精霊王様を助けよう 3
ドロシーちゃんが、共同住宅の部屋で寝泊まりするのを避けるために作った土の中のお部屋。
そこに行くまでの地下への穴が……とっても深そうです。
「しんえんのあな……」
「ずいぶん難しい言葉を知っているね? 誰かに教えてもらったのかな?」
兄様がぼくの呟きを聞いてベタ褒めしてくれますが、前のぼくが夜中に一人で見ていたアニメのセリフです、たぶん。
とにかくみんなが魔法で出した「ライト」がないと、真っ暗で底が見えませんでした。
ドロシーちゃんの土魔法で掘った穴に土の中級精霊チャドが土魔法でコーティングした竪穴には、ちょっと頼りない階段が作られてます。
「セバスさんには厳しいサイズだな」
アリスターが穴を覗き込んで眉を顰めますが、セバスはいつもと変わらず涼しいお顔ですよ?
「ディディは俺が担いでいくか」
真ん丸ボディのディディを小脇に担いでアリスターは一番後ろに陣取ります。
相棒であるディディの短い手足がバタバタしてるけど、自分で歩きたいんじゃないかな?
ぼくは兄様と仲良し抱っこスタイルだし、セバスはドロシーちゃんと手を繋いで、準備はバッチリです。
白銀と紫紺が灯りの魔法で照らされた地下への穴を厳しい目つきで睨んでいました。
「ピイッ」
<俺様も運んでもらう。楽チンだぞぅ>
呑気に白銀の頭の上で寝そべっていた真紅の暴言に、青筋をピキッと立てた白銀が激しく頭を振り回します。
ベチャッ。
「ピッ!」
<いってぇーっ!>
うん、見事な自業自得です。
「にいたま。だっこ、ありがと」
「うん。僕が守るからね」
守ってもらうのも嬉しいけど、ぼくも大好きなみんなを守ってみせます!
鼻息を荒くしたぼくと兄様たち、いざ、土の精霊王様救出チームの作戦決行です。
幅の狭い階段を慎重に降りて、ドロシーちゃんの示す方向へ周りを警戒しながら進むぼくたち。
どうやらドロシーちゃんたちが作った通路部分が終わり、魔物のワームがその体を移動するときに作られた地下通路まで来ましたよ。
ドロシーちゃんたちが作った通路はデコボコしていて通路の大きさも均一ではないから、歩きにくそうでした。
セバスが器用に歩きやすい場所を見つけてスタスタと歩くので、兄様とアリスターも大人しくその後ろに付いていき、転んだりすることはなかったけどね。
白銀と紫紺には道の悪さは関係ないみたいで、軽快に歩いてるみたい。
真紅? 白銀に振り落とされた後、必死に頼んで背中に乗せてもらっているよ。
地下通路移動中に寝たら置いていくぞって脅されてました。
「こっちに行くとあたしの部屋で、あっちが悪い人たちがいた所です」
ドロシーちゃんが指差すのは自分のお部屋の方向で、土の精霊王様が捕まっている方向へは顔を向けることもしません。
たぶん、心情的にあっちに行くのが嫌なんだと思います。
怖いもんね。
でも、ぼくたちの目的は土牢に閉じ込められて邪気に侵されている土の精霊王様の救出なので、ドロシーちゃんが嫌がる方向へ足を向けます。
ごめんね。
「セバス。このまま灯りを点けたままで移動してもいいと思うか?」
「そうですね。ドロシーが見たまま悪い者たちが殺さ……逃げ出したのであれば危険はないと思いますし。どちらにしても灯りが不十分だと足元が危ないです。このままでいいでしょう」
悪い者がいたら白銀様たちが倒してくれますよ、と付け加える。
ぼくはトンネルみたいな地下通路を見回してみる。
うん……今、「ライト」の魔法で出している灯りを消してしまったら真っ暗になってしまう。
この暗さでは、灯りの一つや二つでは足りないと思うよ?
結局、白銀たちがいっぱい出した灯りを消さないまま進むことにしました。
暗い所が苦手なぼくと、怖がりなドロシーちゃんがホッと胸を撫で下ろします。
悪い人たちが行き来していただろう地下通路は、しっかりと周りの土壁や天井が補強されていて、足元も舗装されたように均されていました。
ただ、所々に補強されていない壁や天井には窪みがあって、触るとポロポロと土が零れてきそう。
「土魔法のコントロールがイマイチだな。雑な仕事だ。崩落する心配はなさそうだけどな」
アリスターが小馬鹿にしたように言い捨てます。
「別にずっと使うつもりでいたわけじゃないから、雑なんだろう。まさか土の精霊王様を捕縛できるとも思ってなかっただろうしね」
兄様も地下通路をキョロキョロ見回しながら感想を述べます。
なんだか、黙って地下通路を進むと得体の知れない恐怖に心が占められそうで、兄様とアリスターはそれからもずっとお話ししながら足を進めました。
ぼく? ぼくはちょっと気分が重いのです。
白銀と紫紺も感じているのかもしれません。
なんとなく、進む方向からヒタヒタと押し寄せてくる黒い気配に、押しつぶされそうな気分で苦しい。
あの黒いモヤモヤとは違う、重くて苦しい……そんな気配。
これが、邪気なの?
「見えてきましたよ。この通路の終わりが」
セバスがピタッと足を止め、ぼくたちへ振り返り奥の空間を指差す。
あの中に、邪気に侵された土の精霊王様がいる。
「……っ。しろがね、しこん」
「大丈夫だ、レン。俺たちがいるだろう?」
「そうよ。あたしたちに任せなさい!」
ぼくを守るように、ズイッと白銀と紫紺が前に出る。
奥の空間から迫る何かから守るように……。