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石柱の魔法陣 4

水の精霊王様の転移魔法で連れてこられたモグラの獣人ドロシーちゃんは、泣きそうに顔を歪めて何度も左右を見回す。

ぼくたちはそんな彼女に驚いた顔を向けたまま、何も言葉を発することができなかった。


『あれ? つちのこがいる?』


『ほんとうだぁ』


新しいお客さんに興味を引かれてふよふよと周りを飛んでいた水の妖精チルとチロが歓声をあげて、ドロシーちゃんの服の中へと突進していく。


「わああっ。だめっ、チル!」


女の子の服の中に入るなんて、そんな非常識なことしちゃだめだよ。

必死にぼくがチルの暴挙を止めようとしているのに、兄様がサッとぼくの体を抱き上げてしまう。


「にいたま?」


「大丈夫。チルたちは他の人には見えないよ」


兄様は余裕の笑みですが、魔力がそこそこある人には、チルとチロの姿は光の玉のように見えるんですよ?

そして、兄様の予想を裏切る悲鳴が耳に刺さる。


「きゃあああああっ」


ドロシーちゃんが服の中に入った()かを取ろうとジタバタと暴れている。

それと同時にチルとチロに前足を掴まれた()かがドロシーちゃんの上着からポンッと飛び出してきた。

そのままふよふよとぼくたちの前にまでチルとチロが飛んできて、とっても嬉しそうに紹介してくれる。


『レン。ヒュー。ほら、つちのこだぞ!』


『せーれーだったわ』


よく見てみろとばかりに、僕たち二人の目の前にズズイと突き出されたのは……浮いた手足をワキワキと動かしている小さなモグラさんだった。

茶色の固そうな体毛に埋もれた真っ黒でつぶらな瞳を怒らして、ぼくを睨みつけている。


「ああーっ! みつかっちゃったー!」


ドロシーちゃんがそんなぼくたちに気づいて悲壮な声を出して、両手で顔を覆いしゃがみこんでしまったのだった。


ねぇ、兄様。

このすごい不機嫌そうなモグラさん……土の精霊さんだけど、どうしようか?

怒っているオーラが強くて、ぼく……友達になれる自信がないよ。

しかも、ドロシーちゃんはバッチリ精霊さんが見えるタイプだったみたいだし。

くすん。










つまり、ドロシーちゃんは土の中級精霊であるモグラさん――お名前はチャドさん――を匿っていたらしい。

いったい()から?


「つまり、その(わらし)は他の土の精霊たちがどうなったかも知っているということだな」


……圧がすごいです。


「そうじゃな。しかも土の精霊王がどうして精霊界におらぬのかも知ってそうじゃな」


……眼力が怖いです。


尋問されている本人じゃないぼくでさえ、水の精霊王様と火の精霊王様の迫力にガクブルしてまともに言葉を発せない。

ドロシーちゃんも喉をヒックヒックとさせて、呼吸もままならない様子だ。


「お二人とも、少し控えてくださいませんか?」


セバスがスーッと精霊王様たちとドロシーちゃんの間に入り、その背中でドロシーちゃんを庇う。


「む」


「なに?」


「お二人のような存在に慣れていない子供では、満足にお答えすることもできますまい。こちらで代わりに彼女に質問しますので、何か気になることがあれば、その都度私に耳打ちを」


水の精霊王様と火の精霊王様はパチリと瞬きして、すすーっと後ろに下がった。


「わかった。人の子よ。しばし、頼むことにしよう」


セバスは二人の代理としてドロシーちゃんと対面する。


「まずは、この状況をご説明いたしましょう」


ただ萎縮して震えるドロシーちゃんに、ニッコリとほほ笑んだセバスは神業のようにお茶とお茶菓子を用意して、ドロシーちゃんをもてなし始めた。

ついでに、モグラの精霊さんもちゃっかりお菓子をもらっている。


『セバスー、おれもー』


『おちゃもー』


あ、チルとチロまで便乗してお茶とお菓子をもらっている!


「にいたま?」


「あー、とりあえず、セバスに任せておこう。アリスター、僕たちはいつでも行動できるように」


「おうっ」


武器を掲げて兄様に応えるアリスターの足元からポテポテとディディがセバスの方へと歩いていく。

たぶん、ディディもお菓子をもらいに行くんだね……。


ぼくも食べたいのに……ズルい。



そして、ドロシーちゃんが教えてくれたアイビー国に起きた土の精霊たちの悲劇に、ぼくたちは頭の中が真っ白になり二人の精霊王様は激怒することになった。


だって、土の精霊王様とその側近の上級精霊さんたちが、道化師の恰好をした変な男の罠にかかり、土中の牢に閉じ込められているなんて話を聞いたら、誰でもビックリするよね?


ドロシーちゃんと一緒にいた土の精霊さんはこの地に唯一残った土の精霊さんで、他の精霊さんたちは危機を察した土の精霊王様により強制的に遠い地へ飛ばされたそう。

その精霊さんたちが土の精霊界に戻って助けを呼べばいいのでは? とセバスが問いかけると、ドロシーちゃんは悲しそうにゆっくりと頭を振った。


「無理です。この子が教えてくれました。土の精霊王様は邪気に侵され、この地にいた土の精霊も力を失い、今は眠りについているだろうって」


いったい、土の精霊たちに何が起きたの?

そして、道化師の男の目的はなあに?




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◆◇◆コミカライズ連載中!◆◇◆ b7ejano05nv23pnc3dem4uc3nz1_k0u_10o_og_9iq4.jpg
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