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到着

安定の兄様の膝抱っこで馬車に揺られること鐘ひとつ分、アースホープ領の領壁が見えてきました。

ぼくは、お昼寝していたのであっという間だったけれど、休憩していたところから2時間も馬車で離れていたのに、よくお花の匂いが分かったよね?白銀と紫紺は。

今は、ぼくたちにもお花の芳しい匂いが嗅げるけど、白銀たちには匂いがキツイかも?


「しろがね。しこん。おはなのにおい、だいじょーぶ?」


白銀と紫紺は、馬車の座席にだらしなく伏せながら、片目だけをパチリと開けて、


「大丈夫よ。花の匂いならね」


「うーん、まあ、平気だな。いい匂いだぞ」


「よかった」


ぼくは、ふたりの頭をナデナデしたあと、馬車の窓から外を見てみる。

……並んでる……。

長蛇の人の列が街道を埋め尽くしている。

これ……ぼくたち、街に入れるのはいつになるの?お祭り始まっちゃうよ?


そう不安になっていると、馬車は街道をやや逸れていき、正門とは違うこじんまりとした門の方へ進んでいきます。こ……これは、もしや!


「ふふふ。僕たちはアースホープ領主用の門から街に入るから、あの列には並ばないよ、レン」


「いいの?」


「アンジェは領主の元子爵令嬢だからな。問題ないぞ。ダメでも、騎士専用の門を使えばいいしな!」


父様がいい笑顔でサムズアップしてきました。

なんだか…ズルをしている気もするけど…、でも街にすぐに入れるのは、嬉しいよね!


門番の人に馬車に掲げているブルーベル辺境伯の紋章を確認してもらって、母様が馬車の窓から会釈すると、門は大きく開いていく。

門番の人たちが両脇にならんで、胸に手を当て騎士の礼をして見送ってくれた。


「ふわーっ、かっこいい」


ビシッと決まっているその姿に、感動。

兄様と母様はにこやかに手を振ってご挨拶。


そんな中、白銀が体を起こして厳しい目付きで、今まで走ってきた草原を見つめる。


「どうちたの?」


「……いや、気のせいか…。なんだか、誰かに見られているような…」


紫紺が猫のように体を伸ばしたあと、バシッと白銀の後頭部に猫パンチ!


「イテッ!」


「今頃気が付かないでよ。その視線ならブループールを出たところからずっとじゃない。悪いものじゃないから、見逃してたけど……」


「え?そう?そうだっけ?あれ?」


白銀は頭を伏せて両前足で頭を抱えていたけど、紫紺の言葉にキョロキョロと辺りを見回して首を傾げる。


『なんか、いたか?』


『なにも、いないわよ?』


ちびっこ妖精ズも気づいてなかったらしい。

ぼく?ぼくも知りません。

兄様と父様が難しい顔して、うむうむ唸っている。


「大丈夫よ。人の視線ではないし、魔力も感じなかった。魔獣だったとしてもランクの低い魔獣ぐらいの生気だったわ」


その言葉で、馬車の中の緊張感が少し解けた。


パッカラパッカラ、馬車は人通りの少ない道を進む。


「紫紺が大丈夫というなら、信じよう。さあ、ヒュー、レン。お祖父様のお屋敷まですぐだぞ」


「ええ。今はお祭りの準備で大通りは人が密集しているから、貴族街を抜けて行きましょう」


気持ちを切り替えるように、母様がにこやかに言葉を掛ける。

ぼくと兄様は大きく頷いて、再び馬車の窓から見える街の様子に興味を移した。


「…………ただ、知らない神気を感じるのよねー」


ボソッと、紫紺は誰にも聞かれないように呟いた。





石造りの大きな建物をいくつも過ぎて石畳みの道をゆるやかに登っていくと、薄緑色の壁に明るい茶色の屋根の可愛いお屋敷が小さく見えてきた。

鉄の門が固く閉ざされていたのに、馬車の紋章が見えたのか、緩やかに開いていく。

パッカラパッカラと軽快に、芝に変わった道を進んでいく。

両脇に葉を青々と茂らせた木々が並んで立っている道が、小さな噴水に辿り着く。

お屋敷の前は、広場に色鮮やかな花が満開に咲いている。


「きれー」


ぼくは、目がキラキラと輝かせて手足をバタバタ。

絵本の中に出てきたお屋敷みたいで、興奮!


ブルーベルのお屋敷は騎士団に隣接しているせいか、カチコチに固い雰囲気なんだよね。

でもここは、欧州(ヨーロッパ)にある貴族のお屋敷って感じです。


「ほら、降りるぞ」


馬車の扉が外から開かれる。

セバスさんが扉を開けたあと、恭しく礼をして立っていた。


父様がまず降りて、母様が降りるのを手を差し伸べてエスコート。

かっこいいです、父様!

そのあとは兄様が自分の足で降りて、ぼくも自分で降りようとしたら、父様と兄様の両方から手を差し伸べられた。

え?どっち?

父様と兄様でバチバチ火花飛ばしているけど……、え?ぼく、どうしたらいいの?


困ってたら、スッとセバスさんが抱っこして降ろしてくれました。

白銀と紫紺もぴょんと飛んで降りてくる。

妖精のチルとチロは、魔力の高い人には光の玉として見えちゃうから、見えないようにしてもらっている。

チルはお気に入りの白銀の頭の上、チロは兄様の肩にちょこんと座ってうっとり兄様を見つめているよ。


「アンジェ!」


男の人の大きな声に驚いて目をやると、壮年の男の人と女の人が母様に駆け寄って、嬉しそうに抱きしめていた。


「レン様。お祖父様とお祖母様ですよ」


セバスさんが教えてくれたけど…お祖父様たち、若いよね?まだ30代にみえますが……。

お祖母様なんて、母様とあんまり変らないよ?


グリンとこちらを向いたお祖父様たちは、兄様の体を抱き上げてくるくる回り始めた。

兄様の驚いて焦っている顔は、なかなかレアな表情。


「おおー!ヒュー。足が治ったのは本当だったのだな!よかった!よかったなー!」


お祖父様は涙を流しながら、抱きしめた兄様に頬ずりして、「よかった」と喜んだ。

隣でお祖母様も涙をハンカチで拭きながら、兄様の頭を撫でて笑っている。

今度は兄様が恥ずかしそうな顔で「ありがとうございます」とはにかんだ。


うん、うん。


ぼくと白銀と紫紺は何度も頷いて、その幸せな情景を見つめていたんだ。



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◆◇◆コミカライズ連載中!◆◇◆ b7ejano05nv23pnc3dem4uc3nz1_k0u_10o_og_9iq4.jpg
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