遺跡探検 2
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ぼくの初めて遺跡掘り体験と白銀と紫紺の本能の抗えぬ欲望というトラブルを終えて、ゆっくりと遺跡内を進み地下三階まで来ました。
「おおーっ!」
この階層に下りてきてびっくりしたのは、それまでただの洞窟だった場所が、本当に前時代の建物の一部だったとわかる場所へ様変わりしたからだ。
岩肌が彫刻が施された石柱に、ゴツゴツとした壁がほんの少し採色が残る壁画や朽ちたタペストリーが飾られた石壁へとなる。
ドドーンと中央にはところどころ欠けてしまったけど、とっても大きな石像が立っていた。
「んゆ?」
ぼくの前世の記憶で似た所があったような? あれは砂漠の中にある神殿で洞窟の中にあったわけじゃないけど、大きな石柱に人形の像がデデーンと建物の入り口に鎮座していた。
「これは、創造神様の像かな?」
「えっ?」
これ、シエル様の像なの?
お顔の部分は欠けまくってのっぺらぼうになっているし、腕も一本、肘の部分からなくなっている。
お洋服のズルズルしたワンピースのヒダも長い年月の間に削られ、凹凸がなくなってるし。
「おい、この奥に神獣聖獣の像もあるぞ」
え? なにそれ、ぼくも見たい!
アリスターの声に誘われ、ぼくはタタターッと走った。
部屋の奥にはアリスターが言ったとおり八か所の窪んだところがあり、その中には大きな石が置かれている。
「ただのいし?」
「彫刻がされていないのか、削れちまったのか、わからないけど。たぶんこれがフェンリルでこっちがドラゴン、これがフェニックス……」
アリスターが教えてくれるけど、ぼくにはただの大きな石にしか見えないよ?
コテンと首を傾げていると、白銀と紫紺が隣にやってきて一瞥したあと、フンッと鼻を不満気に鳴らした。
「全然、似てない」
「やだわ。レベル低すぎ」
「俺様、あんなに丸くない」
どうやら、当人には不評のようです。
「あの方だって、これを見たら怒るぜ。デカいだけで顔がのっぺらぼうだしな」
白銀がチラッと部屋の中央に立つ創造神様の像を仰ぎ見る。
「祀られた像の出来は悪かったみたいだけど、ここは神殿だったのかな?」
兄様がぐるりと部屋を見回す。
神様や白銀たちの像が安置されていて、広い部屋となれば神殿や教会だったのかもね。
「神殿ともなれば、城や貴族の屋敷に匹敵するほどのお宝が眠っている場所だな。王家の庇護を受けていた神殿や教会なら、歴史的価値のある物も出土するかもな」
パチンとアリスターがウィンクしてきたけど、ぼくたちはお宝を探している暇はないでしょ?
「プリシラの父親はここの遺跡を調べに来たのか、それとも逃げてきたのか」
「どうする、ヒュー? もう少し下まで行ってみるか?」
ここまではたいして強い魔物は出なかったけど、これからは洞窟によくいるゴブリンやコボルト、アンデッド系の魔物が出てくる。
兄様とアリスター、白銀たちがいたらどんな魔物が出てきても大丈夫だけど、魔物討伐に来たわけじゃないしね。
そろそろ地上に戻ってドラゴンの国を探しに行こうと話している兄様とアリスターから離れて、トコトコと神獣聖獣の像の前まで歩いていく。
最後にもう一度、ちゃんと見たい。
「うんと、これがしろがね。こっちがしんく。にょろにょろはおうか? それともるり? おうまさんっぽいのはひすい……」
ほんの少しの特徴を捉えて、どの石が誰か予想していくのが楽しい。
「んゆ?」
ひと際大きな石に左右に広がる翼っぽい形、でも真紅じゃないとわかるのは、そのどっしりとした下半身だ。
「どらごん?」
もっとよく見ようとズズイッと体を窪みに入れたら、何かがカチッとハマった音がした。
「んゆ?」
パアーッと光が当たって周りが明るくなると、足元の床がストンと抜けた。
床が抜けたら……落ちるのである。
「わわわーっ!」
そろそろ遺跡から出て、ドラゴンの国か、風の精霊王は無理だとしても風の精霊を見つけたいと今後の予定をアリスターと話し合っていたら、眩しい光が部屋中を満たした。
「なんだ?」
咄嗟に光から顔を腕で庇うと、アリスターが僕の前に剣を抜いて立ち塞がる。
「わわわーっ!」
レンのかわいい声が響くって……これは悲鳴では?
「アリスター、レンはどこだ?」
「待て、眩しくってよく見えない」
光は一瞬で消えたはずなのに、目に光が残って眩しく視界がぼやける。
「レーン!」
「やだ、落ちちゃったわ」
「行くぞ!」
白銀たちの声が僕たちの横を通り過ぎていく。
落ちた? ここにレンが落ちるような場所はなかったはずなのに?
「トラップか?」
「遺跡というよりダンジョンだな」
ようやく視界が戻って来た僕たちは、広い部屋の中にポツンと残されていた。
白銀たちは落ちたというレンの後を追い駆けて行ってしまったらしい。
「僕たちも行くぞ」
「あー、あれかな? ドラゴンの像の場所。なぜか床が抜けてる」
ヒュルルルと下から黴た匂いのする風が吹いてくるのに顔をしかめ、僕はアリスターを連れて躊躇なく飛び降りた。