求めるもの 6
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もう少しで、ハーヴェイの森を抜けてブループールの街壁へと続く街道に出るという所で、父様たちがぼくたちに止まるように声をかけた。
「んゆ?」
もうすぐお屋敷に帰れるのに?
ぼくがコテンと首を傾げている間に、兄様は深いため息を吐いて手綱を握り愛馬の足を止めた。
「ここで小言は嫌なんだけどなぁ」
ボヤキながら、ヒラリとカッコよく馬から下りて、ぼくをよいしょと下ろしてくれる。
「ありあと」
ナデナデと兄様に頭を撫でられご機嫌のぼくの耳に、ユニコーンの悲鳴が聞こえてくる。
「イタタッ! なんで、フェンリルは僕の鬣を握りしめるのさ、痛いでしょ! レオノワールも爪! 爪立てないでっ!」
神獣聖獣組みはとっても賑やかである。
「……なかよし?」
「ハッ! あれ見てそんなこと言うレンは、相変わらず頭がめでてぇな!」
いつのまにか、ぼくの隣に立って腕を組んで偉そうに真紅が言う。
でも白銀と紫紺もニコニコ顔だし、喧嘩しているようには見えないよ?
「喧嘩しても無駄だろ。なんて言ってもあいつは最弱だからな」
ニヒヒヒと真紅が意地悪そうな顔で笑っている。
「白銀、紫紺、こっちに来てくれ。あー、そのユニコーン様も、どうぞこちらへ」
父様がぼくたちをチョイチョイと手招きするので、トコトコと歩いていく。
セバスがどこから出したのか、お茶とお菓子をセッティングしていることに驚いた。
「どうぞ、レン様」
「ありあとーっ」
んしょと父様の膝の上に乗って、セバスに手渡された無骨なカップを両手で受け取る。
流石にテーブルと椅子は人数分用意はできなかったみたいだから、木陰の下に敷物を敷いて直に座っている。
「……ところで、ユニコーン様がハーヴェイの森の泉に居た理由はなんだ?」
片手でカップを掴んでグイッと紅茶を飲む父様、ちょっとワイルドでカッコイイ。
「あー、こいつはある病気持ちなんだよ。俺には理解できんが……」
白銀はドカッと胡坐座りをしてガシガシ頭を掻いたら、そのままツーンと横を向いてしまった。
真紅は両手に焼き菓子を持ってもしゃもしゃ食べてて、お喋りができる状態じゃない……てことは?
「しょうがないわねぇ。身内の恥だけど説明するわ」
ふわさっと長い髪を掻き上げて、紫紺がふうーっと切なげに息を吐いた。
セバスが香り高い紫紺お気に入りの紅茶をすぐさまサッと差し出す。
紫紺はコクリと一口、紅茶の香りと味を楽しんだ後、語りだした。
聖獣ユニコーンも他の神獣と聖獣たちと同じく、シエル様からある地の守護を命じられ神界から下界に降りてきた。
白銀は山や平地が年中雪に覆われる極寒の地、真紅は火山が連なる山岳地帯、紫紺は森の奥深く未開の地を守護していた。
ユニコーンは、どこまでも広がる平原、草原地帯だった。
「別にアタシたちと相性がいい地が選ばれたわけじゃないのよ。あの方が適当に決めたの」
……シエル様、そんな大事なことを適当に決めちゃダメだよ。
ぼくの頭の中に、狐の神使たちに怒られるシエル様の幻影が浮かぶ。
ユニコーンの守護する地には、定住する種族は少なく、ほとんどが遊牧民だった。
最弱の名前を欲しいままにした配慮なのか、どうなのか、その地には強い魔物も棲息していなかったそう。
「あー、俺んとこは熊がウザかったなぁ」
白銀がちょっと嫌そうに眉を顰めた。
「俺様のとこなんて、ワイバーンだぞ。しかもゾンビ」
ウエーっと顔を歪めて舌を出す真紅。
うーん、みんなの居た場所はなかなかに厳しい環境だったみたいだね。
最初、ユニコーンは大人しく守護する地を駆け巡っていたそうだが、ある日林に囲まれた泉を見つける。
喉を潤した泉の水は甘く美味しく、ユニコーンは気に入ったらしい。
そしてそこは、一人の少女が水汲みに来ている泉だった。
「それがコイツが聖なる乙女とか言って騒いでいる元凶よ」
「レオノワール! その言い方はヒドイじゃないかっ! 彼女は聖なる乙女! 神が遣わした聖女だぞ!」
ユニコーンは水を飲んでいた顔を桶から出して、ワーッと騒ぎ出した。
うっ、お口から水が飛ばされてきて、きちゃないです。
「その少女は治癒魔法が使える一族の長の娘で、聖獣ユニコーンに見初められてある商売に目覚めるのよ」
「んゆ?」
なんだか、聖女様のイメージと商売って繋がらないんだけど?
少女の一族は旅をしながら遊牧民たちの医者代わりを勤めていた。
治癒魔法代として、生活用品や食料をもらっていたのだ。
それは、ギリギリな生活を強いられる過酷な状況だった。
治癒魔法が使えれば、町や王都に行けばもっとマシな生活ができるのでは? と簡単に考えて一族を抜け出す者も少なくなかった。
でも、その一族を抜けたあと、その者たちから治癒魔法の能力は消えてしまう。
「なんで? 魔法のスキルが使えなくなるなんて聞いたことがないよ?」
兄様が不思議そうに尋ねるけど、紫紺も「さあ?」と首を傾げるだけだ。
「ああ。もしかしたら魔法のスキルではなくて、精霊の祝福だったのかもしれないな。だとしたら懇意にしている精霊と離れたら、その祝福は消えてしまうだろう」
父様がそう推測すると、セバスが「そういう事例は昔は多かったそうです」と補足してくれた。
だから、その少女は聖獣ユニコーンを利用することにしたのだ。
一族を抜けずに治癒魔法を得たまま、生活を豊かにする方法を。
「……それが、聖なる乙女伝説よ」