ファーノン辺境伯領 3
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風の精霊王様は、アイビー国で土の精霊王様が悪い奴に捕まって大変だったとき、ダイアナさんや他の精霊王様が探しても見つからなかった。
火の精霊王様たちには「いつも気まぐれだから」と行方がわからないことをそんなに心配はされていなかったし、どちらかと言えば呆れられていた。
でも、ここコバルト国ファーノン辺境伯様の領地で吹き荒れている風が、この山脈に棲むドラゴンと風の精霊のせいならば、ぼくたちは母様のお友達を助けるために風の精霊王様を探し出さなければいけないんだっ!
「ダメだよ、レン」
「んゆ?」
兄様はむにゅとぼくの両頬を両手で押しつぶして、目を合わせて言い聞かせる。
「風の精霊が関わっているかもしれないけど、それだったらダイアナに頼めばいいよね? もしくはチロに頼んで水の精霊王様に報告してもいい。わかるよね?」
コクコクとむにゅとなったほっぺたのまま頷くぼくに、兄様は疑わしい目で見る。
「だから、ドラゴンを探しに山に行かなくもいいんだよ?」
「ええっ?」
そ、そんな、ドラゴンさんを探しに山に行けば、強い風が吹くのを止められて母様の友達も元気になるし、ぼくも神獣エンシェントドラゴンと会えるかもしれないのに!
「山には行かないからね」
ニッコリ笑顔の兄様の迫力になぜか無抵抗でうんうんと何度も頷いたぼくでした。
白銀も紫紺も助けてくれなかったし、父様も腕を組んで深く同意していたから、ぼくの味方はいないんだ。
「ピピイ」
<大人しくしてろよ。>
ふーんだ、真紅には言われたくないもんね。
プイッと顔を背けたら、チッチッと真紅の小さな嘴で手の甲を突かれました。
もう、痛いなぁ。
『あのさぁ、むりだぜ?』
「ちる?」
『なんか、ここ。かぜのやつのなわばり。おれたち、そとでれない、うごけない』
「え?」
ぼくがびっくりしてチルの体をむんずとわし掴みにすると、ジタバタともがきながらチルが叫ぶ。
『ここらへん、かぜのせーれーおーさまの、なわばりになってる!』
風の精霊王様の縄張りって、どういうことだろう?
「チロ。チロも無理かい?」
『うん、むり。たぶん、ここらへん、かぜのせいれいかい。やみのやつも、むりよ』
「ここが風の精霊界? ダイアナとの連絡も無理?」
兄様が窓の外に視線を向けるのに釣られてみんなで窓の外を見ると、激しい風はいつの間にか止んでいた。
旅の疲れもあるでしょうと、神獣聖獣の登場にメンタル攻撃を受けたファーノン辺境伯様は、ぼくたちを客間へと案内させたあと疲れた顔で執務室へと戻っていった。
この風のせいで仕事が滞り大変らしい。
奥様のロレッタ様はもっと母様と話がしたいと、自室に母様を連れて行ってしまった。
一応、リリとメグが付いていったけど、母様と離れた父様はちょっとしょんぼりしてます。
「しかし、困ったな」
「父様?」
「ああ、セバスも座れ。ちょっと作戦会議だ」
「……人払いはしておきましたよ」
父様とセバスの対面にぼくと兄様も座って、ちょっと声を潜めてお話します。
「どうする? ここの問題に首を突っ込むかどうかだが」
父様の言葉に、セバスと兄様がしょっぱい顔をしました。
「父様。さすがにドラゴン相手は危険です。ブルーベル辺境伯領だったら余裕で討伐できますけど、ここの騎士団の力量もわかりませんし」
「ギル。ここはコバルト国だ。無用な手助けはするな。下手に希望を持たれると相手に困るぞ」
どうやら兄様とセバスは反対みたいだけど、ぼくはどうかな? 母様のお友達は困っているみたいだし、きっとここに住む人たちも困っているよね?
「レン。レンの気持ちはわかっている。そんなに眉を下げなくてもいいぞ。それにアンジェの気持ちもなぁ」
父様はソファーに背中を預けて、顔を上に向けて大きく息を吐きました。
「どらごん、たおすの? なかよくできない?」
マイじいたち騎士団のみんながいればドラゴンは倒せると思うけど、ここのドラゴンさんたちは倒していいの?
「そうか、まだ悪いドラゴンと決まったわけでもないか……」
「ドラゴンごとき、別に俺たちだけで倒せるぞーっ」
「そうね。ただのドラゴンでしょ? 簡単よ」
「ピイピイピイ」
<火のドラゴンだったら俺様に任せろ>
「君たちね、過剰戦力でしょ? だいいちドラゴンなんて美しくないもの、相手にしたくもない」
白銀たち、約一名を除く神獣聖獣たちがドラゴン討伐にやる気を出してしまいました。
「かぜのせーれーおーさまは?」
この強い風の原因がドラゴンと風の精霊王様なら、ドラゴンだけ倒してもダメだよね?
ダイアナたちが探していた風の精霊王様は倒すわけにはいかないから、見つけだして強い風をビュービュー吹かせている理由を聞いて止めないと。
「あいつの相手は、いやだな」
「アタシもイヤよ。いけ好かない水の奴よりマシかもしれないけど、話が通じないもの」
「ピーイ?」
<俺様、知らない>
「風の精霊王……。ちょっと美しいけど、言動が残念だよね。頭が弱いのが難点さ」
どうしてドラゴンを倒すときは前のめりで楽しそうなのに、風の精霊王様の話になると後ずさりするほど嫌がるのさ。
「そもそも、ドラゴンはともかく風の精霊王様はどこにいるんだろうな」
父様がちょっと死んだ魚の目で悲しそうに呟いたのを、兄様とセバスは華麗にスルーしたのだった。