様になんか負けてないと声を上げようとしたドルフさんは、兄様のニッコリ笑顔にぐむむと口を噤んでしまった。
そして、無言のまま真っ直ぐ先を指さすと、そこにはなにやらユラユラと空気が揺れて風景がぼやけて見える一角がある。
「あそこだ」
ドルフさんの緊張した声に、ぼくもゴクリと唾を飲み込んだ。
「あそこが、ドラゴンの国……」
兄様がギュッと腰に佩いた剣の柄を握る。
「そんなに体に力を入れなくても、俺様がいればだいじょーぶ。みんな蹴散らかしてやる。ヒャハハハハ」
真紅だけが呑気に白銀の背の上で大笑いをしていた。