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アリスターのこと

汚してしまった服を着替えたぼくが兄様に連れて来られたのは、騎士団が使っている訓練場の奥の瑠璃が作った小さな泉のほとり。


「にいたま?」


なあに? ここに何があるの?

泉には、その泉を棲家としているプリシラお姉さんの契約精霊エメとアリスターと火の中級精霊のディディ、そして……マイじい?


「ほら、アリスター。レンを連れて来たよ。自分の口で報告しなね」


兄様と繋いでいた手を離されて、ぽんっと背中をアリスターのほうへ押される。


「アリスター?」


なんだろう? アリスターがぼくにご用事なの?


「んゆ?」


なんか、アリスターの様子がいつもと違う……気がする。

真っ赤な髪と明るい紫色の瞳と、騎士団で鍛えられて逞しくなった長身、手足の長いスラリとしたスタイル……むむむ、いつも通りですね。

じゃあ、何が違うんだろう?

兄様と朝稽古するときは、白いシャツに黒いズボンにブーツという軽装だけど、見習い騎士としてお仕事中は革の胸当てをして黒の上下に着替えている。


「あれ? アリスター」


いつもと違うのはその服装だった。

父様やマイじいと同じ真っ白に金糸で飾り刺繍がされた騎士服に剣帯に長剣を佩き、肩にはちょっと短い左肩だけのマント、ペリースをしている。

ぼくのジロジロ視線にアリスターは照れたように頭を掻いて、でもちょっと誇らしげに胸を反らした。


「俺……正式な騎士になった。入団試験に合格して、今日からブルーベル辺境伯騎士団の一員になったんだ」


な、なんだって!


「にいたま!」


「うん。アリスターは成人を迎えたからね。父様の推薦で入団試験を受けてもらった。無事に合格したから、今朝辺境伯家で任命式を行っていたんだよ」


な、なんだってー!


「ぼく……みたかった」


あれでしょ? 任命式って剣を仕える主人に渡して肩をポンポンって叩いてもらうのでしょ?

見たかった……絶対、アリスターがカッコよかったはず!


「ごめんな。今回は俺だけだったから、参列したのは副団長とキャロルだけだったんだ」


「とうたまは?」


そういえば、父様はさっきまで一緒にお屋敷でご飯食べていたね。

でも、父様はブルーベル辺境伯騎士団の団長だから、父様がアリスターに首打ち式(リッターシュラーク)するんじゃないの?


「違うよ、レン。父様もまた、ブルーベル辺境伯に仕える騎士の一人だからね。騎士の任命式は辺境伯であるハーバード叔父様が行うんだよ」


「ほへー」


そうなんだ。

んゆ? ハーバード様は父様やマイじいに比べると華奢な方だけど、首打ち式で剣を持ち上げて肩に優しくポムポムできるのかな?

ぼくが不思議そうに呟くと、マイじいが「ガハハハッ」と大笑いした。


「ひーはははっ、あーおかしいわい。ハーバード様とてブルーベル辺境伯の者、それなりに鍛えていらっしゃる。まだまだアリスターやヒューバート様よりお強いですぞ」


「えっ! まさか」


ぼくがびっくり眼で兄様を見ると、兄様はやや不機嫌そうに眉を顰めて「本当だよ」と認めた。

うっ、しまった……この話題は兄様の機嫌が悪くなるみたいだ。


ぼくはクルリとアリスターのほうへ体を向けて、ちたぱた走り寄り、ばふんと抱き着いた。


「アリスター。おめでとう! きしのかっこう、よくにあってるよ。かっこいーの!」


「そ、そうか?」


テレテレのアリスターが口元を緩めたまま、ぼくの体をひょいと抱き上げた。


「ありがとうな、レン。お前が俺たちをここに連れて来てくれたから、俺とキャロルはこんなに幸せなんだ。ありがとう、レン」


嬉しいことを言ってくれたアリスターは、ぎゅうと強い力でぼくを抱きしめる。


「はあーっ、しょうがないな。入団祝いだ、今だけレンを独占するのを許してやる」


微かに兄様の不満そうな声が聞こえた気がした。













兄様が教えてくれる「いいこと」とは、アリスターの正式騎士団入団のニュースだった。

兄様の入団は一緒じゃないのかって?

だって、兄様とアリスターは一歳違いだし、さらに獣人と人族だから成人の年齢が違うんだ。

獣人は人族より成長が早く寿命も長い、しかも身体能力は人族だけでなく全種族の中でもトップクラスなのだ。

そのため、成人の年齢も早く人族より早く十五歳と決められている。


兄様は人族だからあと二年待たないと騎士の入団試験は受けられないので、しばらくは騎士見習いのままです。

でも、ぼくとしては兄様が正式な騎士になるのに、まだ時間がかかるのは、ちょっと嬉しい。

騎士になったら忙しくてぼくと遊ぶ時間が減ってしまうからね。


今も手を繋いでポテポテとのんびりと騎士団の敷地内をお散歩中です。

後ろには白銀と紫紺、真紅の神獣聖獣グループとチルとチロ、エメの妖精精霊グループがいます。


「あ、プリシラおねえさん」


ぼくが騎士団宿舎のお庭を指差すと、兄様がどれどれと目を眇める。


「ああ、本当だ。花のお世話をしているのかな? ほら、隣にドロシーたちがいるよ」


「あ、ドロシーちゃん」


ドロシーちゃんはモグラの獣人の女の子で、隣国アイビー国の事件で知り合ったぼくの新しいお友達だ。

ドロシーちゃんの横には、小さなモグラの姿をした土の中級精霊チャドがいる。

どうやら、ドロシーちゃんと契約してずっと一緒にいることにしたらしい。

兄様とご挨拶に行こうと歩いていると、プリシラお姉さんたちがいる花壇の奥から凄い音がした!


ドンガラガッシャーン! ガチャーン! ドタン!


「ぴゃあっ!」


「え? 何事?」


びっくりした兄様はサッと素早い動きでぼくの体を抱き上げると、音がした方向へ走り出した。


「白銀」


「おうっ、先に行くぜ」


兄様の声に反応して、後ろから白銀と紫紺がバッビューンと走り抜けていった。

そして……そこには、バケツやスコップ、プランターが散乱していて、セシリアさんが泥まみれで倒れていた。


「あ、あー」


そうだね、さすがのセバスも側にいなければ、セシリアさんのフォローはできないと思う。



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◆◇◆コミカライズ連載中!◆◇◆ b7ejano05nv23pnc3dem4uc3nz1_k0u_10o_og_9iq4.jpg
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