大事な人 4
うっかり危険動物の前に無防備で現れてしまったソフィアさんと、彼女を守るユージーン様が辺境伯邸へと退場していきました。
ユージーン様がさりげなくソフィアさんを気遣っていて、二人の間に優しいほわほわした空気が流れているようでした。
兄様も「やれやれ。もっと素直になればいいのに」とか呟いてましたけど、あの二人は《《仲良し》》さんなんですよね?
ぼくは聖獣ユニコーンの乙女センサーの幅広さに慄き、いつもとは違うキリリと凛々しいユージーン様の姿に驚き、父様のしょんぼり疲れた背中に心を痛めていたけど……厄介事というのは連続で訪れるものらしいです。
父様が無事に帰還したはずなのに、それ以降の連絡がなかったことに母様が心配して騎士団の敷地まで来てしまいました。
途中、ユージーン様たちとすれ違っていたら事情を聞けたのに、運の悪い事にまったく違う道からの登場です。
そして、ユニコーンの乙女センサーはしっかりと母様たちに反応しています!
「ちっ、人妻でも構わないのかよ」
「ちょっと、教育的指導が必要ね」
白銀と紫紺が母様を守るためにダッと走り出すけど、それよりも早く、風よりも早く、ぼくたちの横を走り抜ける影があった。
「アンジェーっ!」
ビューッと髪の毛を激しく乱すほどのスピードで父様が一直線に母様の元へと走っていきます。
「母様っ!」
父様はやっ! と呆気に取られていると、真横にいた兄様までもが走り出してしまいました。
ポツンと両足首に嵌められていた錘のアンクレットをその場に置いて。
「……まだしてたの?」
足の筋力アップのために足首に錘を付けて生活をしていた兄様だけど、もうすっかり体も強くなって必要なくなったはずなのに、まだアンクレットを愛用して訓練していたなんて……。
そして、身軽になった兄様も父様に負けじと全力疾走で母様を守りにいきます。
ぼ、ぼくも、母様とリカちゃんを守らなきゃ!
トテトテ、ドタン。
トコトコ、バタン。
「うーっ……」
走ろうと足を動かすとバランスを崩して転んでしまいました。
「ほら、レン。爺と一緒に行こう」
ひょいと瑠璃に抱き上げられて、その長い足でスイスイと前に進みます。
真紅は桜花に背負ってもらって楽チン移動です……ズルい。
「かわいい乙女と小さき乙女よーっ。我が一生護ってあげますよー」
守護の押し売りを叫びながら母様とその腕に抱かれているリカちゃんに突進していくユニコーンに、ブルルとぼくの背中が震えます。
「ふざけるなっ!」
父様がユニコーンに向けてカチャリと剣を鞘から殺気を込めて抜け放ち、バチバチと刀身に雷を纏わせながら振り下ろそうとする。
「待てーっ!」
白銀の制止の言葉が聞こえない父様の様子に、このままでは周りも巻き込んでの大惨事が……とぼくはギュッと目を瞑った。
「任せたわよ」
紫紺は俺にギルの対処を一任した後、ヒュンと転移で移動しアンジェとリカを連れて再び安全な場所へと転移する。
確かにこのままでは、頭に血が昇ったギルの攻撃にアンジェたちも巻き込まれるもんなぁ。
俺はユニコーンのバカを助けるというより、ギルの頭を冷やさせるために行動する。
とりあえず、邪魔なユニコーンは背中にドロップキックをお見舞いしてどかし、ギルの剣を交差した腕で受け止めた。
バチバチ、ビッシャーン!
刀身に纏った微弱な雷と、俺が腕に雷魔法を発動させた魔力がぶつかり合い、驚くほどの威力で周りに放電されていく。
あ……しまった。
周りに被害が……でてしまった。
ギルはギリギリと険しい顔で俺の腕に剣を押し付けてきやがるし、ギルの後ろを走っていたヒューは雷の勢いでかなり後方へと吹っ飛ばされていた。
ちょっと人族相手に力を入れすぎてしまったが、ギルの野郎、相手が俺に変っているのに剣をグイグイと押し付けてくんなっ。
「おいっ、ギル! 正気に戻れ」
ブォンと交差した腕を力いっぱい払い除けると、ギルは後ろに二三歩後退る。
「ハッ! 白銀、邪魔をするな。あの馬野郎、切り刻む」
「気持ちはわかるがやめてくれ。あれでも聖獣だからな。お前に天罰が当たったらヒューとレンに申し訳なさすぎる」
ハハハと力なく笑った俺は、ギルの奴にちょいちょいと尻もちついて呆然としているヒューを指差す。
「あ……すまん」
上に構えていた剣を力なくだらりと下げると、ギルは慌ててヒューへと駆け寄って行った。
「ふーっ。ギルの野郎、本当に人族の騎士か? 神の祝福でもあるんじゃねぇの?」
正直、ギルの剣を受けた腕は痺れて感覚がないし、雷魔法を纏っていたはずの腕が火傷を負っているのに、俺自身が驚いている。
しかし、今はこのバカの始末だ。
「おいっ、ユニコーン。覚悟はできてるんだろうな?」
「ひっ、ひいいいぃぃぃぃっ!」
この問題児め! 今さら逃がすかよっ!