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泉の異変 5

いーいお天気です!

今日は兄様と一緒に、ブループールの街にお買い物に行く日です。

ふふふ、とっても楽しみにしていて昨日の夜はドキドキしてよく眠れなかった、ぼくでした。


「そうか? ぐーすか寝ていたと思う……イタッ! やめろ、紫紺」


「余計なことは言わない。だからデリカシーなしのフェンリルって馬鹿にされるのよ」


あわわわ、白銀と紫紺が喧嘩を始めちゃった。

どーどー。

二人の間に入って、顎の下をもふもふ、もふもふん。


「レン。早かったね。みんなに内緒でここまで来れたかな?」


ガサガサと茂みの中から兄様がニッコリと登場したけど、なんでそんな茂みの中から出てきたの?


「さあ、行こうか」


「あい!」


サッと差し出された兄様の手を握って、トコトコ歩いて、歩いて……んゆ?


「にいたま。こっち、ちがう」


いつもお出掛けのときは、馬車で正門を通って行きますが、こっちの方向には厩も馬車もないし正門とは逆の方向ですよ?


「ヒュー、どこに行くつもり?」


「そもそも、なんで内緒で屋敷の裏に集合したんだ?」


兄様の足元を、ちょろちょろと白銀と紫紺がまとわりつきながら質問攻めにする。

でも兄様は涼しい顔でスルーです。

兄様が「みんなはお仕事で忙しいから、内緒で支度をして屋敷の裏で待っていてね」と言ったから、その通りにしたんだけど、リリとメグには今日のおでかけのことを話しておけばよかったかな?


「ヒュー、護衛は?」


「ヒュー、金は?」


兄様はずーっと二人の質問を笑顔で無視して、ある場所までぼくの手を引いて歩きました。

そして、辿り着いたのは……裏の通用門?


「ここ、庭師のじーちゃんが出入りしている門じゃねぇか」


「食材の搬入口よね?」


「そうなの?」


白銀はぼくの知らないところで庭師のおじいさんと知り合いになっていたみたいだし、紫紺はお屋敷の内情に詳しいみたい。


「そうだよ。街に行く馬車を用意してもらっていたんだ。ああ、ほらあそこだよ」


兄様が指差す方向へ視線を向けると……あの馬車で街に行くの?


「ヒュー、荷馬車じゃない」


「ヒュー、馬はお前の馬じゃないか」


いつも父様や母様と乗る箱型の馬車じゃなくて、西部劇とかで見る幌馬車です。

お馬さんは兄様の愛馬で凛々しく立っていますが……あの馬車を牽くには、ちょっと、別の意味で目立つと思います。


「さて、護衛はいないから白銀と紫紺は人化してね。馬車を牽く馬はあっちにいるから馭者をお願い。僕は自分の馬に乗るから」


え?


「に、にいたま?」


なんで白銀と紫紺が護衛の役なの? 幌馬車で街に行くのはなんで?

おろおろしたぼくに兄様はいつもの爽やかな笑顔で馬車に乗るように誘う。

いやいや、このまま馬車に乗って街に行っても大丈夫?

ちゃんとぼくたちだけで街に買い物に行く許可を、母様からもらっているんだよね?


しかし、兄様は余計なことは何も言わずに、ぼくの体をひょいと抱き上げて馬車の荷台に乗せ、まだ獣型の紫紺をぼくの膝の上に移動させる。

白銀に人化を促すと馭者席に座らせ、馬車を牽くのはよぼよぼのロバだった。

え? 大丈夫?

兄様は颯爽と自慢の白馬に跨ると、タタタッと通用門から外へと出て行ってしまう。


「おいおい、ヒュー、待てよ」


白銀がピシンと手綱の音を響かせて荷馬車を発車させ、追いかけて行く。


「わわわっ」


いつも乗る箱馬車と違って、この馬車はガタンゴトンッと激しく揺れるよぅ。








ブループールの街までのゆるやかな下り坂を、馬車に激しく揺られながらやってきました。

つ……疲れた。

兄様に「着いたよ」と馬車から下ろされたぼくは、バランスが悪くてあっちにフラフラ、こっちにフラフラ、そして痛めたお尻をさすさす。

ぼくの後にひょいと長い足で颯爽と馬車を下りてきたのは、冒険者の恰好の人化した紫紺だ。


「ちょっと、ヒュー。もう少しマトモな馬車は用意できなかったの? めちゃくちゃ揺れてレンの具合が悪くなってしまったわ」


……大丈夫です。

車酔いにはなってません。


「そうか……ごめんね、レン。気持ち悪くなっちゃったかな?」


ぼくの前にしゃがんで、困ったお顔をする兄様に、フルフルと頭を振って応えた。


「ううん。だいじょーぶ。でも、おしり、いたい」


さすさす。


「おい、ヒュー。馬車とロバを預けてきたぞ。そいつは預けなくていいのか?」


幌馬車の馭者をしていた白銀も、紫紺と同様に人化して冒険者の恰好をしています。

二人とも、かっこいいです!


「ああ、僕の馬は連れて移動するからいいんだよ。ありがとう、白銀」


兄様はまた、なにもかもを有耶無耶にするような怪しい笑顔を顔に貼り付けました。

お馬さんも連れて街の中を歩くの?

旅人や荷物の多い人は馬連れの人もいるけど、ここで預けられるなら預かってもらえばいいのに。


「レン。レンだって白銀や紫紺、真紅と一緒に街を歩きたいだろう? 兄様もそうなんだよ」


「んゆ?」


ぼくは大きく首を傾げます。

た、確かに、白銀たちと一緒に街を歩きたいです!

ここで白銀たちとお別れするなんて悲しいし、そもそもここで待っていてね、とお願いするのも心苦しいです……。


「なんか、俺たちのこと騎獣扱いしてないか?」


「そうね、馬と同等扱いされた気分だわ」


「俺様はここから人化して行くぞーっ! おい、レン、ヒュー。屋台で買い食いさせろーっ!」


わわわっ、真紅。

勝手に走って行かないでーっ!


「こらこら。まずはレンが行きたい店が先だ」


ピッシャーン!

白銀がパチンと指を鳴らすと、駆け出した真紅の頭に小さな雷が落ちました。

えっ、倒れた真紅の足がピクピクしているけど、大丈夫? 生きてる?


「死にはしないわよ、バカでも神獣なんだから。さぁ、行きましょう」


ニッコリと笑った紫紺と手を繋いで悠々と歩いて、痙攣している真紅の横を過ぎていきました。

白銀、ちゃんと真紅を回収しておいてね!


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◆◇◆コミカライズ連載中!◆◇◆ b7ejano05nv23pnc3dem4uc3nz1_k0u_10o_og_9iq4.jpg
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