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求めるもの 7

聖なる乙女。


その乙女が祈り神聖な力を宿した泉の水は、命の水。

どんな怪我も病気も癒え、生命(いのち)すら永らえるという、聖なる泉の水。

神に遣わされた乙女が祈るその泉を、どこの国も軍も悪人も脅かすことはできない。

なぜならば、聖獣ユニコーンが乙女に額づき、その一族を守護するから。


「んゆ? ユニコーンがおとめさんをまもる。でも、いちぞくも? みんな、まもるの?」


ぼくだって自分だけじゃなくて、兄様も父様も母様も、セバスもアリスターもみんなを守ってほしいけど、白銀たちってそんなに守護の力を大盤振る舞いしてくれるだろうか?

困った人がいたら助けてくれるとは思うけど……。


白銀や紫紺、瑠璃や桜花、いつもツンツンしている真紅だって、とってもとっても優しいのは知っているけど、シエル様からお仕事もらったのに、勝手に守るものを増やしてもいいのかな?


「ダメだぞ」


「そうよ、ダメよ」


「俺様だったら、すぐに去る」


「おおっ!」


みんな、即答でした。


話は続きます。

そのユニコーンが気に入った聖なる乙女は、何も慈善事業で泉の水に価値を付けたのではない。

自分たちの治癒能力をちょびっと混ぜた泉の水を小瓶に詰めて、もっともらしく売り出した。

高値で。


「え、それって。僕には詐欺に聞こえるんだけど?」


兄様も、聖なる乙女の一族のあくどい商売に若干引き気味です。

うん、なんか詐欺グループっぽいやり口だけど、泉の水には治癒効果があったんでしょ?


「腹下しが治るぐらいじゃねぇか?」


「二日酔いがマシになるかもね」


……詐欺である。


乙女たちの一族は、その泉の水と聖なる乙女の祈りを、神が与えた貴い恩恵と謳い、稼ぎまくった。

いつの間にか泉の周りには集落ができ、大きく広がって町になった。

当然、聖なる乙女の一族が治める町だ。

心清く聖なる乙女が治めるその地は……他の町と変わらぬ貧困があり暴力があり、奴隷がいた。


「うえっ」


ぼくの顔がくちゃっと歪む。


「聖獣なのに人の悪意に気が付かなかったのかい?」


ぼくも兄様と同じく不思議に思い、首を傾げる。


「ああーっ、その乙女つーのは何代も代替わりしたが、このバカはなぁ。惚れた弱味というか、自分の容姿を褒めちぎられていい気になっていたというか……」


白銀が残念な子を見る目でユニコーンを蔑む。


「この子はね、神界にいたときから自分の容姿に()()、異常に執着するのよ。つまり自分が好き過ぎるの。きっとその詐欺師のお嬢さんに持て囃されていいように使われたのよ」


紫紺がほうっと困ったように息を吐いた。

でも、足でグリグリとユニコーンの後ろ足を抉るように踏むのは忘れない。


「……ナルシスト?」


確か、自分のことが大好きで鏡ばかり見ている人のことを「ナルシスト」って言ったような?

そして、ぼくはハッ! と気づく。

も、もしかしてユニコーンが泉にいたのって、泉の水面に映る自分の姿に見とれていたから?


「「ああぁ!」」


ぼくと兄様は、ユニコーンに憐れみの眼差しを向けた。














「女に騙されたのに、未だに女を追っかけ回すのがわからん」


話を聞いていた父様が憮然とした顔で腕を組み、ユニコーンのナンパ行動を一刀両断に評しました。


「そうですね。学習能力が著しく欠けています。野性の獣以下ですね」


セバスの鋭い言葉は、今日もグッサリと冴えています。


こんなに周りから言いたい放題なのに、ユニコーンが大人しいって?

それはね、紫紺が「餌よ」と魔法でモサモサと草を生やして、真紅がバサッとまとめて切って、白銀が両手で抱え込んでユニコーンの口に放り込んだからだよ。

まだ、咀嚼中だから喋れないんだ。


「にいたま。おうまさん、ないている」


キレイな緑色の瞳からポロポロと涙が零れているよ?


「……。美味しいんじゃないのかな?」


兄様がぼくの頭を撫でて、そっとユニコーンからぼくの視線を逸らす。


「んゆ?」


泣くほどおいしいの? 魔法で生やした草が? そうなんだぁ。

今度、ぼくも紫紺に頼んで生やしてもらって食べてみようかな?


「っっぐっ。ごっくん! ヒドイじゃないかっ。なんで僕がこんな目に遭うのさっ」


「「「バカだから」」」


ようやく草を飲み込んだユニコーンが白銀たちに文句を言ったら、三人が半眼の無表情で言い返していた。

こ、怖い。


ユニコーンは「んぐぐぐっ」と言葉を詰まらせたあと、ポワンと人化した。

ふわさっと肩にかかった長い髪を手で払って、やや顔を斜め上に向け鼻を鳴らす。


「僕の美しさに嫉妬でもしたの? しょうがないなぁ、僕の()は完璧で当然内面も美しいからね。許してあげるよ」


「「「…………」」」


「……にいたま。おうまさん、なにいってるの?」


「ダメだよ、レン。あっちに行こうね」


ツンツンと兄様の上着を引っ張ってユニコーンの不思議な言動を尋ねたら、兄様はしょっぱい顔をしてぼくの手を引いて歩き出した。


「父様、()()はレンの教育に悪いです」


「……そりゃ、俺だって嫌だよ、()()を連れて帰るの。でも放っておけないだろう?」


兄様と父様で言い合いが始まってしまいました。


…………ぼく、そろそろお家に帰って、リカちゃんと遊びたいなぁ。


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◆◇◆コミカライズ連載中!◆◇◆ b7ejano05nv23pnc3dem4uc3nz1_k0u_10o_og_9iq4.jpg
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