精霊王様を助けよう 2
セバスとアリスターがセシリアさんの所へ馬車を預けて戻ってきました。
ドロシーちゃんと兄様の距離が近くなっているのに、セバスの口端が少し上がったみたい。
アリスターも兄様に負けじとディディを連れて、ドロシーちゃんに挨拶しています。
ところで、ぼくはちょっと困ってオロオロ。
『水の妖精のくせに礼儀がなってないね!』
『れいぎってなんだ? うまいのか?』
さっきから、土の中級精霊であるチャドと僕の契約妖精で水の妖精であるチルのコミュニケーションが擦れ違っている。
そして、のんびり陽気なチルは気にしていないけど、チャドはチルの態度に機嫌が下降気味です。
「チル。あの、あのね……」
『レン。このつちのこ、ちょっとかわってんなー』
いやいや、チャドは変人じゃなかった、変精霊じゃないよ?
ぼくは二人の仲を仲裁することを諦めて、ガシッとチルを手で豪快に掴むと、ポイッと紫紺にパスしました。
「こっちで躾けておくわ」
紫紺にコクンと頷いて、ぼくはチャドと向き合い……。
「ご、ごめんなしゃい?」
ぼくが謝ることじゃないかもしれないけど、お友達の失敗はぼくがカバーしてあげないと!
『……別に気にしていません。精霊より下位の妖精に馴れ馴れしくされたぐらい、別に……』
ぷいっと顔を横に向けたモグラの愛らしい姿をした土の中級精霊は、気位いが高めの精霊さんでした。
これから、一緒に土の精霊王様を助けに行くので、仲良くしてくださいっ。
『そちらが仲良くしたいのであれば、こちらは別に……』
口をツンと尖らせて……あれ? それは元々? とにかくチャドはちょっとツンとしたところがあるけど、仲良くはしてくれるみたい。
「よかった」
ぱあっと満面の笑顔で安心していると、兄様がひょいとぼくの体を軽々と抱き上げる。
「にいたま?」
「さあ、そろそろ行くよ。石柱の破壊に遅れず精霊王様を助けないとね」
「あいっ」
ぼくは顔をキリリと引き締めます。
六本の石柱を同時に破壊しないと魔法陣に供給されている魔力が、どこかで暴発するかもしれないので危険だそうです。
機能していない魔法陣に危険などないように思いましたが、この魔法陣は正常に機能していて、ただ蛇のお姉さんの結界がその効力を遮っているだけなのです。
ここ最近、どこかの聖獣がストレス発散のため蛇のお姉さんの結界を度々破壊していたので、魔法陣全体に魔力が供給されつつあり、何かの刺激で滞っている魔力が溢れてしまう可能性が否定できない……って難しい顔で話してました。
問題は、その魔力と神気が混ざった瘴気が蔓延している土の中で、その土の中の牢に邪気に侵され捕まっている精霊王様の救出です。
石柱が健在で牢から救出する又は石柱を破壊と同時に救出するのはいいけど、石柱を破壊後に救出するのは、乱れた魔力と供給していた神気が混ざった瘴気の異変に、邪気がどう反応するか不明なため危険すぎると言われました。
なので、ぼくたちは石柱を破壊するのと同時、若しくはちょっと早めに行動するのです。
この作戦に大事なのはドロシーちゃんとチャドの地下通路の案内と、石柱破壊チームと連絡を取り合う火の中級精霊ディディなのです!
「ディディ。がんばって!」
ぼくは両拳をギュッと握って、ディディに真剣な眼で訴えます。
ディディは、キュッと眉間に力を入れて雄々しく頷きました。
「それでは、行きましょう」
おー! ……て、ぼくは兄様に抱っこしてもらって行くのかな?
カタンッと粗末な板をズラすと、ぽっかりと穴が開いてました。
ここが地下通路への入口らしいです?
「まっくろ」
穴を覗いてみたけど、真っ黒で何も見えない。
「「ライト」」
セバスと兄様が灯りの魔法を使って、丸い両手サイズの灯りを出してくれました。
灯りの玉はフヨフヨと浮いて穴の中に入っていき、ぼんやりと地下通路の入口を照らします。
「暗いなー。もっと灯りを点けよう」
「そうね。あたしたちはいいけど、レンが怖がるわ」
白銀と紫紺が穴を覗いた後、「ライト」を連呼して十個以上の灯りの玉を作り穴の中へポイポーイッと放り込みました。
「うわっ」
アリスターが仰け反って顔を腕で庇いました。
「まぶちい」
白銀と紫紺が出した灯りの玉は、兄様たちが作った灯りの玉より明るく、それが大量に出現したため眩しくて目が痛いです。
「ピイッ。ピイッ! ピーイッ!」
<俺様だって。ライト! ライト!>
残念ながら神気がこれっぽちも戻ってきていない真紅がいくら「ライト」と唱えても、何も出てきませんでした。
「もう、らいと、いらない」
やけになって「ライト」と叫んでいる真紅の嘴を指でそっと閉じさせる。
眩しいからもう大丈夫!
「わるいひと。みつかっちゃう?」
こんなに明るかったら、ぼくたちの救出作戦が悪い人たちに見つかって邪魔されちゃうのでは?
はわわわ、たいへん!
「平気でしょう。悪い人はみんな自分たちの失敗を悟って逃げた後ですから」
「そうだよ。むしろ、居てくれたほうが助かるよ。いろいろと話が訊けるからね」
なんでだろう? ぼくを安心させるためにセバスと兄様が話してくれているのに、ちょっと寒気を感じるのは?
特に兄様の笑っているようで眼がキランと光るのはなんでだろう?
「ほら、早く中に入って移動しようぜ。俺たちが動かないと他が行動できないだろうが」
アリスターの呆れ顔にハッとした兄様は、ドロシーちゃんに「行こう」と優しく声をかけました。
ちなみに順番は、セバスとドロシーちゃんにチャドが一番前で、真ん中に兄様に抱っこされたぼくと白銀と紫紺で、真紅は白銀の頭の上に乗っています。
後ろはアリスターとディディ。
「にいたま。ぼく、おりるよ?」
アリスターが無意識にカチャリと剣の柄に手を伸ばしたのを見て、ぼくは兄様にそう進言したのに。
「大丈夫だよ。かなり歩くみたいだし道も悪いだろうから。レンは僕が抱っこしていくよ」
……う、うーん、いいのかな?
チラッとセバスを見たら、ドロシーちゃんと手を繋いでいたし、もう悪い人は中にいないって……、じゃ、いいか!
「あい。ぼく、にいたまのだっこ、すき」
「僕も好きだよ」
二人で顔を合わせて「えへへへ」と照れ笑い。
「おいっ。行くぞ」
後ろのアリスターから低い声で注意されるまで、ぼくと兄様はニコニコしていた。