ユニコーンの処遇 9
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いつも、ありがとうございます。
父様の頭から角がニョッキリと生えて、兄様たちにガミガミとお説教しています。
途中、紫紺が参入して父様になにやらごにょごにょと耳打ちしていました。
途端、父様はガオーッ! とばかりにさらに怒り出したので、ぼくはびっくりです。
「ヒューがレンと街で買い物するのを理由に外に出たことを告げ口したのよ。ついでに庭師を脅して裏門から荷馬車を使って出たこともバラしておいたわ」
ペロペロと前足を舐めて顔をくしくしとしたあと、とっても晴々とした顔をする紫紺にぼくはお口をあんぐりと開けた。
そ、そんなことを父様が知ったら怒るよ? いや、もう既にかなり怒っているし、今回は非がまったくないアリスターまで監督不行き届きとやらでとばっちりを受けている。
……ぼくは兄様とアリスターにも両手を合わせて目を瞑る。
なーむー、です。
さて、ふよふよと浮いて動けるようになった馬のぬいぐるみじゃなかった、翡翠は瞬きや口や耳も動かせるようになり、今は子供の姿で真紅とペチペチぽかぽかとかわいい叩きっこをしている。
瑠璃の優しさで人化もできるようにしてもらったけど、翡翠は不服みたい。
まあね、人化したら美青年だったのに、今は真紅と同じくらいの少年の姿だから文句があるのかもしれない。
でも、とってもかわいいとぼくは思います!
「特別に紫紺には翡翠の変化のコントロールができるようにしておくぞ」
白銀と紫紺はぬいぐるみの翡翠を動けるようにできる権限があるらしい。
「あら、アタシだけ?」
「白銀に渡すと翡翠の言われたままホイホイ許してしまうじゃろう。あ奴はとにかく仲間に甘い奴じゃから」
「そうね。じゃあ、アタシがキッチリ管理するわ」
紫紺は翡翠を人化させることができるようになったのかな?
「それだけじゃないわ。反対もできるのよ。人化した翡翠をぬいぐるみに戻すこともできるの」
こんな風にね、とバチンとウィンクと共に翡翠がホワッと白い煙に包まれて、またもやぬいぐるみの姿に戻ってしまった。
「ああーっ! なんてことするんだよっ」
ポーンポーンと弾けるように空中で動いたあと、翡翠は再び人化しようとしたけど、できなかった。
「そうそう。言い忘れていたが紫紺たちのほうが力が強いから翡翠の思うままには変化できぬ。残念だったな」
「そ、そんなぁぁぁっ」
ポトリと床に落ちた翡翠はポタポタと涙を零し始めた。
「また、ないちゃった」
「放っておけ。レン、儂らはそろそろ帰る。またくるぞ」
瑠璃が大きな手でぼくの頭を優しく撫でたあと、桜花がふわっと抱きしめてくれる。
「またね、レン。怪我しないでね。病気にならないでね」
「うん」
ぼくも桜花の背中をそっと抱きしめて、大好きな二人とお別れした。
「結局、厄介ごとだけ残っていくのか……」
白銀が耳も尻尾もへにょりと垂らして力なく呟くと、真紅が苦々しく言い捨てる。
「俺様はあいつの面倒はみねぇぞ」
「お前がいつ、他の神獣聖獣たちの面倒をみたんだよ」
「だって、あいつ俺様の子分だろ? でも面倒はみない。絶対、めんどくさいことになる」
白銀と紫紺が翡翠の世話を擦り付け合っている会話にぼくは大事なことに気が付いた。
大変だ! セバスに確認しなきゃ。
怒れる父様としょんぼり兄様とアリスターの横に涼し気に立っているセバスへと小走りで近寄る。
「セバス、セバス」
セバスの上着の裾をちょいちょいと引っ張ると、セバスがぼくの目線に合わせるようにしゃがんでくれる。
「なんでしょう、レン様」
なんだか兄様の眼がぼくに「助けて」と訴えている気もする……ご、ごめんなさい、兄様、あとでね。
「あのね、セバスは、ひすいといっちょに、ねるの?」
「は?」
だって、セバスと翡翠は従魔契約をして主人とペット? みたいな関係になったんでしょ?
「だったら、ずっといっちょ?」
ぼくが首を傾げて尋ねると、セバスの顔がくしゃっとすっぱいものを食べたような顔になった。
「そ、それは……たいへん、ご遠慮したいと言いますか……はた迷惑と言いますか……とにかく、別の部屋を用意します」
「んゆ? いっちょ、なし?」
ぼくがセバスと翡翠は別々の部屋で過ごすのかと聞くとセバスはホッとした顔で深く頷いて答えた。
「はい。私は仕事もありますので、あんな珍妙なものの相手はしていられません」
珍妙……、あのね、一応翡翠は聖獣なんだよ?
でも、セバスは鼻で笑ったあと「やっぱり目障りだから門にでも吊るしておくか」と物騒なことを言い出した。
「ああ、ちあうの。ちあうの。あのね、ぼくとおなじへや、いい? ひすいとぼく、いっちょ」
ちゃんと飼い主さんの許しをもらわないとね、ぼくと翡翠が同じ部屋で寝てもいいのかって。
ぼくの部屋……あ、いつも兄様の部屋で一緒に寝ているんだけど、いいかな?
うん、今は兄様に話しかけるのは止めておこう。
父様がお怒り過ぎて、シクシクと泣き出しているところだし。
「あんなのでよかったら枕にでもしてください。いや、それでは恐れ多いかな。じゃあ足置きにでもしてやりなさい」
「……しないよ?」
ちゃんと白銀たちと同じクッションをリリとメグに用意してもらいますよ?
「げえっ。お前と同じ寝床かよ」
「真紅。お前だって人のこと言えないだろうがっ。あれだけ俺たちに迷惑かけて同じ部屋で休んでるんだからな」
白銀と真紅がブツブツ言い合っているけど、みんな仲良くしようよ。
「はーっ、しょうがないわね。そもそもセバスがぬいぐるみ片手に仕事しているほうが怖いものね、仕方ないか」
紫紺のセリフに白銀と真紅もその姿を想像したのか、ブルルって震えていた。
「うわわっ、紫紺。変なこと言うなよ。わー、鳥肌たった」
父様も青い顔で両腕を摩っている。
「……失礼ですね」
ちょっと拗ねたセバスがかわいいなって、ぼくはクスクスと笑いを零した。