レンの日常 4
改めて、今回ブリリアント王国第二王子ジャレッド様からの使者、ウィル殿下が……無理だから代わりに闇の上級精霊ダイアナさんが説明してくれました。
ブリリアント王国に助力を頼んできたのは、ブルーベル辺境伯領地とはちょうど王都挟んで反対側に位置するお隣の国、アイビー国。
豊かな森と広大な農地を持つ穏やかな国で、王制。
今の王様はエルフ族で、ジャレッド様がつい最近まで留学していた国です。
何年前からか、少しずつ農作物や果実などの不作が聞こえてきたけど、最初はそんなに深刻に捉えていなかった。
毎年豊作なんて都合の良いこともないだろうと。
でも、徐々に不作を訴える領地が増えてきて、土地が痩せてきた。
日照りが続くこともなく、長雨が降り続けることもなく、大風も吹いていないのにも関わらず、不作な農地が広がり、森の木々は実をつけない。
「そして、とうとうモンステラ伯爵領地の土地が痩せてきて焦りだしたってわけ」
アイビー国のモンステラ伯爵領地は、小麦を育てているし薬草も豊富な土地らしい。
国のあらゆる農地、森が不作に苦しめられているなか、変わらずの収穫高だった土地だったのに、とうとう森の木々の枝が落ち、土地がポロポロと痩せてきた。
「ジャレッド兄様がお世話になっていたのが、そのモンステラ伯爵家なのです」
ウィル殿下がしょんもりと眉を下げて、呟く。
たぶん、ジャレッド様はエルフ族の王様にウィル殿下のことを相談していたんだろうなぁ。
ぼくは、眉と同様にしゅんと下がったウィル殿下の長い耳を見た。
「そして、そのモンステラ伯爵領地の森の奥に、神獣か聖獣が住んでいるらしいのよ」
その神獣か聖獣の恩恵で、アイビー国が不作に悩まされてもモンステラ伯爵領地の土地は大丈夫だったと思われているんだって。
つまり、神獣か聖獣はアイビー国のあちこちの土地から「気」を集めているから、他の土地が元気がなくなっていて作物が育たないじゃないかと。
神獣か聖獣が集めた「気」が漏れて、モンステラ伯爵領地の土地の作物は豊作のままだったのでは、と。
「そうなの?」
ぼくが、木魔法が得意な紫紺に尋ねると、紫紺は不機嫌にピシンと尻尾を床に叩きつけた。
「そんなことしないわよ。土地から何を集めるの? 集めたところで能力の強化にもならな……い……?」
「んゆ?」
紫紺が、犯人は神獣か聖獣犯人説を否定している途中で言い淀んだよ? なんか真紅を見ているけど……。
「あー、バカな奴だったらするかもな」
「……そうね。否定できないわ」
白銀までも、シュークリーム塗れになっている真紅を冷たい視線で見ている。
「その神獣か聖獣も、真紅みたいに力を取り戻そうとしているとか?」
兄様の推理に白銀と紫紺は、うーんと渋い顔をしてコソコソと二人で相談し始めた。
なになに? ぼくも混ぜて。
「どう思う?」
「まずドラゴンじゃないでしょ。あいつ、あの山から下りてこないし。ユニコーンでもないわよね?」
「ああ。アルバートの奴らがユニコーンは泉にいるって話してたからな。あとは、あいつと……あいつか……」
白銀の顔がくしゃっと歪み、紫紺はパアーッと笑顔になった。
「なら、あの子じゃない? あいつは人の迷惑になるようなことはしないでしょ。優等生ちゃんだから。となると、やっばりあの子ね!」
「げえええっ。俺、あいつ苦手なんだよなぁ」
どうやら、モンステラ伯爵領地の土地にいる神獣か聖獣の予想がついたみたいです。
「ねえねえ、だれなの?」
白銀と紫紺の間に体を捩じりこませて、二人の顔を交互に見てみる。
「「うっ!」」
ドラゴンさんとユニコーンさんにも会いたいけど、まずはそのモンステラ伯爵領地にいる神獣か聖獣に会いたいです。
「しかし、困ったなぁ」
父様が抱え込んでいた頭を上げて、ふうーっと息を吐く。
ぼくは白銀と紫紺の前足をそれぞれ抱えて「おしえて、だあれ?」としつこくしていたのを、兄様にひょいと捕獲されソファーに座らされる。
「僕とレンでアイビー国へ行けばいいのでは? 不作の原因が神獣か聖獣じゃなかったら、ただの旅行になりますけど」
「うーん、しかし騎士団は動かせないぞ? 白銀と紫紺だけで行って帰ってくればいいが」
父様がチロンと白銀と紫紺へ視線を投げるが、二人は頭をブンブンと左右に激しく振って断固拒否の姿勢。
「だめか……」
「どうして、騎士団を動かせないんですか?」
どうやら、ブルーベル辺境伯騎士団を動かせば、ブリリアント王国が動いたと同意となり、白銀たち神獣と聖獣がブリリアント王国に……以下同文。
なので、アイビー国に確認に行くとしても、騎士団や父様は同行できないとのこと。
「ぼくだけ?」
コテンと首を傾げて尋ねれば、父様は「ううっ」と胸を押さえたあとコホンと咳払いをして答えてくれた。
「ヒューは一緒でもいいだろう。でも俺はなぁ、正式に伯爵位に就いちまったから。バーニーたちも護衛に回せないし……」
「俺たちが一緒なら護衛はいらんがな」
なぜか白銀がえへんと胸を張る。
「ギル。せめてアルバートたちパーティーに護衛依頼を出して同行させよう」
セバスの助言に頷いて父様はサラサラと紙に何かを書いていく。
「父様。騎士団が動かせないってことは、アリスターも同行できないんですか?」
「えっ!」
兄様、それはダメだよ! アリスターがお留守番なんて、ぼくやだ!