求めるもの 4
さて、困ったぞ。
ぼくは、うむむっと腕を組んで難しい顔つきで悩んでみます。
まず、白銀たちは聖獣の白いお馬さん、ユニコーンを囲んでわいわいと楽しそうにお話しています。
ちょっとみんなが早口すぎて、ぼくがそこに混じるのは無理っぽい。
しょぼん。
ではでは、父様たちは? と視線を向けてみると、セバスとアドルフたちとキリリと顔を引き締めてお話し中なの。
あれは、本当にお仕事をしている父様の姿だ。
邪魔をしてはいけません。
木々の向こうには、レイフを先頭にブルーベル辺境騎士団の女性騎士たちが、軍馬から下りて並んでいるのが見える。
でもなぁ、みんなお仕事中だから、ぼくがお邪魔をしてはいけないと思うんだよなぁ。
じゃあ、兄様とお話しすればいいじゃないかと思うでしょ?
それが………一番問題なんだよ。
今、兄様は騎士の鎧に身を包んだアリスターと向き合っています。
アリスターの足元にいるディディが顔を上げて、二人の顔を見比べてはオロオロしている。
うん、ぼくもそんな感じです。
だって、兄様とアリスターの間には、いつもは感じられないピキーンとした緊張感があるんです。
ぼくはそうっと兄様たちのほうへ近づいてみた。
「……ヒュー」
「なんだよ?」
アリスターが恐る恐る兄様へと声をかけると、兄様の目つきがギンッと鋭さを増してアリスターを射抜きます。
ガクブル。
兄様のご機嫌が下降中……、いや絶叫系コースター並みに大滑降中です!
アリスターも兄様の態度にグッと唇を噛んで黙って俯いてしまいました。
あわわわっ、このハーヴェイの森の調査はアリスターにとって正式な騎士に任命されて初任務だったのに、いざ問題の場所に来てみたら、お留守番組のぼくらはいるし、元凶は聖獣ユニコーンだし。
正直、アリスターが不貞腐れて態度が悪かったとしてもしょうがないなぁと思うのに、実際は兄様が不貞腐れています!
あわわわっ、どうしようっ。
しかし、ぼくの小さな頭の中で起きたパニックなんて関係ないとばかりに、大騒ぎが起きました。
ええーっ! 何事ですか?
兄様とアリスターのぎこちない空気感に一人顔を青褪めてあわあわとしていたぼくの耳に飛び込んてきたのは、女性の悲鳴。
それも複数。
すわっ、何事とキョロキョロ見回してみると、キレイに並んでいた女性の騎士たちがあちこちへと逃げ回っている。
え? なんで?
パチパチと瞬きして首を傾げたぼくの視界に、見慣れない男性の姿が映った。
白いフリフリのシャツに白いズボンに白いロングブーツで全身真っ白なその男の人は、長いサラサラな髪の毛すらも真っ白だった。
小さなお顔にそれぞれのパーツが完璧な配置で収まっているその男の人は、キラキラと輝く緑の瞳にエメラルドのサークレットが眩しい人です。
んゆ?
あの男の人と女性の騎士さんたちは鬼ごっこでもしているの?
わーっ、ぼくも混ざりたいです!
混ぜてくださーいっ、一緒に遊びたいでーす! と走りだしたぼくの足はなぜか宙を蹴るだけ。
あれれれ?
「レン。危ないからあっちへ行ってはダメだよ」
なんてこった! アリスターへバチバチと八つ当たりしていた兄様が、いつのまにかぼくの両脇をひょいと持ち上げていた。
「にいたま。ぼくもおにごっこ、する」
抱えあげられたまま顔だけ上に向けて兄様におねだりしてみる。
だって、みんなぼくのこと放っておくんだもん。
「ごめっ、ごめんね。ちょっとアリスターと挨拶していただけだよ。ほら、もうずっとレンと一緒にいるから、あっちに混ざるのは止めておこうね」
兄様があせあせっとぼくに言い訳をしている途中、耳に突き刺さる雷の音!
ガラガラビッシャーン!
「ひゃあああっ!」
ビクンと凄まじい音に反応したぼくの体を兄様はギュッと抱きしめてくれた。
「大丈夫だよ。この雷は……白銀の魔法だから」
「へ?」
きょとんとしたぼくの前を猛ダッシュで駆け抜けていく白銀の姿。
人化したままでも走るのが早い白銀は、小脇に耳穴に指を突っ込んでしかめっ面の真紅を抱えていた。
白銀はドドドドドドドドドッと走り抜け、あの真っ白でキラキラな男の人を殴りつけた。
「ばかやろううぅぅっ! お前は何をやってるんだあああっ」
ボコンと頭を殴られた男の人は、女性騎士の握っていた手を放し、前のめりに倒れていく。
その後ろから忍び寄って来た紫紺がゲシッとヒールのあるブーツで男の人の背中を蹴っ飛ばしたあと、ぐりぐりと……あれ? 兄様の手がぼくの目を覆ったから見えないよー。
「に、にいたま?」
「いいんだよ。レンは見なくていいんだよ」
兄様の声は優しいけど、ちょっとプルプルお手々が震えている。
怒っている? いいや、笑っている?
そこへ、父様の大きな大きな怒鳴り声が辺り一面に響いたのだった。
「何やってんだーっ! なんで聖獣ユニコーンがナンパしまくっているんだーっ!」
んゆ?
聖獣ユニコーンが女の人をナ、ナンパしているの?
いったい、彼はどういう聖獣なんだろう?
「まったく、レンの教育に悪いよ」
兄様がため息交じりに呟きました。