その後の話 夢side
結局、パン粥をもぐもぐごっくんした後、ぼくはベッドの住人に逆戻りしてしまいました。
ちぇっ。
真紅がどこにいるのか尋ねたぼくに、兄様たちはさりげなーく視線を逸らした。
その態度にぼくはピーンときました。
真紅の居場所、知っているのにぼくに内緒にするつもりです。
紫紺は寝ているフリをして答えてくれそうになかったので、目を三角にしたぼくは、唯一動揺を露わにしてあたふたしている白銀にターゲットを絞った。
「し、ろ、が、ねぇぇぇぇ」
「うわっ。ええっと、だな。真紅は、そのぅ」
ものすごい目が泳いでいる白銀の大きな顔を両手でペチンと挟む。
「しんく、どこ?」
ぼくの迫力に負けた白銀は、涙目でそっと上を見る。
「んゆ?」
天井? 二階? そんな所にいるの?
「違う。天界つーか、神界にいるんだ」
ぼくに隠し事をするのを諦めた白銀が、お尻をゲシッゲシッ紫紺に叩かれながら話してくれました。
どうやら、あの土の精霊王様が閉じ込められていた土牢のあった部屋で大活躍した真紅は、ちょっぴり邪気に侵されて翼の先が黒く染まってしまったらしい。
今は神界のシエル様の元で養生中……。
「ぼくのせい……」
真紅の状態を知って、布団を頭まで被って反省中のぼくなのです。
みんながほくに真紅のことを黙っていたのは、ぼくが真紅を守れなかったと知って悲しむと思ったから。
みんなの優しさを無碍にしてしまった。
真紅のことだって……。
ぼくがもっと頑張って浄化の力を強く発揮していれば、真紅の翼が黒くなることもなかったのに。
くすん、くすん。
泣きながら布団の中で丸まって、ぼくはいつの間にか眠ってしまっていた。
パチリと目を覚ますと、そこは真っ白な空間で優しい光に溢れていた。
んゆ?
ぼくはお宿の部屋でベッドに一人、布団に包まって眠ったハズなのに?
ここは、どこ?
ムクリと体を起こしてキョロキョロと辺りを見回すと、なぜだか行くべき場所がわかる。
その方向へ、何かに誘われるように裸足でトタトタと進んだ。
しばらく、真っ白な空間を歩くと、うっすらと人の影が見えてくる。
何人かが座って、目の前に立つ誰かと向かいあっているようだ。
んゆ?
もっと近づいてみようとトタトタ、タタタと小走りで行くと、話し声が徐々に聞こえてきた。
スクッと一人立って腕組みして偉そうに胸を張り、頬をぷくっと膨らませて不機嫌アピールしているのはこの世界の創造神シエル様だ。
その横には狐の神使と狸の神使が控えている。
シエル様にぷんすこ怒られているのは、土の精霊王様かな? 茶色の波打つ髪を体に添わしたキレイな女の人がぷるぷるして正座している。
精霊王様の横には人化した真紅だろう真っ赤な髪の男の子が、やっぱり正座してシエル様の顔を見上げていた。
「ほんとーっに、わかったの?」
わっ、びっくりした!
突然辺りに、シエル様の聞いたことのない厳しくて大きな声が響いた。
「「はい」」
土の精霊王様と真紅の元気のない声がお返事する。
ぼくの姿はみんなには見えてないみたい。
そのままシエル様のお説教は続いていく。
「本当に反省してますか? まったく仲間同士の没交渉は神獣聖獣という悪い見本があったでしょー! なんで精霊たちも個人主義を貫き通すかなぁぁぁ?」
「すみません、すみません」
「別に、俺様たちは、そのぅ、ぼ、没交渉じゃない」
「うそおっしゃい! 特に神獣同士はいがみ合いばっかり、喧嘩ばっかりでしょうがっ」
「それは、白銀だ。俺様じゃない」
ぷいっと顔を背ける真紅に青筋をピキリと立てるシエル様。
「どの口が言うかー。どの口がーっ」
真紅は、むにゅと柔らかい頬を抓まれてびよ~んと伸ばされる。
「いひゃい、いひゃい」
「はあぁぁぁっ。なんで、みんな仲良くできないんでしょうねぇ」
シエル様が、真紅の頬を抓んだ指をそのままに悩まし気に息を吐くと、どこからか「うふふふ」と含み笑う声が聞こえてきた。
「だ、だれ?」
土の精霊王様が正座の姿勢から片膝を付いて戦闘態勢をとり、忙しなく視線を巡らせる。
「あら、思ったより元気じゃない」
ふわさっと天から降るようにして舞い降りたのは、闇の上級精霊ダイアナさんだった。
楽し気にニッと口角を上げて、シエル様たちを見下ろす。
「土の精霊王。たかが人に捕らわれ邪気に侵された失態。我が君は不愉快に思われているわよ?」
「あ……貴方の我が君って……」
ダイアナさんに見つめられた土の精霊王様は、顔を蒼くして小刻みに震えだしてしまった。
「けっ。俺様たちは関係ねぇぞ」
パシンとシエル様の手を叩き落として、クルリとみんなに背を向け胡坐をかく真紅。
シエル様は……うん、安定の泣き顔になってるね!
「なんで、みんな僕を無視するのかな? みんな僕が創ったんだよ?」
鼻水までズルズル垂らして、両脇に控える神使に聞くけど、スンとした顔のまま無視されるシエル様、ちょっとかわいそう。
「だいたい、なぜ精霊王が人に軽々と捕まるのよ?」
「そういえば、そうだな? お前、間抜けすぎないか?」
真紅までダイアナさんと一緒になって、土の精霊王様を問い詰める。
ぼくも興味津々にそろりそろりとシエル様たちへと近づいていった。
誰もぼくのことが見えないんだ、と思っていたけど、そんなぼくの様子を微笑ましそうにダイアナさんが見ていたけど。
そのときのぼくは、ちっとも気がつかなかった。