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アイビー国へ 5

ぼくは宿から出てすぐにガタガタ激しく揺れる馬車の中で熟睡してしまったみたい。

兄様に起こされたときには、すでにモンステラ伯爵領都に入っていて丘の上にある伯爵邸が馬車の窓から見え始めていた。


「んゆ?」


目をコシコシと擦るぼくの足元には、白銀と紫紺も体を横たえて休息している。


「もうすく着くからね」


兄様はいつもリリとメグがしてくれるみたいにぼくの身だしなみを整えてくれた。


「はくしゃくさまに、あうの?」


「そうだよ。簡単に挨拶したらセバスの婚約者に会って、そうしたら宿に行って休めるからね」


「あい」


モンステラ伯爵様にお会いするのは緊張するし、ちょっと怖いなぁと思うけど、セバスの婚約者に会うのは楽しみでドキドキする。

兄様は自分のせいで結婚が延期になったと気に病んでいるみたいだけど、ぼくと白銀たちでアイビー国の不作問題をアッという間に解決して、セバスが結婚できるようにしてあげるから!

そうしたら、兄様と一緒に結婚式の準備を手伝って、いっぱいいっぱいお祝いすればいいと思う。

ぼくが両手をギュッと握ってそう力説すると、兄様が目を大きく見開いた後、声を出して笑ってぼくを抱きしめた。


「そうだね、そうだねレン。それは最高だよ!」


うん! ぼく……じゃなくて白銀たちが頑張るから、兄様も昔のことで落ち込まないでね。

ぼくたちを乗せた馬車は小高い丘をゆっくりと登って行った。









「着きましたよ」


箱馬車の扉を恭しくセバスが開けてくれる。

ぼくは安定の兄様の抱っこで馬車から降りた。

馬に乗って移動していたアルバート様が同じ姿勢で固まった体を動かして解しているし、アリスターはぼくみたいに熟睡しているディディの体を激しく揺さぶっている。


『よし! ここは、しらないところだなっ。たんけんだーっ! おーっ!』


チルがぼくの肩からバビューンと止める間もなく飛び出して行った。


『ばかっ。まちなさいよーっ!』


兄様の肩からチルを追い駆けるように飛ぶのは、チロだ。


「あんまり遠くまで行かないように。遅くなっちゃダメだよ」


兄様が二人に声をかけるけど、聞こえているかな? 


「ヒューバート様」


セバスに名前を呼ばれた兄様が振り向くと、モンステラ伯爵様のお屋敷から執事服を着たお爺さんがこちらに歩いてくるところだった。

モンステラ伯爵様の執事さんに案内されてお屋敷の中に入り、壁にズラリと飾られた美術品をキョロキョロと見回しながら辿り着いた応接室には、モンステラ伯爵様その人がぼくたちを待っていた。


「ようこそ、お客人」


会釈程度にご挨拶をして促されるままにソファーに座るぼくと兄様。

白銀と紫紺はゴロリとぼくの足元で横になり、真紅は寝ぼけ眼で白銀の頭の上にベチャと平たくなった。

セバスとお屋敷の中まで同行してきたアルバート様はぼくたちの後ろに立つ。


「初めましてモンステラ伯爵様。これは非公式な面談となりますので、これからは僕たちのことはただの旅人として接してください」


モンステラ伯爵様は兄様の堂々としたもの言いに、ニッコリと笑って応じてくれた。

モンステラ伯爵様……たぶん父様より年上だろうなぁ、すっごい落ち着いた雰囲気の渋いおじさまです。

どことなくブルーベル辺境伯王都屋敷のセバスフィルに似ているかな?

ぼくは、伯爵様と兄様のお話を邪魔しないようにじっとしてなきゃと思いながら、そおーっと後ろを振り向いた。

アルバート様と目が合って、「なんだ?」と首を傾げられた。

ぼくはなんでもないと頭を左右に小さく振って、顔を前に戻す。


……兄様がみんなを代表して伯爵様とお話ししているけど、本当は大人のアルバート様が対応しないとダメなんじゃないの?

ちょっと面倒な仕事を兄様が押し付けられた感が否めないぼくは、その不満を白銀と紫紺をもふもふすることで紛らわした。










「レン、どうしたの? なんだか機嫌が悪そうだけど、疲れちゃった?」


いいえ、兄様。

馬車移動中、熟睡していたぼくが疲れるわけありません!

ジトッとした視線をアルバート様に向けると、彼はビクッと体を跳ねさせて「な、なんだよっ、さっきから、俺を睨むなよっ」とドモリながら抗議をしてきます。


「ぶーっ」


思いっきり頬を膨らませたあと、「べーっ」と舌を出してみせたら、素早くセバスの後ろに隠れましょう。


「あ、ズルいぞ!」


「何をしているんですか。レン様の不興を買うなんて、嘆かわしいですね。しかも貴方は今、冒険者として同行しているのですよ。それは依頼主にする態度じゃありませんよ」


ニコニコ笑顔のままそう言い放つと、セバスは何故かアルバート様の隣に立っているリンの頭をペシンと叩いた。


「あ、イタッ! なんで俺を叩くんだよティーノ兄!」


「お前の指導不足だ。いくら出来損ないでも主家の者に手は出せん」


そしてスタスタと歩き出すセバス。

兄様と手を繋いだぼくもその後ろにチョコチョコと着いていくけど、セバスって割と父様のこと叩いているよね? あれぇ?


「レン、気にしちゃダメだよ。それより早くセバスの婚約者に会いに行こう」


「……あいっ!」


ぼくは考えることを放棄しました、てへっ。


セバスの婚約者さんは、モンステラ伯爵様が経営する農場に建てられた小屋を研究室にしてお仕事をしているんだって。

今日も、その研究室にいるそうなので、これからみんなで突撃しに行くのです!

どんな人かなぁ、ぼくとっても楽しみ!


「なんかセバスの方から焦っている気配がするんだが?」


「そうね。なんかすっごく戸惑っている感じだわ。珍しい」


「ピイッ」

<冷血執事が動揺しているぜ>





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◆◇◆コミカライズ連載中!◆◇◆ b7ejano05nv23pnc3dem4uc3nz1_k0u_10o_og_9iq4.jpg
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