聖獣みつけた 2
白銀と紫紺たちが神獣聖獣仲間である大きな蛇さん――ホーリーサーペントと再会を喜び? あっていると、後ろの繁みから兄様とアリスターを先頭にアルバート様たちが駆け込んできました。
「レン、無事か!」
ひょいと、アルバート様に抱え上げられたぼくはそのまま抱っこされた状態で上下左右にグルグルと回されて、怪我の有無などを確認されたんだけど、目が、目が回るぅ。
「あ、すまん」
兄様が慌ててアルバート様の手からぼくの体を奪い返してくれました。
「大丈夫かい?」
「い、いまので、きぼちわりゅい」
なんか、お腹がグルルルルってしてます。
セバスが冷たく濡らしたハンカチをおでこに当てて、敷物を敷いた上にぼくの体を横たえて、そよそよとどこから出したのか薄い板で扇いでくれました。
「だから、俺が悪かったから睨むな、ヒュー。そ、それより、あっちはどうなってんだ?」
青い顔してクイクイとアルバート様が指差すのは、大きな蛇さんとなぜか威嚇体勢の白銀。
「……しろがねとおともだち?」
あれ? お仲間だよね? 真紅が「そうだ」って教えてくれたもん。
トテトテと紫紺がこちらに歩いてきて、ぼくの頬にピタリと冷たい鼻先を押しつけてくる。
「気にしないでいいわよ。あの二人……真紅も入れたら三人かしら? 相性が悪いのよ。ホーリーサーペントのほうは友好的なんだけど」
ふうっと息を吐いて、紫紺はぼくの頭の横にキチンとお座りした。
ふわふわの尻尾がぼくの顔をパタンパタンと擽って……ちょっと気持ちいい。
「ガウッ! お前こんな所で何してんだっ!」
「何って……、隠れている? 引き籠っている? だって神界にいたらダメだって神使たちが追い出すから……」
蛇さんの頭が、がっくりと下に落ち込みます。
「だからって、周りに迷惑かけていいことにはなろんだろうがっ。あと、お前は無駄にデカイんだよ! 人化しろっ」
「ええーっ。もう、フェンリルちゃんは昔から理不尽なんだから」
プチプチと文句を言いながら蛇さんの大きな体はボワンと白い……ん? ピンク色の煙に覆われていきます。
少しずつ煙が薄れていくと、その中から出てきたのは人化した蛇さんのはずなんですけど?
「んゆ?」
そこには、前にぼくがいた世界のぼくの国でもめったに着られることのない着物姿をしたきれいな女性が立っていました。
大きな蛇さんが人化したきれいなお姉さん――ホーリーサーペントには害がないと判断した兄様たちは、改めて話が聞きたいと車座になって座っています。
白銀たちもお姉さんの「私だけ人化しているのは恥ずかしいわ」との言葉に、紫紺は嬉々として、白銀は嫌々ながらも再び人化してくれました。
「あら? フェニックスちゃんは?」
「ピーイッ」
<うるさいっ。俺様のことは放っておけ>
プイッと顔をお姉さんから背けて、やけくそ気味にクッキーを齧るけど、そのクッキーどこから出したの?
あと、お姉さんが真紅の食べているクッキーに興味津々だから、セバス、お姉さんにもお菓子を出してあげて。
「真紅のことはいいから。それより、アナタここでずっと閉じこもっていたの? 結界まで張って?」
「そうよ。あら、そうだ。貴方たち結界を壊してしまったのね。張り直さないと、人たちが入ってきてしまうわ」
お姉さんは「怖い怖い」と言って、右手をサッと払うように動かした。
「怖いって……。俺たち神獣聖獣が何を怖がるってんだ」
「フェンリルちゃん。……怖いわよ。私は私を怖がる人が怖いわ……」
セバスの渡したクッキーを両手に持って、顔を俯けてしまうお姉さん。
「アンタ、人を遠ざけるために結界なんて張ってたの?」
コクンと頷くお姉さんに、ぼくの胸がツキンと痛みます。
白銀もそんな態度のお姉さんに対してバツが悪くなったのか、ガシガシと頭を掻いてフンッと鼻息、胡坐をかいた膝に肘をついて仏頂面です。
「ずいぶん、弱気になったのね。アンタ、下界に降りるときウキウキしてたじゃないの。かわいい物を集めて美味しい物をいっぱい食べるって」
「そうだけど……。誰も、私と仲良くなってくれなかったんだもん」
「えっ!」
ぼくは、お姉さんにびっくりしました。
だって、シエル様がお創りになった神獣聖獣でしょう? みんなに好かれて大切にされたんじゃないの?
コテンと首を傾げるぼくを見て、お姉さんは悲しそうに笑いました。
「そうね……。下界に降りてからはレオノワールとも会ってなかったし。私の話を聞いてくれるかしら?」
お姉さんはそう言うと、小さく震える右手を隣に座る紫紺の手に重ね、柔らかい声で話し始めた。
神界から下界へと降りて、神獣聖獣が参戦した争い、そのあとの長い眠りのことを。