救出作戦 2
ふんすっと鼻息を荒くして、ぼくは雄々しく立ち上がりました。
あ、セバス、お菓子おいしかったよ、ありがとう。
兄様たちと精霊王様たちの難しい話がようやくまとまって、これから遂行する作戦のチーム分けの話に移りました。
ここからは、ぼくも参加しますよ!
ぼくだって、頑張って活躍するんだもん。
兄様たちが考えた作戦は三つ。
一、石柱を六本同時に破壊して浄化すること。
一、地下通路にある土牢から邪気に侵された土の精霊王様を救出する。
一、神気が混じった瘴気に汚染されたアイビー国の土地を浄化する。
むむむっ、どれも難易度の高いミッションです。
みんなは、石柱の破壊作戦についてメンバー選択をしているみたい。
「石柱が土地に瘴気を供給しているとなれば、破壊するだけでなく浄化が必要だ。お二人の精霊王様には浄化ができる精霊と共に石柱の破壊を任せたい」
珍しいアルバート様の真剣な顔に、ぼくもキリッとした顔で真面目に話を聞きます。
「それはいいが、我と水ので破壊できるのは二本じゃ。残りの四本も同時に破壊するのであろう? どうする?」
火の精霊王様が胡坐をかいた足に頬杖ついて、面白そうにアルバート様へ問いかける。
「うーん、浄化のできる精霊をつけてもらったら俺たちで二本を受け持とう。いいなリン?」
「はい。ミックとザカリーも石柱の破壊なら大丈夫だよな?」
リンの圧を感じたのか、ミックさんたちは無言で力強く頷いた。
「残り二本か……。モンステラ伯爵から私兵を借りてどうにか間に合うかな?」
「ヒューバート様。なんでしたら一本は私めが?」
「いや、セバスにはレンと一緒にいてもらいたい」
兄様が何かを窺うようにチロリとぼくを見るので、ニッコリ笑顔で応えておきました。
「あ……あのぅ。あのぅ……」
蛇のお姉さんが紫紺たちの後ろから遠慮がちに手を挙げて、震える小さな声を上げた。
「なによ、ホーリーサーペント。どうしたの?」
紫紺がふわんとしなやか尻尾を揺らしながら、人化している蛇のお姉さんの顔を仰ぎ見る。
「そのね、石柱……わたしが一本壊します。あのぅ……だから、浄化のできる精霊さんお願いします」
なんと! 蛇のお姉さんが助力してくれるんだ!
「これで五本。残りの一本はやっぱりモンステラ伯爵に頼るか……」
「いや、ヒュー。同時に石柱を破壊しなきゃならないし、その後は瘴気を浄化しなきゃならないんだろう? じゃあ、せめて精霊と意思疎通できるか見える奴じゃないと、連絡が滞ると思うぞ?」
どうやら、石柱を同時に破壊するために浄化要員の精霊を通じて連絡をしタイミングを合わせる作戦だったらしい。
そうだよね、アイビー国が小国でもその国境沿いに建てられた柱を同時に壊すのって難しいと思う。
この世界には、携帯電話とかないものね。
でも、精霊同士なら魔法で一時テレパシーのように繋がることができるんだって。
つまり、精霊とお話ができる人か見える人じゃないと、タイミングを合わして石柱を壊すことは至難の技ってこと。
アリスターが心配するのも無理もない。
「それに、どう考えても石柱を破壊するメンバーで危ういのは俺たち二組だ。俺たちよりも実力のない者が加わるのは……不安だな……」
アルバート様はうーむと腕を組んで考えるポーズをとりながら、チラチラとセバスに視線を飛ばしている。
残りの一本の破壊をセバスに頼みたいのかな?
えっ? でもセバス一人で壊せるの?
ぼくがパチパチと瞬きをしてセバスへと顔を向けると、セバスは片眼鏡をカチャリと直して優しい微笑みを浮かべる。
うっ、なんかアルバート様が後でお仕置きされてしまう予感がします。
あ、そうだ。
浄化ができる精霊と意思疎通ができて、石柱を破壊できるだけの攻撃力がある人だったらいいんだよね!
「はーいっ、はいはい」
ぴょんぴょんと跳ねてぼくは右手を高く上げた。
「ど、どうしたの?」
兄様が慌ててぼくの体を抱き込むけど、ぼくね、いい人を思いついたんだっ。
「奇遇だな。俺も適任者を思いついたぜ」
「そんなの、誰でも気がついてるわよ。あいつでしょ」
「ピーイッ」
<俺様でもわかるぞ>
みんなもぼくと同じ人を思い浮かべたの?
じゃあ、みんなで一緒にその人の名前を発表しよう!
「いくよ」
ぼくのかけ声に、白銀たちが目をキラキラとさせて大きく頷く。
「じゃあ……そのひとは……」
「「「瑠璃ーっ!」」」
「ダイアナさーんっ!」
……んゆ? ぼくが発表した人と違う人のお名前が聞こえた気がします。
ぼくが白銀たちのお顔を不思議そうに見ると、白銀がつーいと顔を背け、紫紺の目がギリッと吊り上がりました。
「ピイピイ!」
<なんで、ダイアナなんだよ!>
真紅の不満そうな呟きが聞こえました。
ええーっ、だってダイアナさんだったら浄化の力も強いし、闇の上級精霊だよ、とっても強いと思うの。
「そうだね。レンの言うとおりダイアナに助力を頼むのもいい方法かも。転移魔法も使えるし……」
ほら、兄様は賛成みたいだし、アリスターも納得顔です。
セバスもアルバート様へのヘッドロックを解いて、いつもの涼しい態度でシャッキと後ろに控えています。
「アタシは嫌だけど、確かに適任かもね。あいつがいれば浄化作業も捗るだろうし……」
紫紺が苦虫を百匹噛み潰した顔で渋々提案を受け入れようとしたとき、思っていない方向から不穏な気配が漂ってきた。
「んゆ?」
「……ダイアナ、だと?」
「嘘でしょう? あんな奴と会いたくはないわ! あいつの手を借りるなら、我が消滅ギリギリまで力を使うぞよ!」
ゴゴゴォと音を立てそうなほど、嫌悪のオーラを背負った二人の精霊王様がダイアナさんの名前に拒否反応を示していました。
なんで?