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大事な人 1

父様たちはいつも使う騎士団専用の街壁門を目立たないように通り抜け、大通りや貴族屋敷通りを避けて、大回りして帰ってきた。


「んゆ?」


ここはどこ?


「騎士たちが騎乗する軍馬の厩や馬場がある広場だよ。レンはこっちまで足を運んだことがないからね」


兄様が教えてくれたように、広い草原でチラホラと大きなお馬さんがゆったりと過ごしている。

でも、白銀や紫紺の存在に気づくと、ピューッと走って逃げて行ってしまった。


「まだ、馴れねぇのか、あいつら」


「仕方ないわよ。ギルやヒューの馬と違って根性足りないんだから」


逃げて行くお馬さんのお尻をギラッと睨む白銀と、まったく興味のない紫紺の二人の正体は、神獣と聖獣というやんごとない存在なので、軍馬とはいえお馬さんがビビッてしまうのは仕方ないよね。

同じ聖獣の真紅には、ちっともお馬さんたちはビビッてなかったけど。


「うるせー」


真紅はまだ失った神気が戻りきってないので、威厳とかなくても仕方ないんだって。


「威厳なんて、元からねぇだろう」


「そんなことより、早く瑠璃を呼んじゃいましょう」


紫紺が騎乗しているユニコーンの横腹をポンッと軽く蹴る。


「ぐえっ」


今、ユニコーンは道中で女性を軽々しくナンパしないようにと聖獣ユニコーンとバレないように、すっぽりと頭に布を被らされている。

それでも頭の角は隠しきれないのだが、紫紺はその角にいろいろと袋をぶら下げてカモフラージュしていた。


「瑠璃を呼ぶなら、レンに頼めばいいんじゃないか?」


白銀の背中にへばり付いている真紅がぼくを指さす。


「レンに負担をかけなくても、エメのいる水溜まりから呼べば出てくるわよ」


紫紺が面白くなさそうにフンッと鼻を鳴らしているけど、プリシラお姉さんの契約精霊でもある水の精霊エメが棲んでいるのは騎士団の敷地にできた泉で、水溜まりではないと思う。

白銀たちの会話が聞こえていたのか、父様とセバスもエメがいる泉の方へ馬首を向ける。


「早く瑠璃を呼んでこいつ引き取ってもらおうぜ」


「お目付け役に桜花も呼んでおきましょうか?」


白銀と紫紺はこの迷惑な聖獣ユニコーンを瑠璃に押し付けてしまう気だ。

大丈夫かな? 瑠璃の迷惑にならないかな?

ぼくは布を被ってしょんぼりと歩くユニコーンを見て、ちょっと不安になったのだった。














ここに残っていた騎士たちは、先に戻った女性騎士たちから話を聞いているのか、一人もいなかった。

こんなに静かな騎士団の練兵場は初めてです。

不思議な気持ちになりながら、泉へとゆっくり移動していくと、泉の前に立つ人影が見えてきた。


「「あっ」」


兄様とアリスターが同時に声を上げる。

泉に半身を浸したエメの前に立つのは、プリシラお姉さんとアリスターの妹のキャロルちゃんだ。

ぼくも、あれ? と思ったら、隣でユニコーンが「ヒヒーン」嘶いて、背中に乗っていた白銀と紫紺を振り落としてしまう。


「おいっ!」


「ちょっと!」


二人が呼び止める間もなく、一直線に走っていくユニコーン。

もちろん目当ては……。


「聖なる泉に佇む美しくも儚い清らかな乙女よーっ」


パッカラパッカラと軽快に駆ける蹄の音が途中からタタタッと人の足音に変わる。

器用なことに走りながら人化したユニコーンは、突然のことに驚いて固まっているプリシラお姉さんに向かってダイビングハグをしかける。


「ああーっ!」


兄様が慌てて走り出して手を伸ばすけど間に合うわけがないし、アリスターは必至の形相でキャロルちゃん目掛けて疾走中。

白銀と紫紺は、ユニコーンの暴挙をヒクヒクと口の端を引き攣らせて見送るだけだ。


「ど、どおちよう」


ぼくはオロオロして両腕を上げたり下げたりしている。

だって、どうしていいのかわからないんだもん!


ビシャン!

んゆ?


「何奴。姫に手を出すとは、万死に値するぞ」


泉の中から水の精霊エメが出てプリシラお姉さんの前にドドーンと立ち、不審者ユニコーンを水鉄砲で撃退していた。

ただの水鉄砲ではなく、撃ち出された水がユニコーンの顔を覆いつくす球体となっているから、ユニコーンはたぶん呼吸ができない。

モガモガと苦しそうに藻掻いているうちに、エメはプリシラお姉さんを、肩で息をしいてるアリスターは妹のキャロルちゃんをその場から離す。


「うううぅぅぅっ、ぷわはっ」


ユニコーンは、なんとか風の魔法で顔周りの水を散らして苦しみから解放されたみたいだ。

ギリギリと睨み合う水の中級精霊エメと聖獣ユニコーンを横目に、戸惑い顔のプリシラお姉さんとキャロルちゃんは、アリスターがこちらへと誘導してきた。


「たかが精霊ごときがいい態度だね」


フンッと鼻を鳴らし腕を組んでやや顎を上にしたユニコーンは、エメに対して口撃を開始する。

対するエメは、いつもの柔和な表情を厳しく引き締めてユニコーンを睨む。


「たかが聖獣ごときが強く出たな」


「なにっ!」


お互いの視線がバチバチと重なり、緊張感が高まっていくなか、紫紺はあっさりと転移する。


「じゃ、アタシは桜花を呼んでくるわ」


「おう。こっちは瑠璃に収めてもらうわ」


軽いやりとりで紫紺はシュンと一瞬でその姿を消し、白銀はエメがいた泉へと足を向ける。


「え? ええ? しろがね?」


「放っておけ、あいつとエメなら、エメが勝つよ。エメは()の精霊だからな」


こちらへと振り向いた白銀はニヤリと楽しそうに口角をあげていた。

聖獣ユニコーンが中級精霊に負けてもいいの?

ぼくと兄様が顔合わせて首を傾げていると、真紅がつまらなさそうにぼやいた。


「神獣聖獣最弱ヤロー」


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◆◇◆コミカライズ連載中!◆◇◆ b7ejano05nv23pnc3dem4uc3nz1_k0u_10o_og_9iq4.jpg
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