遺跡探検 4
目を瞑ってお祈りすると、ほんの一瞬のこと? それともかなり時間が経ってから?
ゴトンと音がしてぼくが薄っすらと目を開けると、シエル様を型取ったと思う彫刻の足元、台座部分が引出しのようにガコンと引き出されていた。
「んゆ?」
ズリズリと膝立ちですり寄って中を覗くと、その中には小さな緑色の石が付いた指輪と笛が入っていた。
「なんだ、これ?」
「指輪の石には魔力が込められているみたいね」
「ピ~イ?」
<笛はなんだ?>
ぼくたちがお互いの顔を見合わせて首を傾げていると、シュンと風切る音が耳に届く。
「あら、出口かしら?」
紫紺が振り向いた場所にはまるで壁が切り取られたような四角い穴が開いていて、そこから洞窟みたいなゴツゴツとした岩肌が覗いていた。
「おそと?」
これは、この不思議空間から脱出するチャンスでは?
なんて、ぼくが呑気に考えている間に、白銀がぼくの襟元をカプリと噛んでダダダッと出口らしき場所へ猛ダッシュしていた。
「ほら、真紅も」
真紅もぼく同様、呑気に口を開けて見ていたものだから、紫紺の尻尾にベシッと叩き上げられて背中へと乗せられていた。
ぼくたちが不思議空間から抜け出すと、その空間は真っ白な光に包まれて跡形もなく消えてしまう。
「ないない」
ぼくはびっくりして目を丸くして呆然とするだけなのに、紫紺は真紅を連れてくるのと指輪と笛もしっかりと持ってきていた。
さすがです!
「たぶん、この指輪は何かの鍵だと思うわ。レンが付けてなさい」
ポトリと差し出した手の平に落とされた指輪を小指から順番に嵌めていき、ピッタリなのが親指だった。
目の高さまで指輪を嵌めた親指を掲げ、ちょっと不満気にプクッと頬を膨らます。
「かっこわりゅい」
子どもらしいふくふくとした指に銀色で磨かれていない緑色の石が付いた不格好な指輪がちょんと嵌められている。
「ピピイッ」
<そんなのどうでもいいだろうがっ>
真紅の翼にバサッと頭を叩かれたよ。
い、痛くないもん。
暴力小鳥の真紅は白銀にぷにっと踏みつぶされたから、許してあげる。
「紫紺。その笛なんだが……。俺は似ている笛を見たことがある」
すっごく嫌そうに笛を見た白銀が紫紺に告げると、紫紺はニッコリと笑って応えた。
「ええ。アタシも見たことがあるわ。アレでしょ? アースホープ領のお祭りでアイツが使っていた笛でしょ?」
んゆ?
アースホープ領って母様の父様、お祖父様が治める領地で、お祭りって言ったら唯一参加したことがある春花祭のこと?
そんで、アイツが使っていた笛って……あ、やっぱりあのときの笛に似ているんだ。
「わりゅいひと、ふいてた」
道化師の格好をした男が笛を吹き、その男に操られていたアリスターの妹キャロルちゃんが歌い、子どもを誘拐していたあの事件。
アリスターと知り合う事件でもあったけど。
道化師の男は魔道具の笛を吹いて子どもたちの意識を混濁させ操り、邪魔な大人は皆、眠らせていた。
……うん、まあ、その笛はぼくがつい立て笛からオカリナへ形を変えてピューピュー吹いてしまったら、人心を操る魔道具から浄化の魔道具に変化してしまったけど……。
ぼくは改めて紫紺が持ち出した笛を見つめる。
「くろい、モヤモヤ。ないない」
あの気持ち悪い黒いモヤモヤ……瘴気? はこの笛からは感じない。
「じゃあ、ただの笛か?」
白銀が興味津々に前足で笛をチョンチョンと突いた。
「う~ん? そもそもあの方の像から出てきたのだから神聖なモノじゃないかしら? アイツが使っていた笛は改造されていたとか? あの笛もこの遺跡から持ち出されたモノかもしれないわね」
フンフンと笛の匂いを嗅ぐ紫紺もハッキリと笛の正体はわからないみたいだった。
「ヤバいんじゃないか? その悪い奴がまた笛を取りにここに来るかもしれないじゃないか」
小鳥の姿では白銀に踏みつぶされたままだと危惧したのか、真紅が人化していた。
「わりゅいひと、くる?」
そ、それは困るなぁ。
ぼくたちは離れてしまった兄様たちと合流しなきゃならないし、ドラゴンの国も見つけないと、風の精霊王様も探さないと……て予定がいっぱいだもん。
道化師の男の人とここで会ったら、やっぱり捕まえないとダメだよね?
そもそも、ここはどこなんだろう?
暗い洞窟みたいな遺跡の中で白銀たちと車座になって、これからどうしようかと悩んでいるとどこからか人の足音が聞こえてきた。
「あ、ヒューたちが来たぞ」
白銀がムクリと上半身を起こして音がする方向へと顔を向ける。
「早かったわね」
「どうやって来たんだ?」
紫紺と真紅も白銀と同じ方向へ顔を向けた。
ぼくみたいに穴に落ちたわけじゃないよね?
でも正規ルートでここまで来たとしたら凄いのでは?
かなり下まで落下した感覚はあるから、もし兄様たちが遺跡の中を移動してここまで辿り着いたとしたら、迷うことなく近道して進んできたとしか思えない。
あれ? あの不思議空間にいた間に二~三日経っていた、なんてオチはないよね?
「レーン!」
「おい、ヒュー。転ぶぞ」
どうやら、ぼくたちがここにいるのがわかったのか、兄様が全力疾走をしているようだ。
「に、にいたまーっ」
一応、ぼくはここにいますよ、無事ですよーと声をあげておく。
暗がりの中、兄様のキラキラの金髪が見えたっと思った瞬間、力いっぱい抱きしめられてアップアップすることになるんだけど。