書籍発売記念番外編 ~ブルーパドル旅立ち前~
いつもお読みくださりありがとうございます!
1/10本日、マッグガーデン様より書籍が発売されました。
その記念と感謝の気持ちを込めて番外編を更新いたします。
少しでも楽しんでいただければ幸いです!
そして、令和六年能登半島地震で被害に遭われた方々へ心よりお見舞い申し上げます。
ジョロロロロ、ジョロロロロ。
ぼくの手には少し大きい如雨露で花壇にお水を撒きます。
「ふんふんふ~ん♪」
朝日を浴びてキラキラと水滴が輝いて、ぼく専用の花壇に植えられた「天色の剣」がスクッと真っ直ぐに伸びてキリリとした花弁が開いてます。
「きょうも、きれい」
花びらの縁の金色がキラキラが眩しいくらいに光っています。
ぼくの大好きな色の花。
空みたいな、海みたいな、青い、碧い、キレイな色。
森の中から仰ぎ見た空のような、どこまでも広く深い海のような、鮮やかな色。
ぼくの大好きな人の色。
「ご機嫌ね」
「ふわあああっ。まだ眠い」
ぼくの大事なお友達の白銀と紫紺も両隣にちょこんとお座りして、ぼくの花壇を見守っている。
アースホープ領の春花祭でシードさんからもらった「天色の剣」が、正式にブルーベル辺境伯であるハーバート様に献上された。
これからは、辺境伯の領地のあちこちで大規模に栽培されることになるらしい。
「でも、これは、ぼくの」
ふふ~ん! この株から徐々に増やして、花壇いっぱいに咲かせるんだもん。
「しょうがないわねぇ」
紫紺がふうっと息を吐くと、一ヶ所にばかり撒かれていた水が風に煽られて小さな花壇に満遍なく降り注ぐ。
「わああっ」
小さな虹が出たよ!
口を緩めてぼくの花壇に出現した虹を眺めていると、後ろから足音が近づいてくる。
「んゆ?」
「レン、おはよう。花壇の水やりかい?」
柔らかい声で朝の挨拶をしてくれたのは、お花と同じ色の瞳を持つ、ぼくの兄様ヒューバート・ブルーベル。
「お・は・よ・う」
ぼくはわざと一音ずつ区切って兄様にご挨拶をした。
振り返った顔はぷくっとふくれっ面である。
「……レン?」
困ったように笑って首を傾げる兄様の後ろには真っ赤な髪の獣人の従者、アリスターも一緒です。
二人とも朝の剣の稽古終わりでラフな格好で額に汗をかき、片手には練習用の刃を潰した剣を持っている。
「にいたま。また、おいてけぼり」
ぼくも最近は兄様たちと一緒に剣のお稽古を始めたんだよ。
なのに……どうしてどうして毎回、ぼくをお部屋に置いて朝の稽古に行ってしまうの!
起こしてくれてもいいのにぃぃっと抗議するためのぷっくり頬っぺたです。
むーっ。
「ごめんね。とっても気持ちよさそうに寝ていたから」
かわいそうで起こせなかったんだよと謝りながら、ぼくの体をひょいと抱っこする兄様の腕の中で、ぼくはちょっとしょんぼりする。
うー、なんで朝ちゃんと起きれないのかな?
後ろでアリスターがクスクスと笑って「ガキには早い時間だからな」とぼくの頭をくしゃくしゃと撫でた。
「さあ、ご飯を食べに行こうね」
ここでアリスターとは一旦お別れです。
アリスターは、騎士団の寮で汗を流して食堂で騎士たちと一緒にご飯を食べるからね。
兄様もお屋敷に戻ったら汗を流してから家族みんなで朝ご飯です。
「とうたま、しんでる?」
食堂で兄様に椅子に座らせてもらったぼくは、どよよんとした顔で真っ黒なコーヒーを口に流し込んでいる父様の姿に慄いた。
「……いきてる」
「ギル。しっかりして」
母様が父様の口にお野菜をせっせっと運んで食べさせているけど、そんなにお仕事忙しいの?
「お祖父さまのところに行くことになって、片付けないといけないお仕事がいっぱいあるんだって」
兄様は他人事のように話して、カトラリーを上手に使ってご飯を食べている。
父様が忙しいならセバスも忙しいはずなのに、セバスは今日も隙のない姿で給仕をしてくれている。
父様がセバスに恨みがましい目で睨んで、ブツブツと文句を言っているみたいだけど、ちゃんと聞こえない。
「いいから、早くご飯を食べなさい。まだ仕事は山盛りなのですよ?」
セバスにゴツンと頭を叩かれて、父様はびゃあっと泣き伏してしまった。
「もうヤダーっ! 数字見たくない。サイン書きたくないっ。もっとゆっくり眠りたーい」
「うるさい」
ゴツン! また叩かれてました。
ぼくは父様の取り乱した姿にオロオロするけど、兄様は涼しい顔で「レン、これ美味しいよ」と切り分けたお肉をあーんしてくれる。
「にい、もぐもぐ。にいたま、あぐっ、ごっくん。あ、あのね、あ、おいちい!」
兄様と仲良くご飯を食べていたら、父様はセバスと母様に引きずられて執務室へと消えていた。
う、うーむ、何も手伝えなくてごめんなさい。
この後は、ぼくもお祖父さまのいるプルーパドルの街へ行く準備を、兄様とリリとメグたちとします!
ブルーパドルの街には海があるんだって!
楽しみだなぁ。
クラーケンとかいるのかなぁ、わくわく。
「かわいいなぁ。レン君は海に行くのかぁ」
ニヨニヨしながら下界の水鏡を見ていたら、狐の神使にポカンッと頭を叩かれた!
「痛いっ!」
「サボらないでください。受験シーズンが終わったら縁結びの季節です。春の出会いを終えた者が恋の成就を願うシーズンで忙しいのですっ」
「ふわぁーい」
わかってるよ。
ここでちゃんとお仕事しないと出雲で上の神から小言を言われる。
でも、お仕事の前に、気になることはフォローしておかないと。
海……海かぁ……。
白銀と紫紺は神獣聖獣だから大抵のトラブルには対応できると思うけど、泳げたかな?
それと、レン君が楽しみにしているクラーケンはあの辺りに出没するっけ?
僕が呼び寄せてもいいけど、白銀たちで討伐できるかな?
実力は申し分ないけど、相手は海の中だからねぇ。
「水中戦に強い者を配置しておけばいいのでは?」
狸の神使が僕のおやつを摘まみながら助言してきた。
「そうだね」
白銀と紫紺は地上戦向きで、海だったら空からも攻撃できるよね?
「エンシェントドラゴンは簡単に動いてもらったら困るし、フェニックスはどこかの山に籠っているみたいだし」
そうなると水の中で自在に動ける……ホーリーサーペントって水の中も大丈夫かな?
「あっ!」
そうだ、そうだった。
海なら彼のテリトリーじゃないか!
「早速、呼び出してレン君のこと頼んでおかなきゃ!」
僕は、クルリと水鏡を指でかき回した。