遺跡探検 3
わあっ、眩しいと思たら足元がスコーンと抜けて、ぼくの体は下へと落ちていった。
落ちて……落ちて……んゆ?
「ふわふわ?」
下に落ちてはいるけど、落下速度は緩やかでまるで浮いているみたい。
それでも下が見えない暗い闇の中へ落ちていくのは怖い。
「ふぇっ。に、にいたま」
じわじわと両目に涙が溜って鼻の奥がツーンと痛くなってきた。
一人でこんな暗い所で、しかも落ちていくのはとっても怖い。
今さらながら手足をジタバタと動かして抵抗してみせるけど、ふわふわと緩やかに落下していくのは止められない。
チラッと下を向いて確認したけど、ちっとも底が見えないよ? ぼくはどこまで落ちていけばいいの?
「レン!」
トン、トンとリズミカルな音と共に壁を蹴って駆け下りてきた白銀とシュルルルと蔓を伸ばしてターザンのようにぶら下がっている紫紺とその背中に張り付いている獣姿の真紅が助けに来てくれた。
白銀たちの姿を見て、滲んだ涙が引っ込みホッと安心したのか強張った顔からも力が抜けていくようだ。
ぼくは必死に白銀たちへと手を伸ばす。
「しろがね! しこん! たすけて」
「……あ、すまん」
トン、トンとリズミカルな音を立て、白銀は無情にもぼくを追い越して下へと降りて行ってしまった。
ええーっ、嘘でしょ? 白銀?
「なにやってんのよ。大丈夫、レン? ……意外と大丈夫そうね」
ふわふわと浮いているようなぼくに紫紺は安心した表情というより、ちょっと呆れ顔です。
「ピイッ」
<俺様、悔しくない>
真紅が拗ねているのは、ぼくが真紅より上手に飛べているように見えたのかな?
違うよ? ぼくは穴に落ちている最中なんだよ?
「しこん、たすけて」
ジタバタと手足を動かして紫紺へと移動しようするけど、なぜかちっとも動かないでゆっくりと下降するだけだった。
「何か特別な力が働いているみたいね」
シュルルルと蔓に捕まってぼくと同じ速度で下へと移動しながら、紫紺はあちこち観察している。
ドンッと下から鈍い音がした。
「あら、あいつが先に下へ着いたようよ」
ぼくたちが下を覗いても何も見えない真っ暗だけど、あれれ? キラッと光ったよ?
もしかして、白銀のキラキラ光る毛だろうか?
「白銀めがけて転移するわ」
掴まっていた蔓から前足を放した紫紺が、尻尾をぼくの体にスルリと巻きつけてシュンとその姿を消した。
キョロキョロと周りを見て、ぼくはパチクリと瞬きをする。
確か床が抜けて下に落ちていったはずで、下は何も見えないほど暗い暗い場所だったのに……。
「大丈夫か、レン?」
白銀がペタリとお尻を床につけて座り込んでいるぼくに鼻をツンツンと押し付けてきた。
「う、うん。だいじょーぶ。ここ、どこ?」
キョロリと見上げても、白い石がキレイに組まれた丸い天井があるだけだ。
ほんのりと優しい光に包まれ、壁も床もツルツル真っ白な石で、窓はない、扉もない、机も椅子も何もないガランとした部屋。
出口がないけど、ぼくたちが落ちてきたはずの上に穴もないの。
コテンと首を傾げて眉をムムムと寄せて考えてみるけど、やっぱりここはどこ?
「亜空間みたいな所かしら? 白銀が落ちたときはまだ洞窟の岩肌だったみたいだけど、レンが足を着けた途端、空間がガラリと変わったのよ」
紫紺があちこちフンフンと匂いを嗅ぎながら状況を教えてくれるけど、これって兄様たちが助けに来てくれてもこの空間には入れないよね?
「ピイピイピーッ」
<バカバカ、おバカ。俺様たちがまず出れないだろうがーっ>
真紅にバカにされて、ちょっとムッとしたから口がへの字に曲がってしまった。
「しんく、やー」
ベシッと小鳥姿で翼をパタパタさせていた真紅の小さな嘴を手で塞ぐ。
ムガムガともがくけど、人の悪口は言ってはいけません!
「ふむ。ヒューたちが来ても入れないな。それよりあの深さだ。下りて来られないだろう?」
「そうかしら? ヒューのことだから正規ルートで追いかけてくるかもよ」
紫紺の意見に激しく同意するように真紅がうんうんと何度も頷く。
ぼくも兄様たちと離れているのは不安だから早く合流したいけど、どうやってこの部屋から出たらいいの?
よっこいしょと立ち上がって、壁に沿って歩いて確かめてみる。
うーん、壁に触ってもツルツルした磨かれた石の感触で怪しいところはないみたい。
「んゆ?」
円形の部屋かな? と思ったけどここだけ少し窪んでいる……んゆ? 壁に何か彫ってある?
「ここにもあの方の彫刻か? そして、これはあいつか?」
白銀がぼくの背中にのしっと体を乗せて頭の上に顎を乗せ、窪んだところをジロジロと観察した。
うん、この壁には両手を軽く広げた人が彫られていて、その後ろには空へと飛び立つドラゴンっぽい彫刻もある。
でも、上の部屋で見たような他の神獣と聖獣の彫刻はなかった。
「ここ、おいのりする、ところ?」
ここの遺跡が昔の神殿か教会なら、ここは特別にお祈りする場所だったのではないだろうか?
なんとなく、荘厳な雰囲気があるような気もするし、床が抜けて落ちてきたけど、ふわふわ浮きながら落下したから怪我する可能性は低いと思う。
なんでそんな細工をしてまで、この空間を作ったのかはわからないけど、ダンジョンでいう隠し部屋みたいなものかも。
だったら、ここですることといえば……。
「おいのり、しゅる」
ぼくは両膝を床について、指を組んで目を瞑りシエル様へと祈りを捧げる。