ファーノン辺境伯領 4
申し訳ありません。
私事でしばらく更新が止まってしまいました。
これからもよろしくお願いします。
誤字報告ありがとうございます!
直しました。
結局、困ったときはしっかり者の瑠璃に頼るしかないので、アドルフさんたちに部屋の周りを厳重に固めて人が入ってこないようにしてもらい、ぼくは瑠璃からもらったお守りの鱗を手に握る。
「じゃあ、よぶよ」
「いいのかなぁ、こんなことで瑠璃殿を呼んでしまって……」
父様はまだ瑠璃を呼び出していいのか悩んでいるけど、白銀たちは風の精霊王様をどうやって見つければいいのかわからないし、そもそも会いたくなさそうだし、仕方ないよね。
物知りな瑠璃に頼るのが一番いいと、ぼくは思います。
では、目を瞑って瑠璃の鱗に向かって呼びかけ……んゆ? なんか手に違和感を感じるけど、まあ、いいか。
「るーりー」
「あー、ちょっと待って! 鱗が重なってるわ。放して、レン、鱗を一つ放してちょーだい」
紫紺が何か必死に叫んでいるけど、ぼくが持った鱗は既にほんのりと温かくなっていて、ぼくの声に反応してしまっている。
「呼んだかな?」
「あはは。来ちゃった」
バフンっと煙が沸き上がったと思ったら、その煙の中から人化した瑠璃とその瑠璃の背中からひょっこりと顔だけ出して桜花が照れくさそうに笑っている。
「るり! おうかも!」
ぼくは二人に会えたのが嬉しくて走って飛びついたんだけど、ぼくの後ろではあちゃーと顔を覆う父様と、ニコニコの兄様、オロオロするアリスターと、スンッとお澄まし顔のセバス。
白銀と紫紺はガクッと首を下に向けていたし、真紅はケラケラ笑っていた。
「リヴァイアサンじゃなかった、瑠璃! ぼくの体を治しておくれよ。もうぬいぐるみなんていやだよ」
翡翠は必死に瑠璃に懇願していたけど。
瑠璃はぼく……いや父様と兄様の話を聞いて、厳しい目で窓の向こうの強い風に晒されているファーノン辺境伯領を見ると、ため息をひとつ零した。
「ふむ。確かに自然の風ではないな」
「そうね。しかも風のせいでここ一帯が風の精霊界のようになっているみたい」
桜花も頬に手を当てて困ったように眉を下げた。
「どらごんのせい?」
ぼくが瑠璃の膝の上から尋ねると、瑠璃はぼくの頭を撫でて「そうじゃのう」と呟いたまま黙ってしまった。
「なんだ、爺さん。なんか厄介なことでもあるのか?」
白銀が苛立たし気にお菓子をむしゃむしゃ食べながら瑠璃に尋ねるが、その答えを聞く気はないのか顔はそっぽを向いている。
「もう、面倒だわ。風の精霊王のことをあの方に報告て任せてしまえばいいのよ」
紫紺がプンプンしてるのを落ち着けようと文句を言いつつ自分の毛づくろいをしてるけど、ブラッシングしてあげようか?
「そんなにイライラしないで。瑠璃も黙ってても仕方ないでしょ。正直に話してしまいましょう」
桜花がマドレーヌをゆっくり嬉しそうに味わって食べ、嫌がる真紅を膝の上に乗せナデナデしながら、瑠璃に助言する。
「そうじゃのう。ここまで人界に影響しているようでは無視できんしのう」
瑠璃がちょっと遠い目をしたあと、キリリと顔を引き締めて父様へと向き合う。
「よいか。少々我らの事情が混じるが、この事態を収拾してくれるか?」
「えっ! いや、でも……うーん……。はい、わかりました! ただここは我が国とは交流がないので、俺も行動が限定されます」
父様は百面相をしたあと覚悟を決めたみたいだけど、国同士の話となると難しいみたいだ。
「うん、そうなんだ。騎士団長という役職だけなら放り出せたが、今は伯爵位をもらっているからな……ちっ」
「お行儀が悪いですよ」
舌打ちした父様にパカンッとセバスが頭を叩く。
「じゃあ、僕たちの出番ですね。僕たちだったら自由に動けます。もちろんブルーベル家の迷惑にはならないように立ち回ります」
兄様がドンッと胸を叩いて父様に主張するから、ぼくも右手を高く上げて「はい、はい、はぁーい」とアピールしておく。
「え? いや、レンは、その、危ないから……ね?」
むむ、兄様がぼくを仲間外れにしようとしている。
ぷうーっと頬を膨らませると、あわあわと慌てて言い訳を始める兄様へ冷たい視線を向けちゃうもんね。
「ちがっ。違うんだよ。僕とアリスターなら問題がないけど、レンはまだ小さいし、強い風に煽られて転んじゃうかもしれないし」
「しろがね、しこん、いるもん」
ツンツンと手の甲に痛みを感じると、眉間にぎゅっとシワを寄せた真紅がその小さな嘴でぼくを突いていた。
「あ、しんくも」
チロッと翡翠も入れてあげたほうがいいかな? と見てみると翡翠はそおーっと隠れようとしていた。
……翡翠はドラゴンさんに会いたくないのかな?