精霊王様を助けよう 5
兄様がとても心配そうにぼくの顔を見つめる。
セバスもいつもと変わらない様子に見えて、ハラハラドキドキしているみたい。
白銀と紫紺も眉を下げてもふもふの前足やすべすべの前足をぼくの体に擦りつける。
「ぼく、がんばる!」
むんっと両手を握って気合を入れて、心配する兄様たちにやる気をアピールします。
「ピイピイピーッ」
<俺様はいやだーっ。堕ちちまう。邪神になっちまうぅぅぅ>
真紅がピイピイ泣き叫んでいるけど、ぼくは初志貫徹、絶対に土の精霊王様を救出するんだい!
「うるさいっ。作戦を説明してやるからちゃんと聞けよ」
ゲシッと白銀の後ろ足で蹴られる真紅の丸い体。
「アンタのせいでレンに何かあったら、わかってるでしょうねぇ」
ポーンと飛ばされた真紅の体をしなやかな尻尾でキャッチして、紫紺がおどろおどろしい声色で脅す。
「……ピイッ」
<俺様のことも心配しやがれ>
あーあ、真紅が拗ねちゃった。
とりあえず、土の精霊王様を刺激しないようにぼくたちは地下通路に戻って作戦会議をします。
アリスターとディディはチルたちを守っていてね。
「俺たちが精霊王に近づけない以上、あの方の元へ送るのが一番いいと思う」
「そうね。アタシたちじゃどうにもできないわ」
白銀と紫紺が悔しそうに口元を歪める。
「じゃあ、精霊王様をどのようにしたら、創造神様の元へ送り届けることができるのですか? レン様はまだお小さく、精霊王様のお体を運ぶのは……」
セバスがぼくのことを心配して質問してくれるけど、ぼく……ちいさくないもん。
「あの方の元へは、俺が次元を裂き道を繋ぐ」
「次元の道には、ちゃんと道案内を用意しているわ。黒い鳥だけど大人しくて言うことを聞く賢い鳥よ」
ふむ、シエル様の所に行く道は白銀が作ってくれて、紫紺がお願いした案内人じゃないや、案内鳥さんがいるんだね。
「ぼくもいくの?」
アイビー国が大変なときだけど、シエル様に会えるなら会いたいなぁて、ちょっと思ってしまいました。
「レンに次元の道は危険だから、また今度な」
「白銀が作った次元の裂け目に精霊王を連れて行って、放り込んでくれたらいいのよ」
「ほうりこむ……」
なんだかとっても乱暴な作戦なんですけど?
「ピーイピイッ」
<レンだけでいいじゃねぇか>
「ダメよっ!」
ぼくと真紅は部屋の奥、土の精霊王様が閉じ込められている土牢まで突入。
その間に白銀が部屋の入口ギリギリまで近づいて、えいやっと爪の斬撃を飛ばして土壁に次元の裂け目を作る。
わー、ぼくもそれ見たい。
「今度な」
苦笑する白銀といつの日かの約束をしました。
牢の柵を破壊して精霊王様の体を次元の避け目まで連れ出し、その裂け目に放り込めばぼくたちのミッション達成です!
「いやいや。ツッコミどころ満載なんですけど?」
珍しくアリスターが口出してきた。
まず、ぼくたちだけで土牢の柵は破壊できないだろうって……んゆ?
「できるもん」
「その根拠不明な自信はどこからくるのか……。あのな、俺とヒュー、二人で壊すならともかく、レンとその小鳥でどうやって壊すんだ?」
小鳥の真紅は「小鳥じゃないわっ」とむきっーと怒っている。
「それに、奇跡が起きて柵が壊れても、お前たちだけじゃ精霊王様を運ぶことなんてできないだろう? レンはディディでさえ持ち上げられないんだぞ」
ディディがちょっと太りすぎなんです。
「そうかな?」
頑張ればイケる気がするんだけどなぁぁぁ?
腕を組んで頭を右に傾げて、左に傾げてするのをアリスターはイライラして見ているけど、兄様とセバスは二人でこそこそと話しているよ?
「ヒューバート様。剣を思いっきり投げれば柵は破壊可能かと……」
「精霊王様の体を風魔法で浮かすことはできないかな?」
んゆ? ぼくたちだけで頑張るのに、兄様とセバスがズルをしようとしている。
「ズルじゃないよ。手助けだよ? レンも真紅も小さいからね」
兄様が焦った顔で言い訳するけど、ますますぼくの機嫌は下降していきます。
「……ちいさくないもん」
「ピイッ」
真紅も激しく同意だそうです。
「まあまあ。アリスターが不安になるのも、ヒューが心配するのも尤もよ。でもね、大丈夫よ。力仕事はそこのバカ鳥がするから」
「そうそう。そいつが人化してレンと一緒に行動すればいい。腐っても神獣だからな、柵の破壊も精霊王を運ぶのもできるぞ」
白銀と紫紺がニッコリ笑顔で真紅の体を左右から踏みます。
ぷきゅっ。
「ピッ!」
<俺様の人化だと?>
「しんく。へんしん?」
白銀と紫紺が人化するのは何度も見たし、瑠璃はだいたい人化しているし、蛇のお姉さんもほとんど人化した姿して見ていないから、真紅の人化と聞いてぼくは興奮してきました。
わくわく、わくわく。
なのに、真紅は真っ赤な体を青褪めさせてプルプル小刻みに震えだしました。
全身で拒否しているみたいだけど……?
「アンタねぇ、ここでやらないって選択肢はないのよっ。いい? 人化して精霊王を次元の裂け目に放り込んで、レンを無事アタシたちの所まで守り抜くのがアンタの役目なのっ」
紫紺に怒鳴られて鋭い爪でツンツン突かれている真紅はバササッと翼でその爪を避ける。
「本当ならお前一人に行かせるんだけどな、この状態じゃコレを付けていられねぇから、浄化ができるレンを一緒に行かせてやるんだ。レンに何かあったら海に沈めるからな、アホ鳥」
白銀はカプッと真紅の後ろ首を噛んでブラブラと左右に揺らす。
「ピーイッ!」
<わかった。わかったよーっ>
もう、真紅は半泣きです。
ぼくは真紅の人化した姿を想像してワクワクでドキドキです。
「にいたま、しんくかっこいい? きれい?」
兄様はぼくの質問にうーんと困り顔で「か、かわいいんじゃないかな?」と答えるのだった。