ドラゴンの国を探そう 3
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びゅるるるると強い風が顔にバシバシ当たって、ちょっと痛い。
「ううぅぅっ。にいたま」
つい、兄様の体を風避けにしてしまった。
兄様も腕で顔を庇いつつ、ぼくの体もそっと支えてくれる。
「あら、ちょっと距離が足りなかったわね。もう一度転移するわ」
紫紺がクルクルと尻尾を回すと、ぼくたちの周りの景色がヒュンと一瞬で変わっていく。
「ごめんなさいね。ここならもう大丈夫よ。なぜかスノーネビス山の周りには風が強く吹くことがないのよ」
紫紺が前足を揃えてお座りして、ご自慢のしなやかな尻尾をふわりと前に持ってくると、コテンと首を傾げた。
「本当だ。穏やかな風しか吹いてない」
「むしろ、高い山に囲まれていたり、高い場所って風が強いんじゃないのか?」
兄様とアリスターが転移してきた場所から周りを警戒しながら、キョロキョロと上を見回した。
「風の精霊王の力を奴の神気が消してんのか、そもそも奴と風の精霊王が繋がっているのか」
白銀が顔をくしゃっと歪ませて呟くと、人化したままの真紅がフンッと鼻で笑う。
「俺様が完全復活していたら、風の精霊王が作り出す風なんて反対に吹っ飛ばしてやるのにな!」
……それは、それで大事故だと思うので、真紅はしばらく小さいままでいいと思います。
紫紺が転移した場所は、スノーネビス山の手前にあるやや低い山の中腹に作られた遺跡村の入り口だった。
人の目に触れないように大きな岩の後ろだったから、誰にも見られていないと思うけど。
この遺跡村の奥に前時代の遺跡があって、学者先生やトレジャーハンターたちが日夜発掘して、世紀の大発見とかお宝ゲットとか目指しているんだ。
ぼくもちょっと興味があるから、時間があったら遺跡をコツコツと掘ってみたいなぁ。
「ヒュー。村に入るのに金は必要ないが、遺跡に入るには金がいる。あと、身分証だな。どうする? 宿でも探すか?」
「うーん、紫紺の転移で移動ができるから、宿は必要ないかな? 何か手掛かりがあれば何日か滞在してもいいけど」
兄様はすっかり静かになってしまった風に当てが外れた表情を見せ、指を口元に持っていき暫し考えている。
「情報収集も兼ねて、少しこの村を見て回ろうか?」
兄様の提案に、ぼくは両手を上げて賛成した。
やったー! 珍しい物があったらお土産にしようっと。
紫紺と白銀は小さい獣姿のまま、真紅も小鳥の姿に戻ってもらって、ぼくと兄様の横にピタッと付いて歩く。
アリスターもよいしょっとディディのわがままボディを抱っこして、ぼくらの後ろから付いてくる。
遺跡村の門番さんは、兵士とかじゃなく村の若い男の人が当番で務めているのかヒョロとした人で、ぼくたちをチラッと見てそのまま何も言わずに村の中へと通してしまう。
「大丈夫なのか? あんな門番で?」
アリスターが首を何度も捻るけど、兄様は苦笑しているだけだった。
「この村の収入は遺跡狙いの人たちが落とすお金なんだから、村に入るのに厳しい審査なんてしたら自分たちが困るでしょ。盗賊が入ってきたとしても被害に遭うのは遺跡を掘り出す余所者だと思って放ってるのよ」
紫紺がピシンと尻尾を叩きつけて、なかなかシビアな現実を教えてくれる。
「悪い奴らだな」
白銀が口から牙を覗かせてグルルルッと唸る。
「違うわよ。小賢しいだけよ」
紫紺の言葉に真紅が不愉快そうにバササッと羽を激しく動かした。
「どちらにしても、僕たちにとっては良かったよ。さあ、屋台も出ているみたいだ。何か食べながら風やドラゴンのことを聞いてみよう」
兄様の指さす方向には、厚いお肉を串に刺してジュウジュウと焼いている屋台と、軒先に並んだ鮮やかな色の果物が目を惹くジュース屋さんがあった。
「わーい、ぼく、じゅーちゅのみたい」
「俺、肉」
「ピーイッピイピイ」
<俺様も肉!>
目の前の食べ物に興味が移ったぼくたちに紫紺は呆れ顔だけど、兄様とアリスターはニコニコしながらぼくの手を優しく引いて移動してくれた。
お腹をぽっこりと膨らませて歩くぼくたちは、遺跡から出土された物を見たり、ありがたい神様のお守りを売っている屋台を胡散臭く見たり、お土産用に売っているアクセサリーを眺めたりしていた。
兄様とアリスターはいろいろと村人や遺跡発掘に訪れた人へ聞き込みをしていたけど、ぼくたちは呑気に遺跡村のお店を楽しんでいた。
「んゆ?」
兄様とアリスターがちょっと太ったおじさんとお話している間に、そのおじさんが売っているだろう品物を見ていたんだけど、これ……もしかして……?
「に、にいたま」
「どうした? レン」
自信がないから小声で兄様を呼んだら、白銀が気が付いてくれた。
さっきまでお腹がいっぱいになって眠そうな眼でポテポテ歩いていたのに、ぼくの異変に気づいてシャッキーンとなっている。
「あれ。しろがね、あれ、みて」
ぼくが指差したのは、おじさんのお店の壁に掛けられていた沢山の絵の一つ、それは人物画だった。
若い男の人と女の人が寄り添っている絵で、女の人はレース編みのベールを被っていた。
「あら、結婚の記念にでも描いてもらった絵かしら?」
紫紺は女の人のベールと手に持ったささやかな花束を見て、にっこりと微笑んだ。
「レン? この絵がどうしたんだ?」
あれれ? 白銀も紫紺も気が付かないのかな?
それとも、ぼくの思い過ごし? でも、でも……似ているよね?
「レン?」
ぼくたちの様子に気が付いた兄様がこちらへ声をかけてきたけど、ぼくはちょっとまごまごしてしまう。
ぼくの気のせいだったらどうしよう。
「あの、あのね。にいさま、これ」
絵を指差して、兄様の顔を上目遣いで伺い見た。
「どうしたの? この絵がなに?」
兄様とアリスターも壁に掛けられている若い男女の絵に注目する。
「このおんなのひと……、プリシラおねえさん、にてる」
ベール越しの髪の毛はプリシラお姉さんのエメラルドグリーンの髪の毛とは違うけど顔はそっくりだし、雰囲気も似ている。
しかも、隣に寄り添い立っている男の人の髪色はエメラルドグリーンだし、ちょっことだけ描かれている耳の形が人魚族特有でヒラヒラとしていた。
もしかして、この二人はプリシラお姉さんの行方不明なお父さんと亡くなったお母さんの絵じゃないのかな?