大事な人 2
ぼくは白銀に促されて、後ろで繰り広げられているユニコーンとエメのタイマン勝負にハラハラドキドキしながら泉まで移動した。
「ここで、るりよぶ?」
チャラリといつも首から下げている瑠璃の鱗を取り出して、白銀にお伺いをたてたらフルフルと首を振られた。
「んゆ?」
「この泉にその鱗を浸して瑠璃を呼べばいい。爺さんが自分で開いた道を通って最速で来るから」
どうやら、いつもの方法は「召喚」と「転移」が混ざった複雑な魔法で、呼ぶぼくと呼ばれる瑠璃と両方に負担があるらしいのです。
……負担なんて感じたことなかったけどな?
だから、今回は元々瑠璃がブルーベル辺境伯家に遊びに来るために開いてある道を使って呼び出そうということです。
よくわかんないけど、ポチャンと瑠璃の鱗を泉に浸してお名前を呼びましょう。
「るーりー」
お願い、瑠璃。
早く来てください。
ぼくの後ろで聖獣と精霊の死闘が大変なことになっています。
二人とも直接の攻撃はしていないみたいだけど、口喧嘩がものすごく低レベルで兄様とアリスターの顔がスンッとしていて怖いです。
ぼくの声が海の奥深くにいる瑠璃に届いたのか、プクプクと泉の中央付近が泡だってきました。
「るり!」
ぼくの声に反応して、ザップーンと大きな水柱と共に瑠璃が天に上る竜のように姿を現し……瞬時に人化してぼくの前に降り立ちました。
「るり、こんにちは!」
「おおう、レン。こんにちは。また少し大きくなったな」
え? そう? ぼく、大きくなった?
テレテレと恥ずかしがっているぼくの体を優しく横に避けた白銀は、瑠璃に向かって喚き出した。
「おいっ、爺さん! あれを何とかしてくれ。あいつ、相変わらず自分大好きで気持ち悪ぃし、女の尻ばかり追いかけてるし。アンタは聖獣の教育係だろ?」
「はて? 儂はそんなものになった覚えはないが……確かに見苦しいのぅ」
瑠璃は「短足馬!」とか「魚臭い」とか言い合っている二人に冷たい視線を送ると、右手を上げてブンッと振り下ろす。
バッシャーン!
「あ……」
ユニコーンとエメに大量の水がかけられた。
しかも、海の水だと思う。
だって、二人の足元でビチビチと小さなお魚さんが跳ねているもの。
「やめい、二人とも」
「げっ、リヴァイアサン!」
「る、瑠璃様」
瑠璃に向かって顔を顰めて逃げようとするユニコーンと、その場に片膝をついて礼をするエメ。
「ちょっと、どこに逃げようとしているのよ」
逃げようとしていたユニコーンの襟首をガシッと掴んで止めたのは、いつの間にか転移で戻ってきた紫紺だ。
「ダメよ、ユニコーン。みなさまに迷惑をかけちゃ。桜花は悲しいわ」
紫紺の後ろからピョコンと姿を現したのは、アイビー国にいるはずの聖獣ホーリーサーペントの桜花だ。
「げげぇっ! ホーリーサーペントまで」
なぜか、桜花を見てヘナヘナと力なく膝から崩れ落ちたユニコーンに、ずっと高見の見物をしていた真紅は「イヒヒヒヒ」と意地悪く笑うのだった。
色々と目まぐるしく状況が動きすぎたので、父様は一つ息を吐いてみんなを騎士団の団長室横にある応接室へと誘いました。
「とにかく、整理して落ち着きたい。辺境伯への報告はそれからだ」
げっそりとした父様がかわいそうだなぁとぼんやり見ていたら、父様が兄様にも同行するように命じていた。
「僕もですか?」
「……お前がなぜハーヴェイの森にいたのか聞いていないからな」
あ、これ、ちゃんと怒られるやつだ。
「レンも来なさい。正直、このメンバーをまとめるのは、とうたまが辛い」
ああ、父様がしょんぼりしちゃった。
「あい。ぼくもいっちょ」
兄様もいるし、白銀たちも行くんでしょ? だったらぼくも参加します。
セバス、おいしいお菓子をお願いします!
「かしこまりました。……あ、これは」
珍しくセバスが戸惑う様子にぼくたちが驚いていると、騎士団の寮から執事服を着た人がパタパタと走ってきた。
「お帰りなさいませ。ヒュー様。お出迎えが遅くなり……」
うわわわっ、ヤバいです!
執事見習いのお姉さん、ソフィアさんがこちらに来てしまいました。
当然、乙女ハンターのユニコーンが黙っているはずがありません。
「キリリとした精錬なる乙女よ、我が守護を受け取ってー!」