その後の話 レンside
ぼくがお宿のベッドで目を覚ますと、土の精霊王様救出作戦から丸二日も経っていてびっくりしました!
そして、今もぼくはベッドの住人です。
「レン、もう起きて大丈夫なのかい?」
ぼくが食べるパン粥の器を片手に持った兄様が、とっても心配そうにぼくの顔を覗き見ます。
「もう、だいじょーぶ!」
正直に言うと、もう飽きました。
みんなが寝てなきゃダメ! 休んでなきゃダメ! とベッドに押し込むから、目が覚めてさらに二日もベッドの住人だったんだよ?
「おそと、いきたい」
外に出て遊びたいわけじゃなくて、あの後どうなったのか聞きたいの!
土の精霊王様は無事? ちゃんとシエル様は助けてくれたの?
水と火の精霊王様たちはどうしたの?
あと、ドロシーちゃんとチャドは元気?
アイビー国の土は元に戻った?
それと……?
「……本当はまだ寝ててほしいんだけどな」
兄様はやれやれと肩を竦めて、くしゃりとぼくの髪の毛を乱す。
そんな様子をドアの近くに立って見守っていたセバスがクスクスと楽しそうに笑って、ぼくの着替えの準備を始めた。
白銀と紫紺もベッドの足元に小さい姿で一緒にいたけど、そんなに心配そうな眼で見ないで。
「ぼく、だいじょーぶ!」
元気なんだよ? ほんとうだよ?
セバスに着替えさせてもらって、パン粥を持ったままみんなが集まっているリビングルームまで移動です。
そこに座っていたのは、アルバート様たちと瑠璃と……蛇のお姉さん?
「……おねえさん?」
「よ、よかった。げ、元気になったのね? あ、あのね、私……心配でね、ここにお邪魔してます」
最後は、ぼくには聞こえないほどの小さい声だった。
「儂は毎日レンの様子を見に来ていた。起きれるようになってよかったな」
スクッと立った瑠璃にササッと鮮やかに抱き上げられるぼく。
「るり。いろいろありがと」
瑠璃には柱も壊してもらったし、浄化の力を溜め込んでおく鱗ももらったし、ありがたやありがたや。
「なに、レンのためならかまわんって。それに、我が仲間のことでもあるしな」
瑠璃はチロリと蛇のお姉さんを見て、ススーッと視線をぼくに戻す。
「ほら、レン、座れ。メシを食いながら今までのこと話してやるから」
アルバート様がニカッと笑ってトントンとテーブルを指で示すけど、あまりな言葉遣いだったせいか、後ろに立ったセバスがニッコリ笑顔でビュルルルとブリザードを背負ってますよ?
「あい!」
ぼくは瑠璃にソファーに優しく座らせてもらった。
ふぅーっ、ふぅーっ。
ぱくっ。
もぐもぐ。
はぐはぐ。
あーん。
「おいっ」
ぱくっ。
ちょっとお味が薄いかなぁ? もぐもぐ。
「はい。あーん」
「あーん」
「だから、ちょっと待て。そこのバカ兄弟」
むっ、失礼な。
ぼくはおバカかもしれないけど、兄様は頭いいもん。
「そういうこと言ってんじゃない。これから真面目な話をしようってのに、なにをバカップルみたいな食事風景をダダ漏れさせてやがる」
さっき、セバスに「言葉遣いが悪いですよ」と叱られて頭に大きなコブができたのにアルバート様は、またまた良くない言葉を使っている。
「だって……」
いやいや、ぼくは自分で食べるって主張しましたよ?
でも、兄様がへにょりと眉尻を下げて悲しそうに「ダメ?」と強請ってくるから、断れなかったんだよね。
兄様がパン粥をほどよくスプーンに掬って、ぼくの口元へ持ってきて、「あーん」てするから、ぼくも大きく口を開けて「あーん」と頬張る。
もぐもぐ。
そんなぼくたちの姿を微笑まし気に見つめるセバスや白銀と紫紺たち。
一方、苦虫を噛み潰した顔をしているアルバート様たち。
ぼくのことは気にせずお話してください。
「ちっ、やりずらい」
ポコンと軽い音がアルバート様の頭からした。
セバスが軽~く叩いたらしい……ちょうどコブの所を。
「いったー! 痛いぞ、セバス!」
キッと強い視線で睨まれたアルバート様はむぐぐと悔しそうに唇を噛んで、話し始める。
ぼくがパタリと倒れたその後のことを。
石柱をアルバート様たちが壊した後、続けて水と火の精霊王様が柱を壊し、瑠璃と蛇のお姉さんが木端微塵にした。
そうすると、神気を含んだ瘴気の供給がストップしたことで魔法陣へと流れていた魔力の逆流が始まり、アイビー国全体に描かれていた魔法陣は空気を僅かに震わしながら消えていったらしい。
「ちょーっと、土がボコボコ隆起したり陥没したりしたけど、まあ、人害はなかった。倒壊した建物とかの補償はアイビー国が請け負うことになっている」
どうやら、石柱を壊すことは正式にブリリアント王国からアイビー国へ通達が行っていて、細々とした決まり事も済んでいたとか。
うん、セバスの仕事ですね! さすがです!
その後、二人の精霊王様たちが浄化の能力を持つ精霊たちをアイビー国のあちこちに派遣した。
当然、瑠璃の誘いで海に住まう水の精霊たちも参加した。
「キレイだったぜ、あちこちから浄化の光が立ち昇っていくのは、陽の光でキラキラと輝いてな」
うっとりとアルバート様が教えてくれたけど、そのときの兄様たちは地下通路を必死に走り抜けていたので、見ることはできなかったとか。
ぼくは、寝ていたしね。
「浄化はほぼ済んでいます。ただ、地中深い場所には、まだ瘴気が残っているかもしれませんので、土の精霊と水の精霊が協力して探査中です」
リンが呑気なアルバート様の顔を片手に押しやって大事なことを教えてくれた。
……ということは、まだアイビー国の土地は元に戻ってないのかな?
「そうですね。でも、浄化はほどなく終了しますよ。後は農作物が育つ土地に戻るのにどれだけ時間が必要なのかです」
リンが懸念するのは、浄化した後の土地が果たして農作物が育つ、いい土に戻っているのかどうか。
「たぶん、土の精霊たちが戻ってくれば、元の状態になると思うが、土の精霊王様次第だからな……」
アルバート様も難しい顔で腕を組んでしまいました。
「……つちのせーれーおーさま」
口の周りをパン粥のミルクでべったりと汚したぼくが呟く。
そういえば、真紅はどこにいるの?