表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
202/473

アイビー国へ 3

ざわっと嫌な感じがぼくの眠っている体をひと撫でしていく。


「んゆ?」


「レン?」


ぼくの名前を呼ぶ兄様の声が遠くに聞こえる。

まだ、眠りの世界に留まっているぼくはその嫌な感じを追い駆けることなく、薄っすらと開けた瞼をそっと閉じた。


「あれ? また寝ちゃった?」


すうすうとぼくの寝息に、兄様たちがほんわかと微笑むのが見えた気がした……。










ビックリ!

起きたらアイビー国です!

それも国境門を越えてひたすら馬車を走らせて、すでにモンステラ伯爵領地の領都近くの町まで来てました!

ぼくは今日お泊りする宿に着いたので、兄様に起こしてもらって目が覚めたのです。


「ううーっ」


座り心地の悪い馬車の移動だったのに、熟睡してしまった。


「レン、気にしないのよ。白銀と真紅だってヘソ天で寝ていたんだから」


紫紺がフッと鼻で笑って教えてくれる。

白銀と真紅と一緒だったと聞いても嬉しくないし、そもそも神獣がヘソ天で寝てていいのかな?


「ヒューバート様、レン様。お部屋の用意ができたそうです」


セバスがぼくたちを呼びに来て、キビキビと宿の従業員に荷運びを指示していく。


「とりあえず部屋に行って、お茶でも飲んで休もうよ」


兄様の差し出した手に手を乗せて歩き出します。


「ヒュー、菓子もだぞ」


「ピイ」

<甘いのな!>


「ええ。ちゃんと用意させるよ」


白銀と真紅のおねだりにも快く答える兄様の手をギュッと握って、立派な木造三階建ての宿屋に向かい足を進めました。


今日はここで一泊して、明日の朝モンステラ伯爵が住む領都に出発します。

予定では明日のお昼ごろに到着するので、一応伯爵家に挨拶に出向き、翌日問題になっている神獣か聖獣がいるという森への調査です。


「アルバート叔父様。その森の魔獣の強さはどの程度なのですか?」


「ううーん、白銀と紫紺がいるからたとえSランクの魔獣でも余裕だと思うけどなぁ」


アルバート様はブツブツ言いながらも、一枚の大きな紙をテーブルに広げます。


「ここモンステラ伯爵領地内にある森、クラク森の魔獣の棲息図だ」


人里の近くには、定番のスライムとかホーンラビットとかが多く出没していて、森の手前には猪に似たボア系と猿に似たエイプ系の魔獣が出る。

中部から奥にかけて、狼や熊に似た魔獣が出てグンと危険度が上がり、人への被害も毎年出ているらしい。

さらに奥に行けば、蛇に似たサーペント系、オーガなどが棲息しているとか。


「ぼくとアリスターの実力では、ここまでぐらいですかね? それも数によります」


兄様は狼や熊が出没する範囲を指でトントンと叩いた。

熊はわからないけど、狼は群れて行動するからね。

兄様とアリスターが年齢の割に強くても、魔獣を複数同時に相手したら無傷でいるのは難しい。


「しろがね。しこん」


ぼくの不安を帯びた声に白銀と紫紺はのそりと立ち上がり、ぼくの両頬をペロリと舐めて安心させてくれる。


「大丈夫よ。アタシがいるのにヒューたちに怪我なんてさせないわ」


「おうよっ。むしろ手加減しないと森が消滅しちまうな!」


紫紺の言葉にホッと胸を撫で下ろしたアルバート様たちは、続く白銀の言葉に顔を青くした。


「しろがね。もり、こわしちゃダメ」


「お、おうっ。気をつけるわ」


そのままアルバート様が森の調査に入るルートを説明していると、セバスがお茶とお菓子をワゴンに乗せて持ってきてくれた。


この宿屋で一番広くて高い部屋に泊るぼくらには、専属のお部屋係が付くはずだが、セバスが笑顔で断り弟のリンをこき使いながら細々と世話をしてくれている。

みんなが集まっているこの部屋は、居間として使われる大きな部屋で暖炉とソファーセットが置かれている。

別にご飯を食べる食堂があって、客室が三部屋、使用人の部屋が二部屋あって、客室にはそれぞれトイレとお風呂がある。

前世テレビの情報番組で見たセレブが止まるラグジュアリーホテルの部屋を超える豪華さである。

ちなみに客間はぼくと兄様で一部屋、ザックとミザリー、アルバート様とリン、使用人部屋はセバスとアリスターという部屋割りになりました。


「ふーっ。何事もなく問題の神獣か聖獣と会えて、全てが丸く収まればいいけど」


兄様が紅茶をひと口飲んだあとに、ちょっと眉を下げてぼくの顔を見る。


「まだ、農作物の不作が神獣か聖獣の仕業と決まったわけじゃないしなー」


アルバート様が白銀と真紅に奪われまいと、焼き菓子を口に頬張りまくる。


「宿の者と話しましたが、やはり少しずつ手に入れにくくなっている野菜などがあるそうです。小麦が不作となれば民たちの不安が増すでしょうし、他国に助けを求めると言っても見返りを考えると難しいでしょうね」


セバスがお菓子に手を伸ばすアルバート様をぺしっと叩いて、ぼくと兄様にお菓子を取り分けてくれる。


「すぐに森に行きたいところだけど、伯爵への挨拶はしておかないとね」


「申し訳ありません」


「セバスが謝ることじゃないよ。ジャレッド殿下のこともあるしね」


明日、兄様が挨拶に行くモンステラ伯爵様には、ブリリアント王国の第二王子であるジャレッド様が留学中にお世話になっていたことと、セバスの婚約者が現在、伯爵様のお屋敷に滞在しているのだ。


「ぼく、たのちみ」


セバスの婚約者さんってどんな人かな?

セバスがなんでもできるスーパー執事なんだから、きっと婚約者さんもなんでもできる凄い人なんだろうなーっ。


「レン様……。いや、お会いすればわかりますしね」


セバスったら、照れているのか婚約者さんのこと詳しく教えてくれないんだよ。


そして、新しい神獣か聖獣と会うのも楽しみ。

これは、声に出して言うと白銀と紫紺がヤキモチやくから内緒だよ。








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
◆◇◆コミカライズ連載中!◆◇◆ b7ejano05nv23pnc3dem4uc3nz1_k0u_10o_og_9iq4.jpg
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ