ファーノン辺境伯領 2
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ぼくたちが神獣聖獣と共に暮らしていることはブリリアント王国でもトップシークレット扱いで、偉い人の中でも知らない人もいるのに……バレちゃった。
しかも、ブリリアント王国と友好国でもなく、敵対もしていない、遠い外国のいち貴族のご夫婦にあっさりとバレてしまった。
翡翠がぬいぐるみの状態で「風が強いのはドラゴンのせい」と喋ったのが悪いんだけど、そのあと、みんなが……。
「バカッ! お前は今、ぬいぐるみなんだぞ。喋るなよ」
「バカはアンタよ。アタシたちも普通に話しちゃったじゃない!」
「ピイピイ」
<おマヌケな奴らだなぁ。俺様は知~らない>
みんなが賑やかに喋り始めたから、ファーノン辺境伯様たちは目を真ん丸にして驚いていた。
父様はあわあわと白銀たちの口を慌てて塞ごうとしたんだけど、トドメに母様がロレッタ様へ教えてしまった。
「あら? アンジェのワンちゃんとネコちゃんは喋るのね?」
「ええ。だって神獣フェンリル様と聖獣レオノワール様なのよ。ちっちゃくてかわいいけど」
「アンジェーッ!」
父様が母様の名前を叫んだけど、もう遅い。
ロレッタ様にもファーノン辺境伯様にも、白銀たちが神獣聖獣だってバレちゃったもん。
ぼくはぴょんとソファーから飛び下りてファーノン辺境伯様たちにペコリと頭を下げると、ややドヤ顔で大切なお友達を紹介していく。
「こっちはしろがね。こっちはしこん。このこはしんく。あれはひすい、でしゅ」
「白銀がフェンリル様、紫紺がレオノワール様、真紅が神獣フェニックス様で翡翠が聖獣ユニコーン様です」
兄様が優雅に微笑みながら、ぼくの足りないところをフォローしてくれました。
「し、神獣にせせせせ、聖獣が、よ、四体も……」
バタンッ!
「ファーノン辺境伯ーっ!」
あれ? ファーノン辺境伯様が後ろにバッタリと倒れちゃったよ?
奥様のロレッタ様は、母様と一緒に「な、撫でてもいいかしら?」とか白銀たちのところでキャピキャピしているのに。
しばらくしてファーノン辺境伯様が復活しました。
「す、すみません。お見苦しい姿を……」
額から汗がすごいですよ? ふきふきしましょうか?
「レン。ハンカチはしまっておこうね」
兄様にポケットから出したハンカチを丁寧に戻されてしまいました。
白銀たちは母様とロレッタ様と部屋の隅でわいわいと楽しそうに遊んでいます。
なんか、ファーノン辺境伯様が「自分の見えないところでやってくれ」ってロレッタ様にお願いしてました。
「ちなみに、ドラゴンのことで何か知っていますか?」
父様が仕切り直してキリリとマジメな顔でドラゴンの話を始めました。
「ええ。ここコバルト国バース地方ファーノン辺境伯領地にホワイトフェアリー山脈がありまして、そこには昔からドラゴンの棲家があると言い伝えらてれいます。ですが、私たちはドラゴンを見たとがありません」
ファーノン辺境伯様がちょいちょいと手で呼ぶと執事服を着たお爺さんが大きな紙をペラリとテーブルに広げます。
「ここ一帯が我が領地で、この山が大陸いち高い山、スノーネビス山です。ここからここがホワイトフェアリー山脈ですが、どこにドラゴンの棲家があるのかはわかっていません」
父様と兄様は真剣な顔で広げられた地図を見ていますが、ぼくは一番高い山に釘付けです。
ここに……神獣エンシェントドラゴンがいるんだ。
「旦那様、よろしいでしょうか?」
「うん? セバス、どうした」
「このバカに責任を取らせようかと」
ちょこんと地図の上に置かれたのは、ぬいぐるみの四肢を縛られてシクシクと泣いている翡翠だった。
「……っ! セ、セバス」
「こいつなら、ドラゴンの棲家がどこにあるのかわかるのでは?」
「そもそも、この風がドラゴンのせいと決まったわけではないだろう?」
「……ドラゴンのせいだ」
泣いていたのに、ポツリと呟く翡翠にみんなが注目した。
「ただし、ドラゴンだけのせいじゃない。こんなに風が強く吹き荒れているのに精霊の制御がないのはおかしい。きっと……」
翡翠はもったいぶって黙るとキョロリとぼくたちの顔を見回してフンッと鼻で笑った……足、縛られた状態なのに態度が偉そう。
「いいから、早く言えっ」
キュッとセバスに首を絞められる翡翠に、ぼくたちは「あ~あ」と呆れ顔です。
何も知らないファーノン辺境伯様だけが「聖獣様にそんな乱暴なっ」とオタオタしている。
「グエッ、く、くるぢい。だから、風の精霊に何か異変が起きてるんじゃないんでしょうかーっ? たぶんドラゴンとかの精霊に何かがあると思いますーっ。もう、許してくださいっ!」
翡翠の泣きわめく声に、白銀たちもトタトタとこちらに集まってきた。
「風の精霊つったら、お前」
「そういえば、風の精霊王が行方不明だったわね」
白銀と紫紺が面倒だなぁって鼻にシワを寄せ、顔を見合わせている。