求めるもの 8
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いつも、ありがとうございます。
じぃーっと見つめられています、父様が人化した聖獣ユニコーンに。
どれぐらい見つめ合っていたのか、ふいにユニコーンが顔を横に向けるとフンッと鼻で軽く笑いました。
「見られない顔じゃないけど、あれだね。知性が少し足りない顔をしているよね。残念だけど」
ふわさっと長い髪を払って、ぼくの自慢の父様をそう評すると、その後ろに立つセバスをじぃーっと見つめだす。
セバスは柔らかい笑みを口元に浮かべているけど、額にピキピキとした筋があります。
まるで高級メロンの皮みたいにピキピキと、徐々に広がっていくよ?
なんか、セバスのほうから冷たい空気が漂ってくる気がして、隣に立つ兄様の手をギュッと握りしめた。
「ふむ。こっちの男よりは知性のある顔立ちだけど、やっぱりダメだね。こっちはワイルドさが足りないよ」
両腕を肘で曲げて手のひらを上に向け、やれやれとユニコーンは頭を左右に振るう。
「それは、申し訳ありません」
セバスはユニコーンに向かってキッチリと腰を曲げて頭を下げた。
「ひいっ」
父様がセバスを見て、二、三歩後ずさりして小さな悲鳴を上げる。
な……なんだろう、ぼくもちょっと怖い。
ユニコーンは、そんな父様とセバスのことなど興味がないとばかりに、クルリと背を向けてぼくたちのほうへ歩いてくる。
途中アリスターの前で足を止め、ジロジロと頭の上から爪先まで見た後に、クッと口端を歪めて言い捨てる。
「ガキは問題外」
アリスターの真っ赤な髪の毛が怒気で逆立つけど、ぐっと拳を握って我慢している。
うん……性格に問題ありだけど、聖獣だからね、神様の使いだし……叩いたらダメだと思う。
ぼくがアリスターの様子にドキドキハラハラしている間に、ユニコーンは優雅に足を進めピタリと兄様の前で止めた。
じぃーっ。
兄様もユニコーンのお顔をじぃーっと見つめ返しています。
兄様、がんばって! ぼくは兄様の手をギュッとさらに力を込めて握ります。
「…………、フ、フンッ。ま、まだ君も、こ、子供だねっ」
ツーンと顔を横に背けてカミカミでそう言うと、兄様の隣りに立つぼくの姿にようやく気が付いたみたいにパチパチと数度瞬きをするユニコーン。
「……? なに、この子」
じぃーっとぼくのことを眺めることなく、一瞥しただけでユニコーンはつまらなさそうに視線を外した。
「小さくて貧相。黒くて地味、華がないね! 賢くもなさそうだし甘ったれで、まるで迷い込んだアヒルの子じゃないの?」
ユニコーンは腕を組んで、イヒヒヒヒと歯をむき出してぼくのことを笑った。
うん、人化してもバカにした笑い方はお馬さんのときと同じなんだね。
うん……知ってたよ。
ぼくが、地味で貧相でどうしようもない子供だって……知ってた。
こちらの世界でも、絵本にキレイな鳥の家族の中に迷い込んだ醜いアヒルの子の話がある。
キラキラしている兄様と父様、賢いセバス、頼りになる赤毛のアリスターの中にいたら、ぼくは取り柄のないアヒルの子だもん。
知ってたもん。
だから、平気…………だもん。
「……っく。うぇぇっ」
ぐしっぐしっと溢れちゃう涙を袖で拭いて、ぐっと唇を噛みしめた。
ここで泣いたら、兄様たちが困るから、だから……泣かないもん。
「ふえっ」
ぐしっぐしっ。
ドカッ!
涙で視界が滲むぼくの前から、ユニコーンの体が横にぶっ飛んでいった。
「んゆ?」
な、何が起きたの?
突然の出来事に目をパチクリ、隣にいる兄様に抱き着いて安心しようとしたら、兄様がぼくの手を優しく解いて飛んで行ったユニコーンを追いかけていった。
「んゆ?」
え? 何事。
兄様の前には、白銀と紫紺がダッシュでユニコーンを追いかけていて、追いついたと思ったら足でゲシゲシと情け容赦なく蹴っている。
そして、ようやく追いついた兄様がスラリと剣を抜く。
「はわわわわっ」
た、たいへんだーっ!
父様たちに止めてもらわないと、兄様がユニコーンを斬ってしまう!
オロオロと狼狽えているぼくの耳に、なにやら恐ろしいやりとりが聞こえてきた。
「止めるなよ、セバス。あの駄馬、切り刻んでやる」
「止めはしません。だが、ギル。その剣では無理だろう。せめてミスリル……いやオリハルコンか? 執務室にブルーベル辺境伯家の家宝が飾ってあったな。あれなら斬れるぞ」
セバスは父様を羽交い絞めにして抑えてはいるけど、暴挙を止めているわけではなさそう。
むしろ、殺傷能力の高い武器で確実に仕留めようと思考しているような……ひいーっ、みんなダメだよーっ!
結局、なんとか落ち着きました。
兄様のことはアリスターが止めてくれました。
いや、アリスターも「バカッ、そんな剣じゃ傷もつかないだろうが。騎士団に戻れば魔剣もあるし、それまで辛抱しろ」とか言っていたからセバスと同類かも。
父様もギラギラとした目でユニコーンを睨んでいるけど、剣の柄からは手を放してくれました。
白銀と紫紺は真紅の「もう、海に沈めようぜ」の一言で、ハッと我に返ったみたい。
ユニコーンに最初の一撃、飛び蹴りをしたのは白銀でした。
「そうだな。爺に預けてしまおう」
「ええ。瑠璃にちゃんと今のことを報告してからね」
二人が「ふふふ」と不穏な笑いを漏らしていたのは……気づかなかったことにしよう。
ぼくの涙もちゃんと引っ込みました。
白銀たちの一方的な蹂躙が終わった後、チルとチロがユニコーンに向かって「えいやっ」と大量の水を浴びせていた。
『おれのあるじ、バカにするなー。チャラうまやろー』
『おんなのてき、ヒューのてき』
「ぶわわわわわっ。お、溺れる、溺れるうぅぅぅっ」
べ、別にユニコーンが酷い目にあっているのを見て、スッキリしたわけじゃないよ?
ほんとだよ。