出発 2
家族でお出かけにドキドキワクワクしながら眠りについたぼくは、真っ白い部屋で一人ポツンと佇んでいた。
ちょっと怖いシチュエーションだけど、慣れっこのぼくは落ち着いて大きな声で大好きな人の名前を呼びます。
「るーりー!」
「来たか」
ポワンと煙の中から瑠璃登場。
大きな体の本体じゃなくて人化している瑠璃の姿は、優しいお兄さんでキレイな青い瞳を和らげてぼくを見つめる。
本当はここブループールの街より離れた海の中に棲んでいる瑠璃こと聖獣リヴァイアサンとは、時々夢の中で逢瀬を重ねている。
今日も瑠璃のお膝に乗って楽しいことや挑戦してることの話を一方的にぼくが喋ると、瑠璃は微笑んで相槌をうって聞いてくれるのだ。
「それでね、かあたまの、ともだちに、あいに、いくの」
「ほう。遠いのか?」
「うんと、ね。あれ? なまえ、わすれた。あのね、いちばんたかい、やまがあるの」
ブリリアント王国から遠く離れた国で確か大陸一高い山がある場所だと教えてもらった気がする。
「ん? 一番高い山とはスノーネビス山ではないか?」
「んー、わかんない」
ぼくはプルルと頭を振って首を捻る。
そんな名前の山だった気もするけど、ちゃんと覚えていないんだ。
ごめんね、瑠璃。
「ふむ、その山だとあ奴がいるの。白銀と喧嘩しなければいいが」
「んゆ? だれがいるの?」
瑠璃の知り合いですか?
「いやいや。そうだ! もしスノーネビス山がある場所へ行くなら、気をつけろ。あの辺はドラゴンが集まりやすい地じゃ」
「どらごん?」
瑠璃のお話では、一番高い山の周りにも高い山々があって、その山のどこかにドラゴンが集ってできた棲家があるそう。
「奴らは王国といってえばっているらしいがな。でも確かにそれぞれの種族でも特に強いドラゴンが集まっているそうじゃ」
「いろいろなしゅぞく?」
ドラゴンも幅広く、言えばワイバーンなんかも飛竜の一種らしいんだけど、正式な雄々しい神聖なるドラゴンには属性があるそうです。
水火風土の属性を持ち、その中でも最強のドラゴンと希少な闇光属性のドラゴン、そのお世話係のドラゴンもどきが王国にいて、特に何をするではなくダラダラと過ごしているとか。
「どらごん、はたらかない?」
「そうじゃな。何か目的があるわけでもなし。ただそこにいるだけじゃ」
しかも飽きたらふらっとどこかへ出かけて、気が向いたらまた戻って来るとか、適当に過ごしているらしい。
「おーさま、いないの?」
「うっ、そ、そうじゃなぁ。い、いないんじゃないかな?」
ドラゴンの王国なのに王様がいないなんて、各属性の中で戦って決めたりしないのだろうか?
「恐ろしいことを言うでない。あ奴らが戦ったら山の一つや二つは消えてなくなるわい」
「わー、そうなんだ」
ダラダラしているのに物騒なドラゴンさんたちだね。
「こちらからちょっかいをかけなければ問題はない。決して近づくでないぞ」
「あい」
ただでさえドラゴンの王国は、山の高いところの谷の狭間の風が強く吹く場所らしいので、ぼくが行くことはないと思います。
「うむ。重々白銀にも話しておけ。あー、真紅にもな。正直、あの山に白銀と真紅が近づくのは頭が痛いぞ」
瑠璃が手を額にあててムムムと難しい顔をしてしまった。
そんなに、白銀と真紅にとって相性の悪い場所だったのだろうか?
「だいじょーぶ。ばびゅーんのびゅーんで、かえってくる」
ポンポンと瑠璃の腕を叩いて、ニコッと笑った顔を見せれば、瑠璃はぎゅっと優しく抱きしめてくれた。
「レンには教えておこう。実はな一番高い山、スノーネビス山の頂上には、この大陸の守護を任された神獣エンシェントドラゴンがいるのじゃよ」
「びゃっ!」
「神獣エンシェントドラゴンと白銀と真紅は、そのう、仲があまりよろしくないのだ。喧嘩をすると山の一つや二つではなく、かなりの場所に被害が出てしまう。絶対に会わせるでないぞ」
真剣な瑠璃の鬼気迫るお願いごとに、ぼくはガクブルしながら必死に頷いた。
夢から覚めてもなんだか瑠璃の迫力にドキドキが収まらないみたいだったよ。
だから、兄様。
みんなには内緒だよ?
ここに、神獣エンシェントドラゴンがいることは。





