大事な人 3
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人化した麗しい姿のユニコーンは、執事服でこちらへ駆け寄るソフィアさんに向かって両腕を広げ、なんだかわからない守護の押し売りを叫びながら走り寄っていく。
ぼくは突然のことに驚いて両目を大きく見開くだけで動けないし、兄様たちも「あっ」と言葉を発したもののユニコーンを追い駆けるまでは咄嗟にできなかった。
「行くぞ、爺」
白銀がバッと走り出そうとしたのに、瑠璃は「ホッホッホッ」とお爺さんっぽい笑い方で白銀の腕を掴んでその足を止めてしまう。
「まあ、見学していよう」
「えっ!」
この非常事態にのんびりとした瑠璃へぼくが批判めいた目を向けると、瑠璃はバチンとウィンクをして返した。
「大丈夫よ」
「ええ、愛ね」
紫紺と桜花もゆったりと構えているし、なんだったら微笑ましいものを見るような穏やかな表情だ。
はて?
「乙女よーっ。我の愛を受け取りたまえーっ」
見知らぬ美しい男の人にいきなり愛の告白を受け抱きしめられようとしている状況に、ソフィアさんはビックリしてオロオロしている。
助けも呼べないほどに混乱しているソフィアさんは、ユニコーンの餌食になってしまう! と焦ったぼくでしたが……。
ガッキーン!
ユニコーンとソフィアさんの間に剣を持った誰かが割って入り、しかも問答無用でユニコーンに斬りかかっている。
「誰だ貴様。ソフィアに近寄るなっ!」
ソフィアさんを背中に庇い険しい顔でユニコーンに剣を向けているのは……。
「ユージーン。間に合ったか」
「にいたま。ユージーンさま、つおい?」
いつも飄々としていて、よくわからない事に夢中になるブルーベル辺境伯嫡男のユージーン様。
ぼくが知っているユージーン様は、ちょっとヘラヘラしているガキ大将みたいな人なのに、ユニコーンと向かい合っているユージーン様は別人みたいに凛々しくかっこよく見える。
「本気で挑めば強いよ。普段は……真面目にやらないだけだ」
兄様は困ったように眉を下げてぼくに教えてくれたけど、聖獣ユニコーンと対峙している従兄弟の心配はしていなさそう。
つまり、それだけ剣の腕はあるってことだよね?
「ユ、ユージーン様」
根っからの真面目気質で執事職に取り組んでいるソフィアさんは、主であるユージーン様に庇われていることに思い悩む素振りをみせる。
「ソフィア、俺が守るからな。今すぐこのふざけた男を叩きってやる!」
「ハッ! 人ごときが何を言っている。貴様みたいな野蛮な男が僕の乙女に相応しいわけがなかろう」
ギリギリと睨み合う二人……ユニコーンってさっきまで水の中級精霊エメとやり合っていたのに、今はユージーン様と揉めているなんて、聖獣なのに好戦的だなぁ。
あ、ぼくの知っている神獣聖獣のほとんどは好戦的でした。
ユニコーンと喧嘩していたエメは、プリシラお姉さんとキャロルちゃんを連れて騎士団の寮まで避難して行く。
「瑠璃様。あ奴をなんとかしてください。どこに行っても迷惑な奴です。間違っても海に連れて行ってはいけませんよ」
人魚族はみんな見目麗しいから、ユニコーンの犠牲になってしまうとブツブツ文句を言うエメに、瑠璃も苦笑しながら頷いていた。
結局、ユージーン様とユニコーンの対決は「ダメよ、ユニコーン。愛し合っている二人の間を邪魔したら」と桜花の仲裁により、事なきを得ました。
ただ、「愛し合っている二人」と宣言されたユージーン様とソフィアさんは顔を真っ赤にして黙ってしまったけどね。
ちなみにユニコーンは耳を紫紺にギュッと抓まれ引っ張られて引きずられていました。
い、痛そう……。
「あー、ユージーンもソフィアも面倒ごとが起きているから、今日は辺境伯邸に戻りなさい」
父様の疲れた声に、ユージーン様たちはコクコクと無言で頷くと足早に辺境伯様のお屋敷へと去って行きました。
「なかよし!」
「そうだねぇ」
ユージーン様ったら、ちゃんとソフィアさんの手を繋いで行きました。
ふふふ、仲良しはいいことだよね!
「つ、疲れた。この後にまだ話し合いがあるのか……」
父様はガックリと膝を付いて項垂れてしまいました。
「まあまあ、父上殿。儂がちゃんと始末をつけますから」
瑠璃が父様の背中を優しく摩って労わってくれています。
「あー、でも海には連れて行くなって言われたんだぞ? もう面倒だから神界に捨ててくればいいのに」
そろそろ、この騒ぎに飽きてきた真紅が投げやりに提案して、白銀と紫紺が「そうだな」と同意していました。
シエル様に押し付けていいのかな?
「聖獣様のことだからね。僕たち人間には荷が重いよ」
兄様が父様のちょっと情けない姿を見ないように顔を背けていますが、父様の心労の一つに今回の兄様の行動も含まれていますよ?
そして、ハーヴェイの森の調査から騎士団が戻ってきたらしいのに、正式な帰還報告がなかったことに心配になった方々がこちらまでやって来てしまいました。
「ギル? 戻ってきているの?」
眠っているリカちゃんを抱いた母様がマーサをお供にゆっくりとこちらへ歩いてきます。
「むむっ、乙女の気配!」
ああーっ! ユニコーンが母様に反応してしまった!