遺跡探検 1
十二~三年前にブリリアント王国から遠く離れたコバルト国のファーノン辺境伯領地、高い山々が連なるフェアリーホワイト山脈にある遺跡へと辿り着いたプリシラお姉さんのお父さんは、この遺跡に潜ったまま戻って来なかった。
そして、彼を追って怪しい奴らがこの遺跡村に来ていた?
「なぜ、彼が執拗に追いかけられていたのか……。追いかけているのは誰なのか?」
兄様がプリシラお姉さんの両親だろう絵に厳しい目を向けて呟く。
「遺跡村の人がわざわざ怪しい奴らだって言うぐらいだ。冒険者じゃなくて明らかに悪人だとわかる風貌だったか……」
アリスターがまだこの場所に悪い人がいるのを探すように、ぐるっと視線を回した。
「……でも、プリシラの父親は生きているんだろう? 海へ行ったときに魔道具で生死はわかるって」
白銀がつまらなさそうに前足を交差させてその上に顎を乗せる。
そういえば、海底宮殿に行ったとき、王様に呼ばれてプリシラお姉さんの親戚の人と会ったら、そんなことを言っていたね。
その後のことはわからないけど、十二~三年前はまだ生きていたはずだもん。
「じゃあ、遺跡の中で姿をくらまし、どこかへ逃げ延びたのか?」
「ヒュー。それは俺たちには判断がつかないぜ。とりあえず遺跡の中に入ってみるか?」
クイッとアリスターが親指で遺跡を示すと、兄様が眉を寄せて考えこむ。
「にいたま? いせき、ほりほり、したい」
クイクイと兄様の上着の裾を引っ張って、ぼくはアピールしてみた。
プリシラお姉さんのお父さんの手掛かりも欲しいけど、遺跡を掘りだしてみたい!
ドラゴンも探さなきゃだし、風の精霊王様も見つけないと! だけど、遺跡を掘ってみたいです!
ファーノン辺境伯領の窮状を憂えた母様の友達を慰めるため赴いた地で、元凶のドラゴン、又は風の精霊王を探すことになったぼくらには限られた時間しかないので、本当は寄り道なんてしてはいけない。
しかも、ここにきてお友達のプリシラお姉さんの行方不明のお父さんの手がかりを見つけてしまった。
やらなければならないこと、気になることがてんこもりである。
なのに、ぼくは……ふっふっふっ、遺跡を掘るんです!
「ふんふ~ん♪」
「ご機嫌だな」
「これで何も出なかったらかわいそうね」
「ただの土じゃねぇか」
鼻歌で暗い道を軽い足取りで進むぼくの姿に、白銀たちがこそこそと内緒話をするけど聞こえているよ?
あと、真紅ってばただの土の下にお宝というロマンが埋まっているかもしれないんだよ?
「あまり奥に行くと魔物が出てくるらしいから、この辺でいいかな?」
「そうだな。ここも気をつけないと蝙蝠系が飛んでくるぞ。奥に行くとアンデッド系の魔物が多いって聞いたな」
兄様とアリスターが安全確認した一角で、ぼくはしゃがんでスコップで土をほりほり。
「ふんふ~ん♪」
お宝は出てこないと思うけど、昔の人が使っていた食器とか、身を飾る装飾品の欠片とか埋まっているかも。
「なんか、ムズムズしてきたな」
「奇遇ね。アタシもよ」
「なんで?」
ぼくが兄様とアリスターから温かい目で見守られて土を掘り返していると、最初は興味がなさそうだった白銀たちがトコトコ近寄ってきて、フンフンと鼻息を荒くしていた。
「どうちたの?」
ぼくの頬っぺたに鼻息がかかって集中力が切れてしまうんですけど?
隣に立って体をぎゅうぎゅうと押し付けてくる白銀からぼくが身を捩ると、鼻息どころか目も血走らせている白銀と紫紺にびっくりした。
「しろがね? しこん?」
「あーもうっ、辛抱たまらん!」
「ア、アタシもっ」
ガオーッと叫ぶと二人とも猛然と土を掘りだした。
ええーっ、突然どうしたの?
ババーッ、バーッと巻きあがる土を避けるように、兄様はぼくを抱っこして洞窟の端に避難する。
「野生の習性かな?」
「あー、犬とか穴掘り好きだもんな」
兄様とアリスターがそれぞれ腕にぼくとディディを抱っこして、世間話のように和やか気分でいるけれども、神獣聖獣の本気の穴掘りはヤバいのでは?
なんか、正規ルートとは別に下層へ繋がる道ができてしまいそう。
「でも白銀と紫紺は止められないよ。目が本気だもの」
「ハイになっているな。そんなに楽しいのか?」
「ギャウ?」
真紅も人化した姿で遠巻きに仲間を見ているが、止めようとはちっとも思っていないようだ。
「ぼくの、いせきほり」
残念ながら、ぼくの初めての遺跡掘り体験は何の成果もなく、あっという間に終わってしまったようだ。
ちーん。
ちょっと、しょんぼりです。
しばらく土をかきだし、すごく深くて大きな穴を掘った二人は、突然理性を取り戻しピキンッと固まった。
恐る恐るぼくたちの顔を見て恥ずかしそうに俯く二人に、兄様はとっても優しい声で「元に戻してね」と告げる。
あとでアリスターが教えてくれたけど、兄様が優しい言葉でお願いするときは逆らってはいけないんだって。
なんでだろう?