表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
196/473

レンの日常 5

あれ? なんでだろう。

胸のところがムカムカするし、モヤモヤする。


「アリスターもいっしょ!」


兄様の服を両手で掴んで大声で主張してみる。


「レン? そ、そうだね。父様、アリスターはまだ正式な騎士ではありません。ぼくの従者として同行はできますか?」


「あ? ああ、大丈夫だろう。アイビー国まで往復するのに三か月はかかる長旅だからな。こっちからはメイドも連れて行けないし。アリスターもヒューの友人として連れて行けばいいだろう」


むむ?

今、ぼくはとんでもないことを聞いたような?


「さんかげちゅ?」


ブループールの街を出てアイビー国に行って帰ってくるだけで三か月もかかるの?

だってアイビー国に着いてから、農作物の不作原因を調査して、神獣か聖獣と会ってお話しして……もっと日数がかかっちゃう?


「うっ」


目が……ジワジワと熱くなって、胸がきゅうと痛くなって……なんか、我慢できない!


「うわーんっ。ぼく、いかない。おうちにいりゅ。わーん」


涙がポロポロと零れてきて、抑えられない気持ちがわあわあと口から溢れ出てしまう。


「レン? どうしたの? そんなに泣いたら……」


いつも落ち着いて冷静な兄様が、大泣きしているぼくを持て余してオロオロとしている。


「なんだ! どうした、レン。ええっと、ど、どうしよう」


父様はソファーから立ち上がりこちらに手を伸ばしては引っ込めて、座ったり立ったりを繰り返している。


「レン?」


「泣かないで」


白銀と紫紺が慌てて駆け寄って、ぼくの真っ赤な頬をペロペロと舐めてくれるけど、ぼくの目からは涙が止まらない。


「わーん。いやー。おうちにいりゅ。どこもいかないーっ。うわーん」


隣にいる白銀と紫紺の体をえいやっと両手で押しやって、心配で伸ばされた父様の手をペチンと叩いて、兄様に向かってイヤイヤと頭を左右に激しく振って見せる。

どうにもできない焦燥が胸の中でグルグルして、居心地の悪さにダンダンッと足を踏み鳴らすけど、もっとモヤモヤしてきて、その場にビタンと寝っ転がって四肢をジタバタさせて、わーんわーんと泣き声を上げ続ける。


「ダイアナ。どうしょう。レンがあんなに泣いて」


ウィル殿下もびっくりした顔でぼくを見ている。


「あら、ただの癇癪でしょ。放っておきなさい」


ダイアナ……冷たい。

でも、なんでぼく、こんなに悲しいの? 苛立たしいの?

こんなに泣いたら、みんなに迷惑だよ、ほら泣き止んで「ごめんなさい」しなきゃ。

そう思うのに、きゅっと結んだ唇はブルブルと震えて、「うわーん」と泣き声を上げることになってしまう。

あれれ? ぼく……どうしちゃたの?








レンが泣いている。

子供は泣くもんだとわかっているが、ヒューバートは大人しい子でこんなに激しく泣いたことなんて……いや、あるか?

いやいや、でも、レンは本当に大人しくて聞き分けがよくて、なんで急に大泣き?


「ど……どうしよう」


オロオロする俺とあたふたする白銀と紫紺、呆然とするヒューの間を颯爽と通り抜けて、レンの前に膝をつくセバス。

セバス? いつの間に。


「大丈夫ですよ、レン様。嫌ならアイビー国に行かなくてもいいのです。ここにいていいのですよ」


寝っ転がっていたレンを、優しい手つきで抱き起しポンポンと優しく背中を叩く。


「ック。ヒック。いきたくないの、ここにいたいの。リカ……リカちゃんといっしょ」


「ええ。リカ様もレン様と一緒に過ごしたいと思ってますよ。ヒューバート様とも一緒に」


まだショックが残っているのか、ヒューバートは言葉が出ずにウンウンと頭を上下に強く振っている。

おい、俺は? セバス、俺のことは?


「さんかげちゅ、ながいの。ぼく……みんなといっしょ」


「ええ。リカ様もレン様と長い間、離れたくないでしょう」


それから、セバスはレンの涙が止まるまで抱きしめていた。


「レンちゃん。大丈夫?」


「アンジェ?」


レンの泣き声が聞こえたのか、いつもはリカが過ごす子供部屋にいるアンジェが、いつのまにかセバスの隣に腰を下ろし、レンの頭を優しく撫でている。


「かあたま」


「あらあら、おめめが真っ赤ね。少し休みましょ」


セバスからレンの小さな体を受け取り、よいしょと抱き上げる。


「アンジェ。俺が運ぶよ」


「大丈夫よ。レンちゃんは久しぶりに母様とお昼寝するの」


ふふふと柔らかく笑うとレンの頬に頬ずりして、たぶん【身体強化】をかけた体でスタスタと歩き部屋を出て行った。

セバスは、その後に続きながら、「レン様が起きたとき食べられる軽食の用意を」とあちこちに指示を出していった。


「いったい……なんだったんだ……」


レンが泣いていた理由はなんとなくわかったけど、そんなことであんなに泣くんだろうか?

置いていかれた俺たちが立ち尽くす中、問題の元凶でもあるダイアナはウフフフと怪しく笑い、長い髪をかき上げた。


「あー、面白いものを見せてもらったわ。じゃあ、帰るわ。アイビー国行きの返事はまた改めて聞きに来るわね」


バチンとウインクをしてウィル殿下と共に転移魔法で王城へと帰っていった。


いったい……なんだったんだーっ!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
◆◇◆コミカライズ連載中!◆◇◆ b7ejano05nv23pnc3dem4uc3nz1_k0u_10o_og_9iq4.jpg
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ