瘴気と浄化 1
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いつも助かっております。
クラク森からの帰りの馬車では、重ーい空気がズーンと白銀たち、兄様の頭の上に乗っかっているみたいです。
なんか、ぼくも口を噤んで大人しくしなきゃ、て思います。
二人の精霊王様は、それぞれの上級精霊をアイビー国の調査に放ち連絡係としてチルとチロ、ディディを指名して精霊界へと戻っていきました。
帰り際、隅にまとまっていた白銀たちに向けて「フンッ」と鼻で笑っていきました。
ぐぬぬぬっと蛇のお姉さんを除いた白銀たちが悔しがっていたけど、精霊王様たちとどんな関係なの?
悪いことしたんだったら、ちゃんと謝らないとダメだよ?
「そ、そうだな。しかし……俺たちは神獣聖獣だぞ? あいつらの態度は不遜すぎだ」
「しょうがないわよ。かなり迷惑をかけたんだし。特にあれらの上位にいる二人の精霊王たちはまだ復活できないんだし」
「ピイッ」
<でも、ムカつくぞ!>
うん、仲直りするのにはまだ時間がかかりそうだね。
お宿に戻ったみんなはちょっと疲れたから晩ご飯の時間まで、それぞれのお部屋で休息をとることにしました。
うーん、ぼくはどうしようかな?
「ヒュー。体が鈍ってきた。付き合ってくれないか?」
小脇にディディを抱えたアリスターが木剣を二本持って、兄様を手合わせに誘いにきました。
「いいな。考えが煮詰まってきたところだった。僕も体を思い切り動かしたい」
兄様も着ていたジャケットを脱いでアリスターから木剣を受け取り、お宿の裏庭へと移動するみたい。
「ぼくもいく」
お部屋にいてもつまらないもん。
当然、ぼくのお友達の白銀たちも一緒についてきてくれました。
裏庭ではアリスターと兄様がカツンカツンと軽く剣を合わしたあと、激しい打ち合いになっています。
ぼくもいつかはああいう手合わせをしたいなーっ。
「レ、レン。あっちに花が咲いているぞ」
「そ、そうよ。少し散歩でもしましょう」
白銀が右手の袖を、紫紺が左手の袖を咥えて引っ張り、ぼくを散歩に誘います。
え……、ぼく兄様たちを見て「てやーっ」「やーっ」と素振りでもしようかな? て思っていたのに。
でも白銀と紫紺の顔が真剣だったので、誘われるままに足を動かしました。
裏庭の壁際の一角はお宿の花壇だったみたいで、小さな白い花がいっぱい咲いてました。
「わあっ」
お花です。
じーっとお花を見て、いい考えが思いつきました!
「つむの。ごめんなさいのおはな。あげりゅの」
最近、我がままばかりで大好きな人を困らせていたぼくは、みんなにごめんなさいのお花を摘んでプレゼントしようと思いつきしまた。
よく母様に父様がごめんなさいのお花をプレゼントしていたので、気がついたのです。
お花をもらった母様はとびっきりの笑顔で、父様にぎゅっと抱き着きます。
「むふふ」
きっと兄様も喜んでくれるはずです!
でも……。
「おはな。げんきないでしゅ?」
白い小さなお花はしゅんと項垂れているように見えます。
「そうね。やっぱり土に栄養がないからかしら?」
「栄養じゃなくて魔力だろ?」
「ピピイ」
<魔力じゃなくて土の精霊力だろ?>
うーん、それは何かで代用できないのかな?
「チル? おみずだして」
チロは兄様の剣を振るう華麗な姿を目に焼き付けている大事な時間なので、今ここにはチルしかいない。
『おう、いいぞ』
ぼくの頭の上からふよふよと飛び出すと、白いお花の周りを飛んで水をサアーッと撒いてくれました。
水の妖精であるチルのお水には精霊力とやらが少しでも含まれているはず……はず……、ううん? 元気にならないなぁ。
『だめだな』
チルはあっさりと諦めて、ぼくの頭の上に戻ってしまいました。
チラッとディディを見ると、短い前足で口元を抑えていて、口の端からポワッと火が漏れ出ています。
「うん。ディディ、ありあと」
その気持ちだけ嬉しいです。
でも、燃えちゃうから火は吐かないでね。
「しろがね? しこん?」
ぼくが名前を呼ぶとビクッと体を震わせた後、「ちょっと作戦会議」と言いおいてぼくから少し離れた場所でこしょこしょと内緒話を始めました。
「ぶーっ」
最近、白銀と紫紺はぼくを仲間外れにしすぎです!
もういいもん。
人を元気にするには、お薬を飲んでゆっくり休めばいいよね? じゃあ治癒魔法をかければお花も元気になるんじゃないのかな?
「ちゆまほー、する」
むんっと気合を入れて、花壇に向けて「おりゃーっ」と両手を突き出して念じてみる。
元気になあれ、元気になあれ、悪いところを治して元気になあれ、悪いものはあっちにいけー!
んゆ?
なんだか体の中からぽかぽかする何かが溢れて、お花に翳した手のひらからぶわっと流れ出ていくような?
「あれれ?」
「ぎやーっ! レン!」
「きゃーっ! レン、なにやってんのーっ!」
白銀と紫紺に服の後ろ襟を噛まれて、ずざざっと後ろへ引き倒されたぼくはお尻をドンッと打ってしまった。
「いちゃい……ううっ」
お尻が痛いよーっ。
「ああ、ごめんごめん」
「大丈夫? ごめんなさいね。ああ、無事みたい。生命力までは注いでなかったわ」
白銀と紫紺はぼくが怪我をしていないことに安心したのか、ほーっと息を吐いた。
怪我はしてなくても、お尻は痛いんだよ?
「もうっ! しろがね、しこんもじゃましちゃダメ」
ぼくは今、お花を元気にするために魔法を使おうとしていたのに、魔法使ったことないけど……。
「もういっかい。……あれ?」
気持ちを切り替えてもう一度チャレンジ! と花壇に目を移せばそこには……。
ぼくが手を翳していた部分だけ、白いお花がシャキッと上に向かって花弁を開いていた。