泉の異変 6
誤字脱字報告ありがとうございます!
いつも、ありがとうございます。
「ここなの?」
紫紺に案内されたお店の前で兄様がちょっと震えた声で確認してきました。
「あい!」
ぼくがお買い物したかったお目当てのお店は、ここですよ。
大通りから一本外れた小道沿いに、女の子が喜びそうなかわいい帽子や靴、アクセサリーが売られているお店や、甘いお菓子や香り高いお茶が給仕される飲食店が並んでいます。
ピンク色やオレンジ色の優しくてカラフルなお店の佇まいに、兄様は少し腰が引けている?
「にいたま?」
「ははは、予想が大きく外れたなぁ。レンは僕が持っている剣とか武器や防具がほしいのかと思っていたよ」
「んゆ?」
そういえば、朝のお稽古に置いてぼりばかりのぼくだけど、たまーに一緒にできる奇跡の日がある。
ぼく用に作られた小さな木剣を振り回して、「えいやーっ!」「てやーっ!」と相手をバッタンバッタン倒していくんだけど、不満があるのはその木剣です。
兄様やアリスターは訓練用の刃を潰した剣を使っているんだ。
ぼくも、それがいい。
勇気をだして思い切って強請ってみたけど、父様もマイじいも許してくれなかったんだ。
「んんーっ。ほちいけど、ほちい。でもでも、きょうは、あっち」
むーっと顔をギュッと顰めて迷いに迷ったけど、今日は贈り物用の材料を買いに来たんだもん。
ぼくが必死の覚悟で示したお店に、兄様の口元がヒクッと引き攣った気がしました。
あれれれ?
伯爵家のご子息として、念のため紫紺がお店に入って安全を確認後、ぼくたちも入店でーす。
「わわわーっ!」
紫紺が冒険者ギルドの受付のお姉さんたちの情報として教えてくれたお店はあっちもキラキラ、こっちもキラキラ。
「きれいなの」
ぼくは上を向いてキョロキョロしてしまう。
「ほら、危ないよ」
兄様がさりげなくぼくの体を支えてくれました。
ここは手芸用の品物もあるけど、雑貨店で手作りアクセサリーや香水、ちょっとした食器、鞄や靴、小物とかがいっぱい並べられている宝箱のようなお店です。
紫紺の好きな鮮やかな色合いのかわいくてキレイなモノが溢れています。
「僕はちょっと……」
兄様は、テンション高くはしゃいでいるぼくに困った顔で笑ってみせた。
「にいたま?」
「うーん。僕は場違いだなぁ」
そうかな? 陽に輝く金髪に煌めく碧眼の兄様のお顔はとっても整っている美術品のよう。
背も伸びてスラリとしたスタイルに、羨ましい足の長さと鍛えられた筋肉。
やんごとないお家のお育ちで、紳士で騎士で優しくてエスコート抜群の兄様にこのお店は似合わない……てことは絶対にない。
王子様ルックスの兄様にかわいいキレイなお店は、絵本の場面にあってもおかしくないぐらいだ。
ぼくはフルフルと頭を振って兄様の勘違いを否定する。
むしろ、このお店にいるお客さん全員、いいや店員さんも入れた全女子が、兄様のことを見ています!
ひしっ。
「ん? どうしたの」
「にいたま。レンのにいたま」
思わず兄様の腕にしがみついてしまった。
「ほらほら、ヒュー。あのバカを監視していてよ。アタシはレンの欲しい物を店員に聞いてくるから」
やれやれと呆れた顔で声をかけてきた紫紺は、親指で白銀と真紅の二人を差して兄様へ世話を押し付けた。
「あー、もう。勝手にお店の物を弄ったらダメだよ」
兄様は慌てて店の手前でわちゃわちゃ騒いでいる白銀と真紅の所へ走っていってしまう。
「あー、にいたま」
兄様、そっちには兄様に話しかけよう、誘いたいと狙っている女子がいっぱいいるので、気を付けてください。
「はいはい。レン、ここに来た目的を忘れているわよ。ほら、店員さんにお目当ての物を出してもらって選びましょう」
「はっ、そうだった」
紐を選ばなくては!
アリスターに贈るお守り、あと兄様にも。
ウィル殿下たちが持ってきてくれた紐の中に、「これだ!」と思う紐の色がなかったんです。
このお店が一番、紐の在庫があると聞いたので、ぼくは二人に似合う紐を選ぶのを楽しみにしていたのです!
ふんす! ふんす!
「レン、鼻息荒いわ」
「これと……これ!」
紫紺が話しかけた店員さんは、たまたまお店のオーナーさんだったみたいでお店の奥の仕切られたブースに案内されました。
そしてテーブルに並べられた赤系と青系の紐の数々!
ぼくはじっっっくりと見比べて選んでいきます。
アリスターは赤! 赤の中でもお昼のポカポカした陽射しのような、寒い夜に灯した暖炉の炎のような、赤です。
「かざりだまは、むらしゃき」
アリスターの瞳の色の紫色を散りばめた編み紐にするから、明るい紫の飾り玉をください!
「アクセントに違う色を混ざてもキレイですよ」
むむむっ、オーナーさんの助言にぼくの気持ちもグラグラ動きます。
「じゃ、じゃあ、このきんいろも」
アリスターは兄様の親友で護衛で、とにかくずっと一緒だから、兄様の色も混ぜましょう。
「次はヒューの分ね」
うん、ちゃんと兄様の分も選ぶよ。
紫紺、そんなに焦った顔しなくても、ちゃんと兄様の分もお守り作るからね。
「にいたまは、これ」
青です! 真っ青じゃなくて緑がかった青です。
森の奥の湖のような、洞窟の中に朝日が射して色づく世界のような、静かなで強い青です。
飾り玉は……う、うーん、どうしようかな……。
「あら、金色にしないの?」
「うっ。うん、と、こっちがいいの」
ぼくはそっと人気のなさそうな黒い玉を指差しました。
「あら、いいじゃない。ヒューも喜ぶわよ」
えへへへ。
飾り玉はぼくの色です。
いつも、ぼくも兄様と一緒なのです!