精霊王様を助けよう 1
ぼくも、土の精霊王様救出作戦に参加できることになりました!
ぼくとチルと真紅は三人で気合を入れます、えいえいおーっ!
でも、チロは安定の兄様の肩の上でうっとりとして、仲間に入ってくれませんでした。
石柱の破壊と同時に救出することになったのでちょっと大変だけど、兄様もアリスターもセバスもいるし、白銀と紫紺もいるから絶対大丈夫!
石柱の破壊については、どうしても移動に時間がかかるので、一番近い石柱をミックさんとザカリーさんが担当。
次に近い石柱をアルバート様とリンが担当することになった。
二人の精霊王様は一端、妖精の輪で精霊界に戻ってからそれぞれ担当する石柱の近くに出現することにしたし、蛇のお姉さんと瑠璃は転移の魔法が使えるので余裕で移動ができるそう。
「るり。いったことないのに、てんい、できる?」
「うん? そうじゃ。転移はな、行ったことのある場所や目印になる物や人、目に映る場所ならできるぞ」
そうなんだ。
「じゃあ、ぼくたちを、てんいする、できる?」
移動するのに一番時間がかかるのは、ぼくたちなんだよね。
ここから歩いて森の出口近くまで行って、馬車でモンステラ伯爵様のお屋敷まで戻るのにかなり時間がかかる。
でも、瑠璃が転移できるなら、びゅーんっと移動できないかな?
「ふむ。レンたちと馬か?」
「んゆ? ばしゃも?」
瑠璃は兄様に、ここまで何で移動してきたのか確認してくれた。
「レン。みんなまとめて転移できるぞ」
「わーいっ!」
バンザーイと手を上げて喜んでいるぼくの隣で、紫紺がしょんぼりと落ち込んでいる。
「ア、アタシだって、もうちょっとで転移魔法が完璧に使えるようになれるのにぃぃぃぃっ」
「まあまあ。今回は馬や馬車までまとめてなんだから、しょうがないだろう」
珍しく、白銀が紫紺を慰めていました。
紫紺の転移魔法は、まだ少人数しか転移できないみたいなんだ。
「我たちは一度精霊界に戻る」
「精霊たちを預けておく。ああ、童にはそこの……珍妙な火の精霊で間に合うだろう」
水の精霊王様がアリスターの足元にちょこんと寄り添うディディを不思議そうに見ている。
「……ギャウ」
珍妙と言われたディディは、不機嫌そうに鳴いて返事をする。
「わ、私も、い、行くね。ぼうやも、き、気をつけてね」
蛇のお姉さんが遠慮がちにぼくの頭を撫でて、ふわっとその姿を消した。
「うわっ!」
すごい! 空気に解けるように消えてしまった!
蛇のお姉さんは転移の魔法が上手だねぇと思ったけど、口には出しません。
また、紫紺が落ち込んじゃうからね……。
「レン。馬車を停めた場所まで移動するから、おいで」
「はーいっ」
ぼくたちは瑠璃と一緒に森を少し移動してから、転移です。
兄様の側にタタタッと駆け寄って、差し出された手をギュッと握ります。
「えへへへ」
「本当に危ないんだから、無理しないんだよ?」
もう、兄様ったら心配性なんだから。
「だいじょーぶ」
ぼくが兄様を守るんだから!
森の中で馬車に乗って、瞬きするぐらいの時間で転移終了です。
ガチャリと馬車の扉を開けたら、セシリアさんの研究室の近くでした。
「す、すごい!」
初めての転移魔法にドロシーちゃんは呆然としているし、その腕の中の土の精霊チャドもキョロキョロと辺りを見回しています。
「とりあえず、馬と馬車はセシリアに預けてきます」
セバスがアリスターを連れて馬車を動かす。
「レン、ドロシー。ここで待っていよう」
「あい」
兄様に声をかけられて、ドロシーちゃんの体はビクンと大袈裟に反応した後、怯えた上目遣いで兄様の様子を窺ってます。
「……まいったな……」
ドロシーちゃんは、獣人の子供たちから虐められているせいで、兄様ぐらいの子供が怖いんだと思います。
兄様はとっても優しくて素敵な人ですけど。
ぼくはドロシーちゃんへトコトコと近づき、モグラのお手々を握りました。
「あ、ダ、ダメ。怪我しちゃう」
「だいじょーぶ」
ちゃんと爪には触らないようにしています。
「こっち」
これから一緒に土の精霊王様を救出作戦を決行する仲間なんだから、ちゃんと仲良くしておかないとダメでしょう。
ぼくは、腰が引けているドロシーちゃんを連れて兄様の側まで戻ってきます。
「ぼくのにいたま。やさしいよ?」
「え? ええ? ……えっとぉ」
ドロシーちゃんはぼくの顔を見て、兄様の顔を見てと忙しなく視線を動かして、やや困惑気味です。
「しろがね。しこん。しんく。あと、ちるとちろ」
みんなを紹介して、ドロシーちゃんと仲良くなろう。
「あ、あの……。よ、よろしく、お願いします?」
ドロシーちゃんの小さな声に兄様がニッコリ笑顔で「こちらこそ」と答えると、ドロシーちゃんの顔が真っ赤に染まりました。
兄様、かっこいいもんね!
白銀や紫紺もドロシーちゃんの手をペロリと舐めてから、ふさんと尻尾を柔らかく当ててご挨拶です。
『つちのこ。よろしくな!』
「……きみ、妖精でしょ? これでも、私は土の中級精霊なんですけど?」
『そんなの、かんけーねぇ。おれ、つよいもん!』
おやおや、チルとチャドも仲良くなったみたいだね!
「ピイッ。ピイピイ?」
<いや、あいつ、精霊に喧嘩売ってるぞ?>