精霊王様を助けよう 6
ぼくは真紅の手をしっかりと握って、土の精霊王様が捕らわれている土牢へと一歩踏み出した。
……? 真紅?
「んだよっ」
ぷいっとぼくとは反対の方へ顔を背けてしまう、神獣フェニックスの真紅……だよね?
「んゆ?」
まだ、見慣れない初めて人化した真紅の姿。
背は兄様より頭一つ分低くて、真っ赤な髪の毛はあちこちにツンツンしているけど、後ろ髪の一房だけ長いの。
大きな緑のお目々は少し吊り上がっていて、不服そうに唇を尖らしている。
そう、真紅の人化した姿は――子供の姿だったのだ!
「へ? だ、大丈夫か? 白銀様、レンとこの姿の真紅様で?」
と、ぼくたちを心配してくれたアリスターは、カチンときた真紅にゲシッと脛を蹴られぴょんぴょん跳ねていた。
「……やはり私たちが助力を」
セバスと兄様がまたぼくに聞こえないようにこしょこしょ内緒話をし始めちゃうし。
「こ、小鳥が人になった……!」
ドロシーちゃんは真紅が人化したのに驚いて固まっていた。
「だからイヤだったんだよっ、人化するの! しょーがないだろっ、神気が不足してんだからっ!」
どうやら、神気が満ちていない真紅では人化すると子供の姿になってしまうと……ま、元々小鳥姿だしね。
「しんく。かーいい」
ぼくよりは背が高いから頭なでなではできないけど、「かわいい」と讃嘆する気持ちを表すためにパチパチと拍手してみました。
「ぷっ。よかったな。かわいいだとよ」
「あら、かわいいわよ。フェニックスだと思わなければね」
白銀と紫紺も真紅を「かわいい」と認めてくれたよ。
なのに……。
「だあーっ! うるせぇっ。ほら、行くぞ。くそっ、元の姿に戻ったら覚えてろよ」
なんで怒るのかなぁ?
「ところで、レン」
「なあに?」
てくてく。
「お前、ちゃんと浄化してんだろうな?」
「はっ!」
ぼくは、驚きで大きく開いた口を片手で塞ぎます。
「お前ぇぇぇぇっ。忘れてのか? 今、俺様たちは瑠璃からもらったお守りを身につけてないんだぞっ。瘴気にやられるわっ、邪気に殺されるわっ」
ポコンと繋いでいない手で頭を叩かれました。
「いたい」
「瘴気や邪気にやられたら、痛いじゃ済まねぇんだよっ」
真紅は人化しても怒りんぼのままです。
むーっ、わかってるもん。
瑠璃がみんなに渡したお守りは瑠璃の鱗の欠片なんだけど、そこに火の精霊王様が浄化の力を注いでくれた即席魔道具なのだ。
今日一日ぐらいしか効果は続かないけど、着けている人の周りを浄化し続けてくれる優れもの。
だけど、元が瑠璃の鱗のだから、神気に溢れちゃっているので、この場所に持ち込むことができない。
でも、浄化の能力を持たない真紅を一人でこの瘴気と邪気に満ちている部屋に放り込むと、真紅はたちまち堕神してしまう……かもしれない。
そこで、なぜか人族なのに浄化の力が使えるらしいぼくが同行することになったんだけど……。
「ぼく、じょーか、ちゃんとつかったこと、ない」
「なーにーっ」
だって、いつも切羽つまって極限状態で「えいやっ」と使っているから、意識して浄化なんてしたことないもん。
「ないもんじゃねぇんだよっ。いま、浄化しないと俺様たちが危なねぇだろっ」
真紅と繋いでいた手を放して、うーんと腕を組んで考えてみる。
使えるかな? 浄化。
ちょっとやってみようかな?
「やってみる」
むんっと気合いれて鼻息をフンッと。
「お、おおぅ」
真紅の子供姿に動揺していたのか、この部屋が瘴気に満ち満ちていて黒いモヤモヤと認識しづらかったからか、気付かなかったけどこの部屋の雰囲気は最悪です。
ぼくは目を瞑ってムムムと唸りました。
浄化をどうすればいいのかわからないけど、この黒いモヤモヤや重くて苦しい気配をキレイにするイメージを頭に思い浮かべます。
「キレイになーれ。キレイになーれ。むむむっ」
「声に出しちゃってるじゃねぇか」
うるさい、真紅。
いま、ぼく、すごく頑張っているの。
「じょーか。じょーか」
眉間にシワを刻んで、体全てに力を込めます。
遠くで紫紺が「生命力まで使っちゃダメよーっ」て叫んでいるのが聞こえました。
そうだった!
ぼくが感じたことのない、ぼくが持っているはずの魔力で浄化をするんだけど、つい、魔力の使い方がわからないから他の力を使ってしまうらしい、……その力は生命力なので……つまり、ぼくの寿命が縮んじゃう!
んゆ?
シエル様はぼくの寿命をいくつで設定したのかな?
パチン!
「余所ごと考えてんなっ!」
真紅に頭を叩かれました。
なんで、違うこと考えたのがバレたんだろう?
「んっ。ぼくじゃむり。たすけてもらう」
「? 誰に?」
ぼくはもう一度目を閉じて、静かな気持ちで祈りを捧げる。
――シエル様。ぼくに力を貸してください。みんなを助けたいです。みんなを守りたいです。浄化の力を上手に使えますように。土の精霊王様が元気になりますように。……あとかわいそうだから、真紅の神気が少しだけでも戻りますように。
深く深ーく祈ります。
シエル様、お願い。
「……じょーかっ!」
目をパチリと開けて、両手を上に突き出して、部屋中に響くような大きな声で呪文? を唱えました。
ぼくの体からパアッと眩しい光が溢れ出して、部屋中を光で満たして、やがて光の渦になり、土牢の中の精霊王様へと注がれていく。
「よしっ、行くぞ、レン。今がチャンスだ」
グイッと真紅に腕を引っ張られて、トタトタとぼくは走り出した。