神獣聖獣たちの夜のお茶会
とにかく今夜はここまでにしようと、それぞれの部屋に戻り夜の時間を過ごすことにしました。
兄様がお宿に精霊王様たちが訪ねてきたら大事になるからと顔を青くしていたら、紫紺が「あの子の結界の中でいいんじゃないの?」と提案してくれたので、戻ってきたばかりだけどディディたちには精霊王への伝言を頼みました。
まあ、チロは兄様と離れたくないからってチルに伝言を押しつけていたけどね。
アルバート様はまだお酒を飲んでいるかも? セバスは父様に報告書を書いているかな? ぼくはもう眠いですぅ。
「ほら、明日も早いから、もう寝ようね」
ベッドに横になって兄様にお腹を優しくポンポンされたら、睡魔に抵抗できません。
「うぅ……ん。にいたま、おやしゅみ」
「おやすみ」
チュッとぼくの額におやすみのキスをして、兄様もぼくの隣にゴソゴソと寝転んで……おやすみなさーい。
「……寝たか?」
「ヒューは起きているわよ? でもレンはぐっすりね」
むくっと伏せていた体を起こして、ベッドに埋もれているレンを見やる。
黒い髪の毛がピンと跳ねていて、かわいいな。
「おい、あっちで話そうぜ、ヒュー、ちょっと出てくる」
ヒューは俺の言葉にヒラヒラと右手を小さく振ってみせた。
細く開けた戸から俺と紫紺はスルリと抜け出ていく。
真紅も忘れずに紫紺がカプッと噛んで移動させていた。
みんなで集まる広い部屋のソファーに勢いをつけて昇り、座り心地をよくするのに足でふみふみ。
紫紺はテーブルの上にベシャッと真紅の体を吐き出し、ペロペロと自慢の毛を舐めて整える。
「ピーイッ」
<なんだよ……俺様、眠い>
「お前、しょっちゅう寝ているじゃねえか」
爪をしまった前足でうりゃうりゃと真紅の丸い体を突く……お前、また一段と丸くなってないか?
「どうする? 瑠璃も呼ぶ?」
「うーん、レンのことだからなぁ。報告しなかったら爺さん拗ねるだろう? それにホーリーサーペントのこともあるし……」
正直、瑠璃の爺さんを呼ぶのは遠慮したいが、レンのことで内緒にしているとバレたときが怖い。
それに、昔馴染みのこともあるが、この国の抱える問題についても報告しておいたほうがいいかもしれん。
俺たちと違って、あの争いに参加していなかった瑠璃の奴は精霊たちとも良好の関係を築いているしな。
「じゃあ、呼ぶわよ?」
俺はコクリと不承不承頷いた。
海に面していないアイビー国には来たことがなく転移ができない瑠璃だが、俺たちが呼べば転移ができる……らしい。
なんで、そんなに曖昧な言い方なのかって?
しょうがないだろう! 俺はまだ満足に転移魔法が使えないんだよっ。
「……それでは、お茶は四人分でよろしいですか?」
ドキーッ!
「セ、セバス!」
ふいに後ろからかけられた声に毛をぶわっと逆立てて振り向けば、涼しい顔をしたセバスが立っていた。
「お、お願い、するわ」
紫紺の奴も珍しく声が震えているし、真紅は小さな羽を広げて自分の体を守ってやがる。
「世話をかけるな、執事殿。できれば茶菓子も用意してくれ」
今度は紫紺の背後に瑠璃がしれっと立っていた。
「爺さん、図々しくないか?」
「いいではないか。人が食する菓子が気に入ったのだ」
瑠璃の本体は聖獣リヴァイアサン、バカデカイ体を持つ爺さんは陸に上がるときは人化していることが多い。
実際、ホーリーサーペントよりデカイしな。
スラリとした肢体を優雅に動かし、紫紺の隣に腰かける。
セバスはお茶を四人分とお代わり分のポット、茶菓子をたんまり用意したら、一礼して自分に宛がわれた部屋へと戻って行った。
正直、あいつは本当にただの人族なのか? 存在が神獣聖獣を脅かすほどなんだが……。
「ところで、レンのことで話とはなんじゃ」
クッキー齧りながら真顔で質問してくんなよ、爺さん。
「それが、あの方ったらまた失敗したみたいなの。レンの体のことなんだけど」
「ふむ。ちと防音の魔法を施しておこうかの」
瑠璃がしゃらりと長い袖を振ると、この部屋全体に防音の膜が張られた。
俺は鼻にシワを寄せて紫紺の説明を黙って聞いていた。
あの方の失敗とは、こちらの世界に適応させるために作り替えたレンの体のことだ。
いや、レンに与えた能力も問題だよな……。
なんで、創造神ともあろう方が何かを創ると失敗をするんだ?
そもそも最初の神獣エンシェントドラゴンを創ったときに同じ失敗をしているだろうがっ!
あー、思い出したら腹が立ってきた。
バキン!
「ピイピイ?」
<白銀。お前どうやって食ったらクッキーでそんな破壊音出せんの?>
うるさいっ、デブ小鳥め。
「つまり、与えた能力が強大過ぎて幼い体では耐えられないから、能力を封印したら体の成長まで止めてしまったのか」
瑠璃が頭が痛いと手で額を覆うが、俺たちだって聞いたときは口が開いて閉じることができなかったぞ。
「成長はするみたいなのよ? でもねすっごいゆっくりなの。どんな種族だって身を守るために幼年期の成長は早いのに、レンはもの凄くゆっくりで、ハッキリ言ってわからないぐらいなの!」
あの子毎日、背が伸びてないか測っているのよ? 毎朝、「ぼく、おおきくなった?」て聞かれるのよ? と紫紺が泣きわめく。
うむ、確かにレンの「ぼく、おおきくなった?」攻撃はツラい。
本当のことが言えないから余計にツラいし、とうとう成長がほとんどしていないとわかったから、これからはもっとツラい。
俺はクッと眉間にシワを寄せて苦悩する。
「しかも、与えた能力が規格外じゃの。魔法は全属性。当然、治癒魔法も扱えるし、なんで浄化の能力まで付与したんじゃ?」
「浄化の能力は、徳の高い神官でも使えるけど、アタシたち神気が混じった瘴気を浄化できるのは精霊たちだけ。よりにもよってレンの浄化は精霊レベルなのよ……」
そう、俺たちがレンと出会ってしばらくしてから起きたヒューとレンの誘拐事件。
そのとき、生死を危ぶむ怪我を負ったヒューを助けた水の精霊王とレン。
今思えば、ヒューが足に受けた「呪い」は俺たちの神気が混じった瘴気だった気がする。
それを「浄化」したのはレンだ。
「うん? あれ? なんで、レンだったんだ?」
「どうしたの、駄犬」
「いや、ちょっとな……て、誰が駄犬だっ!」
「漫才している場合か。で、何を思い出したのじゃ?」
実はな……、俺の話を聞いた紫紺と瑠璃は難しい顔で黙り込んだ。
「ピーイッ、ピイ」
<あー、腹いっぱい。俺様満足。なんか……眠くなって……きちゃった……ぐぅ>
真紅、お前はバカで呑気で羨ましいよ。
あー、瑠璃に相談して解決の糸口を見つけたかったのに、さらに問題が出てきちゃったよ……。