表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
311/473

手紙 5

次の日には、母様のお友達から「お会いするのが楽しみです。お待ちしています」と返事を頂いたので、さっそくでかける準備を始めます。

でもぼくの着替えや日用品は専属メイドのリリとメグがテキパキと鞄に詰めてくれるから、ぼくのする準備と言えば白銀たちのブラシを鞄に入れたり、真紅のお気に入りのクッションを選んだりするぐらい。


「俺様の寝床は大事な問題だ。もっと悩め」


ペチンと真紅に頭を叩かれながらも、赤いクッションとオレンジ色のクッションで悩むぼくの目に、一つの大問題が転がってきた。


「あ……どおしよう」


「どうしたの? 何か足りないものでもあった?」


とっくに荷物を整え終わった兄様が心配そうにぼくの顔を覗いています。

兄様は騎士になるために日頃から訓練しているのですが、その騎士ともなれば移動は素早く迅速に、荷物は必要最小限が当たり前ということで、こういう準備はサッサッと終わらせてしまうのです。

まあ、着替えや日用品はリリとメグが用意してくれるんだけど。

それよりも、どうしよう。


「にいたま。どおしよう」


よじよじと兄様の膝の上によじ登って困った顔をしたぼくは、恐る恐る人差し指を問題のアレに向けた。

ぼくの指さす方向に、きょとんとした顔で白銀と紫紺、人化した真紅の視線が向けられる。


「なに? どうしたの?」


白くて丸い縁にフリフリのフリルがついたクッションの真ん中で、ぬいぐるみ状態の翡翠がまったりと休んでいた。


「レン。翡翠がどうしたの?」


「にいたま。翡翠は鞄に入れるの? それとも……」


だってクッションは鞄に入れるんでしょう? だったらぬいぐるみも鞄に入れなきゃダメなのかな?


「なっ、なんだって! この美しい僕を鞄に押し込めて運ぶつもりなの! そんなの美への冒涜だよ。許されないよっ」


「うるさい」


カァーッと怒り出した翡翠をぷにっと白銀が前足で踏んで黙らせてしまった。

ねえ、白銀? ちょっと爪がにょっきり出ているような気がするんだけど? 翡翠は大丈夫なのかな? 綿が出ちゃってないかな?


「平気、平気。いざとなればセバスが繕ってくれるぜ」


うん、真紅の言うとおり器用なセバスならキレイに直してくれるよね。

でも、翡翠がめちゃくちゃ泣いてるから、足を放してあげようか?


そのあと、兄様が「翡翠は抱っこして運んであげようか」と教えてくれたけど、ぼくが抱っこするのはダメらしいので、渋面のセバスが親指と人差し指で摘まんで持っていました。

なんだか……翡翠、かわいそう。












母様に届いた一通の手紙から、ぼくたち家族がコバルト国ファーノン辺境伯領地に行くことになって、その準備にぼく以外が慌ただしくしている中、ブルーパドルの街からお祖父様とお祖母様がやってきました!

ぼくたち家族とハーバード様家族とマイじいを先頭に騎士団全員でお迎えです。


ピタリと止まった馬車からお祖父様の大きい体が下りてきて、サッとお祖母様に手を差し出しエスコートをして二人が並ぶと、騎士団のみんながザッと足音を揃えて騎士の礼です。

わーっ、かっこいい。


「こらこら、レン。じっとしてなさい」


ぼくも真似してみようと足を揃えて右手を胸に当て……ようとして、体がグラグラしてたら父様にガシッと体を支えられて注意されちゃった。

てへへへ。


「おー、レン。元気にしていたか? ヒューはまた背が伸びたか? ユージーンは……いないか」


お祖父様はひょいとぼくの体を片腕抱っこすると、兄様の頭を強い力でグリグリと撫でて、ハーバード様の隣りにいないユージーン様にため息を零した。

ユージーン様はソフィアが来てからしばらく大人しくお屋敷にいたんだけど、この頃はまた多趣味の虫が騒ぎ出したらしく街を出歩く日が増えているんだ。

でも、お祖父様たちが来られるときは、ちゃんとお迎えしたらいいのにね。


「ユージーンは、剣術の稽古が嫌いだからね。お祖父様に捕まるとすぐに剣を握らせられると思って逃げたんだよ」


兄様がクスクス笑って教えてくれた。

でも、ユージーン様って剣が強いんでしょ?

お稽古なんてしてなさそうなのに、たまに兄様と手合わせしていると互角にやり合っているってマイじいが言ってたよ。


お祖母様は新しい孫のリカちゃんとバーナード君にご挨拶しています。

いつもと同じキリリッとしたお顔に見えて、父様に言わせるとデレデレのお顔らしいです。

馬車の移動で疲れているだろうお祖父様とお祖母様はそのままハーバード様たちと一緒に辺境伯様のお屋敷へと行かれました。

なんか、ガックリと項垂れた父様もその後ろをトボトボと歩いて行ったよ。


「あいつは紫紺の転移魔法を報告してなかったことを、これからロバートたちに怒られるんだよ」


「そうね。アタシに頼めばその日のうちにブルーパドルの街からここまで来れたんですもの」


白銀と紫紺がかわいそうな子を見る目で、父様の背中を見送っていた。


「とうたま。がんばれ!」


ぼくは応援することしかできないけど、父様、頑張って怒られてきてねーっ!


「ピイッ。ピー?」

<なんか、ちがうだろ、それ>


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
◆◇◆コミカライズ連載中!◆◇◆ b7ejano05nv23pnc3dem4uc3nz1_k0u_10o_og_9iq4.jpg
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ