ユニコーンの処遇 5
誤字脱字報告ありがとうございます!
いつも、ありがとうございます。
ユニコーンに騎乗するべきかペガサスの背に乗って空を駆けあがるべきか、とっても悩ましい問題だよね!
そもそもペガサスさんがこの世界に存在するのかどうか、ぼくは知らないんだけど。
「おるぞ」
「そうなの?」
瑠璃が昔を思い出すようにやや顔を上に向けて、ポツポツと話してくれる。
「奴らは群れでおるはずじゃ。どこかの山に里がある。慎重な性格じゃから、あまり町には下りて来んな」
「そうねぇ。私も長いこと見てないわ。どうしてもレンが乗りたいなら捕まえてくるけど?」
ぼくは桜花の言葉に慌ててブンブンと頭を振った。
「ううん、いいの。ぼく、へいき」
前の世界での保護獣扱いや絶滅危惧種とかだったら、簡単に捕まえてきちゃダメだと思うの。
「そう、じゃあユニコーンで我慢してね」
桜花が申し訳なさそうに眉を下げてぼくの頭を撫でてくれるけど、翡翠はその言葉にキーッキーッと怒ってまた喚いた。
「だ、か、ら、僕は聖獣なのーっ! 僕のほうが偉いし美しいのーっ!」
ぼくと兄様はそっと両手で両耳を塞ぎました。
「うるさいですよ」
ゴツンッ! あ、セバスから教育的指導が入りました。
「そもそも、翡翠をどこで飼育するか? て問題だろう?」
父様が真面目な話に飽きてきたのか、モグモグと焼き菓子を頬張りながら翡翠のことペット扱いしました。
「さすがに厩では差し障りがありますねぇ。牝馬たちにはいい馬を産んでもらいたいですし」
セバスまで翡翠を馬扱いしている状況に、当の本人じゃなかった本馬は静かだね?
「あれを見てごらん」
兄様が指差す先には、紫紺が魔法で作った蔓にグルグル巻きにされて口いっぱいにマフィンを詰め込まれている翡翠の姿があった。
「んゆ? にいさま、あれ、いきできゆ?」
マフィンはおいしいそうだけど、翡翠の目がグルグルしてて顔が真っ赤に染まっていくよ?
「大丈夫じゃないかな? 聖獣なんだし」
「そっか」
そうだよね、シエル様が創った神獣聖獣たちはみんな強くで逞しいもの。
「いや、窒息してるぞ、あの聖獣様」
アリスターの指摘に、焦った桜花が翡翠の背中を思いっきり叩いたら、翡翠の口からマフィンがビュッと勢いよく飛んでいきました。
「ヒー、ヒー、ヒドイ目にあった」
「それはこっちのセリフよ。アンタが大人しくしていれば、こんな騒ぎにならなかったんだから」
紫紺に同意するように白銀と真紅がウンウンと頷いている。
「あー、厩がダメだったら、別に小屋でも建てるか? 敷地の端の端の端のほうに」
「父様……」
兄様がちょっと意地悪な父様を冷たい目で見ています。
でもね、母様とリカちゃんの身の安全のために、父様は翡翠に対して厳しい態度になってしまうの。
「みからでたさび、でしゅ」
ぼくもリカちゃんの安全のためには心を鬼にします!
「なんで! フェンリルたちは屋敷の中で生活しているんでしょ。だったら僕だって」
「ダメじゃろう。お主、そのままでは体がデカイし」
「お馬さんの状態じゃ、お屋敷の中は邪魔でしょう?」
瑠璃と桜花からダメ出しをもらい、白銀と紫紺は「シシシ」と悪い顔で笑う。
「人化したら女癖が悪くてダメ! 獣体だとデカくてダメ! 俺様みたいな無害な子供の姿になるのはどうよ?」
真紅が腕を腰に当てババーンと提案するけど、翡翠はツーンと顔を横に向ける。
「フェニックスったら神気がほとんど感じられないよ。その姿だって、人化したらその姿にしかなれないんでしょ? やだよ、そんな恥ずかしい姿」
「なんだと、こんにゃろーっ!」
文字通り真紅がグルグル巻き状態の翡翠に飛びかかっていきました。
ペチンペチンと翡翠を叩く音が聞こえるけど、なんかかわいい音だね?
「これこれ、やめなさい真紅。それより翡翠は獣体の縮小化はできんのか? 白銀や紫紺のように」
瑠璃にひょいと抱えあげられた真紅は四肢をバタつかせたけど、翡翠に届くわけもなく瑠璃の腕の中で暴れている。
ファサッと自慢のフサフサ尻尾を翡翠の前で動かし、白銀がフフンと胸を張る。
紫紺はしなやかな動きで翡翠の前を歩き、ちょこんと前足を揃えてお座りの姿勢。
「……こ、これぐらい、僕にだってできるよ」
「なら、やりなさい。小さくなっても迷惑行為の懸念がなくなるわけではないですが、少しはマシでしょう。いざとなったら閉じ込めてしまえますし」
ううん? なんかセバス、後半に物騒なことを言ってなかったかな?
「や、やればいいんでしょ」
翡翠がやけくそ気味に叫んでボワッと白い煙に包まれる。
ぼくは小さなお馬さん、真っ白な馬体にちょこんと生える緑色の一本角の小さなお馬さんの姿を想像して、ワクワクした。
やがて、白い煙が消え視界がクリアになると、長い蔓がグルグルと撒かれた中央にポツンと小さなお馬さんが横たわっていた。
「にいたま、すごい! ちいさくなったよ」
「本当だ。白銀たちより小さいね」
生まれたての子馬よりも、もっともっと小さい姿の翡翠にぼくたちはビックリだ。
「おやまあ」
「翡翠ちゃん、頑張ったのね。そんなに変化は得意じゃないはずなのに」
瑠璃と桜花は最早、お爺ちゃん、お母さん目線で感心していた。
「ちっちぇな」
「いいんじゃない? これで首に縄でもつけて繋いでおけば悪さもしないわよ」
「……。俺様の獣体よりはデカイな」
白銀たちは小さくなった翡翠を囲んでワイワイと楽しそう。
「おかしいね? 翡翠なら好き勝手に言われたら騒がしいと思うんだけど……」
兄様が首を捻ったあと、そろそろと静かに翡翠へと近づいていく。
ぼくも兄様の後ろをトコトコ。
「うわっ、こ、これは……」
ムムム、なにやら事件の予感……。