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手紙 3

誤字脱字報告ありがとうございます!

いつも、ありがとうございます。

お日様が沈んだので、家族と一緒に晩ご飯の時間がきました。

兄様と一緒に食堂に行くと、白銀と紫紺は自分のお皿が置いてある場所でお座りして配膳をキチンと待っています。

真紅? えっとぉ、ああ、白銀の背中でのんびりと欠伸をしているよ。

翡翠はぬいぐるみだと食事はできないので、とりあえずはぼくの椅子の隣りに置いてください。

後でセバスたち男性使用人と一緒に人化してご飯を食べるんだって。


ぼくと兄様の前に真っ白いお皿に盛りつけられた美味しそうな料理が並べられていきます。

今日はじゃがいもの団子状のパスタ、ニョッキと焼きたてのパン、ローストビーフとソーセージ、半熟卵が乗ったサラダとオレンジジュース。

ちなみにぼく以外のみんなはローストビーフじゃなくて分厚いステーキでした。

……ぼくも、もっと食べれるようになりますように!

兄様がステーキを一切れ分けてくれたので、頑張って完食せねば!

もちゃもちゃ、ごっくん。

ぼくがクリームソースをたっぷり絡めてニョッキを口に運んでいるのに、父様はさっきから頭を抱えて俯いている。


「ねぇ、ギル? 聞いているの?」


「……ああ。聞いている。そして、聞いていたからどうしようかと頭が痛いんだ」


父様の声がいつもと違って弱弱しく、なんだか負のオーラに満ち満ちている。

思わず口の中の咀嚼を止めて父様のことをじっと見てしまった。


ぼくの家はご飯のときにお喋りしながら食べています。

本当は貴族のマナーとしては良くないんだけど、父様が「今日は何をしてたのかな?」ってぼくたちに聞いてくるし、母様は父様に「こんなことがあった」といろいろと報告がしたいので、ぼくの家の食事はとっても賑やか。

今日も母様が懐かしい友達からお手紙を貰ったことを報告して、父様にあるお願いをしたんだけど……。


「ギル、お願い。顔を見て一言二言声をかけるだけでもいいの。とっても、困っているみたいなのよ」


母様がへにょりと眉を下げて、再度父様にお願いをしています。

母様の幼馴染からのお手紙には、嫁いだ家の領地の惨状が切々と訴えられていた。

具体的に助けてほしいとか救援を求める内容ではなかったけど、母様の友達はかなり心細くなっているようだった。

母様がお友達を勇気づけてあげたい! と思う気持ちはわかるんだけど、父様は二つ返事で承諾はしてくれなかった。

いつもは母様にベタ惚れの溺愛で尻にちゃんと敷かれている父様には珍しく、返答を渋っている。


「仕方ないよ。母様が行きたい所はブリリアント王国から幾つも国を隔てた所だし、交流がほぼないしね」


ぼくは兄様の言葉にふうんと頷いて返した。


「それだけじゃないんだ。実はハーバードの奴がな、レイラと二人でブルーパドルへ休暇に行きたいと言い出して」


「あら、素敵!」


「う、うん。それでな、代わりに父上と母上がこちらに来ることになってな……。そのう、孫の顔を見に来るからユージーンもバーナードもこちらに残していくらしい」


「ちょうどいいじゃない! お義父様とお義母様がいらっしゃるならあなたも時間が取れるもの! 一緒に行ってくれるわよね?」


「は……はあああっ? いや、ダメだろ? 父上に辺境伯の仕事押し付けたら何を言われることか! それに父上の目的はアルバートだし」


んゆ? 孫たちの顔を見て遊びに来るんじゃないの? なんでアルバート様?


「父様。アルバート叔父様はまた何か悪いことでもしたんですか?」


カチャリとカトラリーを丁寧に置いて、兄様がチロリンと冷たい視線を父様に投げる。


「いや。まあ、シゴキに来るみたいだな。あんまり腑抜けていると俺まで殴られそうだ、アハハ」


トホホと肩を落とす父様とは反対に兄様の眼はキラキラと輝き出した。


「それじゃ、僕とも手合わせしてもらえますかね?」


「ん? そりゃ、頼めばしてくれると思うぞ、あの筋肉バカ……って痛っ!」


父様がお祖父様のことを「バカ」呼ばわりした途端、ガツンとセバスに頭を殴られる。


「ギル、お願い。五日、ううん一日でもいいから許して!」


「いや、アンジェ。滞在が一日だったとしても行くだけで三ヶ月以上かかるし、往復で半年。そんな長い間父上に代理を頼むわけにもいかないし。そもそもハーバードの奴も休暇から帰ってきちゃうし」


だから無理だよ……と涙声で訴えた父様に、母様はきょとん顔だ。

いや、ぼくと兄様もきょとんとした顔で父様を見ているし、セバスなんて絶対零度の視線で射殺してしまいそう。


「ギル、何を言ってんのよ。どこでもアタシが連れて行ってあげるわよ? 転移魔法でバビューンじゃない」


ペロリと口の周りのクリームソースを舐めとって、紫紺が呆れたように言った。


「あ!」


ハッと何かに気づいた父様は顔を上げたかと思うと、サアーッと顔を青白く変えてゴツンとテーブルに額を打ち付けてしまった。













「おかしいと思ったんだ。ハーバードの奴、休暇に旅立つ五日前に俺に言いやがって。父上たちは今日ブルーパドルの街を馬車で発ったというし。なんか、俺への報告がギリギリじゃないかと思ったんだよなぁ」


でも、翡翠のこととかで俺に対して怒ってんのかと思って……とブツブツ父様が言い訳を始めました。

父様は紫紺が転移魔法が使えるようになったことを、すっかりとぽっかりと忘れていたらしく、なんと! お祖父様たちに報告していないんだって。


「いや、それは紫紺の魔法をホイホイと簡単に使うのはどうかなぁ? って思ってだな……」


語尾がだんだんと小さくなってよく聞こえない。


「別にアタシはかまわないわよ。ハーバードがレイラを連れてブルーパドルに行きたいって依頼も受けてたし。てっきりその帰りにナディアたちをこちらへ連れて来ればいいと思ってたわ」


紫紺が前足でくしくしと顔を整えて父様に最後のダメージを与える。


「ギル。お義父様たちは馬車でこちらに?」


「う、うん。通常であれば五日後に着くかな。ああーっ、親父にどつき回されるのはいいとしてお袋に火あぶりにされるかも」


父様の体がとっても小さくなってしまう幻影が見えます!

あぐあぐ、どうしようとスプーンを口の中でカミカミしていたら、兄様の手がそっとぼくのスプーンを取り上げて「お行儀が悪いよ、めっ」と叱ってきました。


「うう。ごめんなしゃい」


ペコリと素直に頭を下げて謝っておきます。

兄様がぼくに食事を続けるように言うと、体を父様の方へと向ける。


「紫紺の転移魔法を伝え忘れたことは後でお祖母様に叱られてください。それより母様のことはどうしますか?」


「ヒュー、お前冷たいぞ!」


父様が半泣きになって兄様に訴えている姿を横目に、ニョッキをもちゃもちゃ。


「紫紺に確認したら母様のお友達が住む国には真っ直ぐに転移ができないそうですが、すぐ近くの森に転移ができるそうです」


「そうなの。あの子も辺境伯に嫁いだから国の端にいるのよ。その森からなら馬車で一日半ぐらいで行けそうなの!」


「滞在を三日としてもそんなに長い間不在になるわけでもないですし、相手には転移魔法のことを口止めしておけば大丈夫なのでは?」


うん、母様と兄様に対して父様の二対一の図式では、もう無理です。

ぼくはローストビーフをあーんしてもぐもぐ、ごっくん。

最後にオレンジジュースをっんくんくと飲み干す頃には、父様はぐったりとテーブルに突っ伏して母様に「負けた。行こう、行くよ!」とやけくそ気味に叫んでいました。

ふきふきと口の周りをナフキンで拭って、ふーっと息を吐いたら、ぼくも家族の話し合いに参戦です。


「あい。ぼくも、おでかけのようい、します」


はいっと右手を挙げて宣言すると、みんなが驚いた顔でこっちを向いたので、ぼくもびっくりです。

みんな、どうしたの?


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◆◇◆コミカライズ連載中!◆◇◆ b7ejano05nv23pnc3dem4uc3nz1_k0u_10o_og_9iq4.jpg
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