日常のこと
快晴です。
今日もいいお天気で、ぼくはいつものように兄様の参加する騎士団の朝稽古に置いていかれたようです。
「んゆ?」
まだ、朝早いから眠いですぅ。
目を擦りながら、隣で寝ているはずの兄様を探して手でポンポンとベッドを叩いてみます。
やっぱり、いない……。
「あら、レン。起きたの?」
「今日もすごい寝ぐせだな」
ぴょんとベッドに飛び乗ってきたのは、小さい獣姿の白銀と紫紺。
銀色に輝く毛の神獣フェンリルと宵闇色のベルベットのような毛は聖獣レオノワール。
ぼくの大事なお友達。
他にも海を護る聖獣リヴァイアサンの瑠璃と空を羽ばたく神獣フェニックスの真紅、隣国アイビー国でお友達になった聖獣ホーリーサーペントの桜花がお友達です。
ちなみに真紅は、定位置の白銀の頭の上でべしゃりと体を伏せて熟睡中。
『むにゃ。おきるのか、レン?』
ぼくの肩にふよふよと飛んで着地したのは、小さな人型をした妖精さん、チル。
青系の髪色と瞳の色は彼が水を司る精霊の眷属であることを示していて、ぼくの悪友でもあるのです。
いししし。
兄様には同じ水妖精のチロが友達だけど、彼女は兄様激ラブなのでいつも兄様と一緒にいます。
「……また、おいていかれた」
むうっと頬を膨らましていると、ぼくが目覚めたのがわかったリリとメグの二人が部屋に入ってきてパタパタと忙しなく動き始めました。
お顔を洗ってお着替えですね、はい、起きます、起きます、よっこいしょ。
「しろがね、しこん。おはよう。チルもおはよう」
朝の挨拶はとても大事です。
リリとメグにもペコリと挨拶すると、にっこり笑顔で「おはようございます」と返されました。
「ピッ!」
<いってー!>
白銀が「いつまでも人の頭の上で寝てんなっ」と怒鳴って、真紅をべしゃりと落としました。
「しんく。おはよう」
しゃがんで真紅とも朝のご挨拶です。
「ピイピッ」
<……ふん。……はよ>
プイッと横を向いてしまったけど、ちゃんと挨拶は返してくれました。
「ちょっと、態度が悪いわよ」
ぷぎゅっと紫紺の前足で踏まれていたけどね。
ぼくがみんなと一緒にブルーベル辺境伯騎士団団長宅であるお屋敷の食堂に辿り着いたときには、母様と父様が席に座ってました。
「とうたま、かあたま、おはようございます」
ペコリとご挨拶してから、リリがぼくを椅子に座らせてくれる。
白銀と紫紺も食事用のお皿が置いてある場所へトコトコ歩いていった。
「おはよう」
「おはよう、レンちゃん。よく眠れたかしら?」
「あい!」
よく眠れたし、爆発していた寝ぐせもメグがキレイに直してくれました。
「遅れました」
バタバタと珍しく足音を立てて食堂に入ってきたのは、ブルーベル辺境伯騎士団団長子息で、ブルーベル伯爵嫡男であるヒューバート・ブルーベル……兄様です!
「にいたま! おはようございます」
椅子から飛び下りて兄様の所へ走って行こうとするぼくの体を、やんわりとリリが抱きとめた。
「おはよう、レン」
兄様が素早くぼくの隣に移動してきて、くしゃと頭を撫でる。
騎士団の朝稽古の後に水浴びでもしていたのか、髪の毛が湿っているし首筋に水滴が付いてます。
あ、思い出した!
また、兄様は朝の稽古にぼくを置いていったことを。
「にいたま。また、おいてけぼり」
じろっと睨むと、兄様は「あははは」と笑って、明後日の方向に顔を背けました。
「では、朝食を始めましょう」
セバスが扉前できっちりと礼をして、パンパンと手を叩くと使用人たちがワゴンにお料理を沢山載せてやってきました。
「ほら、レン。むくれてないでまずはご飯を食べなさい」
父様がクスクスと笑いながら、ぼくを窘めた。
ちぇっ。
不機嫌に足をブラブラさせるぼくの耳元で兄様が「ごめんよ。後でいいことを教えてあげるから許して」と囁いた。
いいこと?
コテンと首を傾げて兄様の横顔を見ると、兄様は楽しそうに口元を綻ばせた。
お隣の国アイビー国での農作物不作事件が解決し、先日ダイアナさんから土地に蔓延した瘴気の浄化も無事に終えたとの報告がありました。
セバスの婚約者セシリアさんもドロシーちゃんと土の中級精霊チャドとともにブループールの街へ着いて、新生活を始めています。
アイビー国で知り合った聖獣ホーリーサーペントの桜花とも、彼女に貰った鱗を通じてお話したり、夢の中で瑠璃と一緒に遊んだりしています。
んー? なにか他にいいことってあったかな?
ぼくは兄様に言われたことが気になって、オムレツをべったりと洋服に落として汚してしまいました。
ううーっ、ごめんなさいっ。